調査任務(1)
揺れている。躰に受ける微細な振動。
眠りの中にあった意識は、身体を揺り動かす小さな振動によって少しずつ覚醒へと向かっていく。
更なる覚醒を促すように、淡い光で周囲が優しく照らされていく。
『クオン、おはようございます』
眠り眼をゆっくりと開くと合わせてスクリーンが点灯する。
のそりと身体を起こしたクオンは、ふぁっと欠伸をしながら目を擦る。
「……おはよう」
倒れていたシートが起こされ、背中にフィットする。
シートが定位置に固定されると壁から水の入ったボトルが出現する。
『体内の水分量が不足。水分補給を実施してください』
「ふぁい」
ボトルを手に取り、言われるままに水分を接種する。
乾き気味だった口の中に水が広がり渇きを癒していく。ほどよく冷えた水のおかげで、身体の火照りが取れる。
ようやくクオンの意識が完全に覚醒する。
そして目の前のスクリーンに映る映像を見て、盛大に訝しんだ。
「えっと、あなたはサクヤでいいの?」
目の前には、仮想現実で散々殺し合いをしたサクヤのアバターが映っていた。
もっと言えばクオンの未来の成長した姿が、等身大で投影されていた。
『肯定、私はサクヤです』
「なんでアバター?」
『先の仮想空間でのデータから、貴方とのコミュニケーションに最適と判断された結果です』
スクリーンに映った黒髪の女性が淡々と受け答えをする。
なんだろう。改めて、自分の成長した姿に対峙するのは少し妙な気分だ。正直に言えば落ち着かない。
「別のアバターにできなかったの?」
『仮想空間での行った休息時に、同アバターに同衾を要求した点が考慮された模様です。パーソナルスペースへの侵入を許す以上、少なくとも嫌悪を抱いていない筈なので、同アバターをそのまま使用する形となりました』
「その姿でいられるとおちつかないんだけど……」
『慣れてください』
「私の意志は?」
『要望は承ります』
つまりは伝えるけど、聞いて貰えるかは保障しないと言う事なのだろう。
下っ端はつらい。上の言う事には素直に従わなければならない。
「せめて、服装を少し変えられない?」
『その程度であれば即座に対応可能です』
「なら、管理者を連想できる服装とかない?」
『AIがボディを得た際のデフォルト装備であれば指定なく再現可能です』
「じゃあ、それで」
『リクエスト承認。アバターに反映します』
漠然としたリクエストを伝えるとスクリーン上のサクヤのアバターが消去され、再び表示される。
今度のアバターは、黒のプラグスーツに白を基調としたテーラージャケット。更に、右足にレーザーガンが収められた白いタクティカルガンベルトを装備していた。
ジャケットの襟や胸の一部に徽章が入っている。クオンに刷り込まれた知識からすると所属や階級を示している。
サクヤの襟に輝く衛星をモチーフとした徽章は人工知能を示すモノだ。
「うん、似合っている」
『では今後は、この服装をアバターに反映します』
「で、私を起こしたこの振動は一体何?」
目覚める前から感じていた振動の正体を問いかけるクオン。
『現在、惑星ラグナのへの降下シークエンスを実行中。振動はその影響によるモノです』
「降下?なんで?」
『クオンの配属先が、惑星ラグナの第一○七調査基地に設定されたため、移送が行われております』
「……満足に技能習熟が完了していないのに?」
基本技能の習熟を開始したばかりだと言うのに、いきなり実働配備されるのはおかしくないだろうか?
理解できない事態にクオンは混乱した。
『クオンが惑星ラグナに興味を示したことに加え、休息時に惑星の大気圏内の環境を望んだ為、環境適応能力が他のユニットよりも高いと判断された結果です。技能については、地上施設でも習熟可能です』
「それにしたって早すぎる気がする」
『現在、当惑星のユニットの充足率が不足しています。その改善のため、優秀と判断されたユニットが早期に実働投入される傾向があるようです』
疑問にこたえる形で、サクヤがスクリーン上に情報を表示する。
スクリーンには、惑星ラグナに設置されている施設ごとのユニット充足率が表示される。
「重要度の高い情報なのになんで私が閲覧できるの?」
『当該惑星において敵性の知的生命体は確認されておりません。それに伴い、該当情報の開示条件が緩く設定されております』
「へぇって、全体平均が80%を切っている。いくらなんでも低くない?」
表示されている施設の充足率は、どれも70%代。低い施設になると60%代も確認できる。スクリーン上の惑星ラグナを回転させて、ひとつひとつ数値を確認していく。
「私の配属先は特に低いけどログは確認できる?」
確認してみると他の施設と比べても特に数値が低い。
『該当情報の取得に必要な権限が不足しています』
「さすがにそこまで甘くないか……」
返って来た答えにクオンは眉をひそめる。
十中八九、ユニットの損失が原因だろう。
クオンはそう結論付けた。
問題は、クオンより技能を身に着けている筈のユニットが失われている理由だ。
ちょっとした事故によるロストなら仕方がないが、全体的に数値が落ち込んでいる点を考慮すると事故の線は薄そうだ。
「前途多難ね」
『同意いたします』
クオンが調査基地に到着したのは、それから暫く立ってからの事だった。




