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近接戦闘訓練(6)

(またダミーですか……)


 生み出された虚像の足を撃ち抜いたサクヤは、すぐに周囲に視線を巡らせた。濃い白煙越しに大きく動く人影を探すが、目標の補足はできなかった。

 耳からの情報に頼るが、ダミーポイントから発生する音のせいで相手の位置を特定する情報は得られそうになかった。やむを得ずダミーポイントをレールガンにて処理する。


(たいしたものです)


 クオンの位置は完全に見失っていた。

 白煙とダミーポイントを上手く利用し、見事にサクヤの補足を振り切ったと言える。限定されたドーム空間内にて、AIが操る兵士の補足を振り切る手練手管は賞賛に値する。


 サクヤは現状に至るプロセスを冷静に評価していた。

 クオンがサクヤの戦闘ルールを把握しつつあるのは、行動から見て取れた。

 装備を使い切るようにしながらも、次の戦いで少しでも分析ができるよう意図的に装備を取得し供給する。それを何十回と行い、サクヤに課せられた戦闘ルールを把握するに至ったのだろう。

 把握している戦闘ルールは、殺害方法の重複だろう。

 ひょっとすると他のルールにも感づいているかもしれないが、今のところそれを感じさせる行動はとっていない。


(やはり他のスレイブユニットとは違いますね)


 サクヤはクオンをそう評価していた。

 他のスレイブユニットの戦闘データを比較するとクオンの戦闘は異質だった。一般的な交戦ユニットを相手にしていたのであれば、初戦のグレネードで終わっていただろう。

 サクヤが対応できたのは、過去の戦闘データを保持していたおかげだ。


(特一級特殊個体というのは、こういうものなのでしょうか?)


 クオンが戦闘意欲を喪失までに費やした回数は僅か二戦。

 本来なら十数回は戦わなければ至ることができない段階に、たった二戦で至った。立ち直るまで相当数の死を体験することとなったが、それでも優秀過ぎる結果と言える。しかも三桁を超えた辺りでサクヤの戦闘ルールに感づいた。

 一般的な個体であれば漫然と交戦を続けるだけで、サクヤの戦闘ルールに気づきもしない。それが普通なのだ。


 取得した情報を元に相手を分析する。言葉にするのは簡単だが実際は難しい。

 襲い来る死の痛みや恐怖の中、冷静に相手を観察し情報を収集しなければならない点。そして、その情報を吟味し分析しなければならない。

 いくら復活すると言っても感じる痛みは現実さながらである。痛みを理解していない生まれたてのスレイブユニットが、死に至る痛みと相対して正気でいられる訳がないのだ。


 そもそも正気でいられないようにするプログラムが組まれている。

 毎回、殺害方法を変えるのもそのためで、痛みに慣れさせないよう連続して同じ苦痛を与えない。これは戦闘訓練の形式をとった苦痛体験プログラムなのだ。

 そして、最低限戦えるユニットにする。

 無抵抗なユニットや怯えるユニットを容赦なく殺すのもそれが理由だ。つまり、数多の苦痛を体験した上で戦えるようになれば目的は達成と言える。

 対戦相手を戦闘不能に追い込むまで続けるとしているが、それは戦わせるための方便でしかない。戦闘データを蓄積するため規定回数戦うよう定められているのだ。早期にAIを戦闘不能に追い込めたとしても別のプログラムが組まれるようになっている。

 そもそも戦闘経験が乏しいスレイブユニットが、数多の戦闘経験を蓄積しているAIユニットに勝てるはずがない。偶発的な事故でもない限り、傷を負うことすら珍しいレベルだ。実際、戦闘不能に追い込まれたAIユニットの事例は全体の百万分の一にも満たない。

 既出事例ではあるがAIユニットを殺しうる奇襲ができた時点で、クオンはおかしい。


(規定に則ればすでに終了条件を満たしています。ストレス状態を考えても、そろそろ終了させた方がいいでしょう)


 周囲を警戒しクオンの出方を待っていたが、一向に仕掛けてくる気配がない。

 白煙が薄まり、サクヤの胸の高さ以上であればドーム全体を視認できるようになっている。


(このデータは貴重ですね)


 サクヤの肉体は十分に発育した大人の肉体。対するクオンの肉体は、未成熟な子供の肉体だ。スモークが下部に滞留しているこの状況は、クオンに有利なフィールドと言える。

 施設機能とスモークを用いてフィールド環境を変化させ、有利なフィールドを形成する。このデータはサクヤの保有するデータには存在していない。


 再度、周囲に視線を巡らし煙のゆらぎを観測する。空気の流れを変えるような激しい動きはしていないようだ。


(ダミーポイントのフィールド設置は1~3発。先ほどのダミーで使い切ったとも考えられますが残っている可能性も高い)


 クオンが取りうる想定戦術に思考を巡らす。

 射撃での殺害が禁止されている以上、レールガンは使えない。音などの参考情報がない状態ではどのような体勢を取っているか分からないからだ。

 となるとナイフを用いた刺突での殺害が望ましいのだが、これは隙が多い。斬撃と比べてどうしても動きが制限されるので格好の的になる。

 投擲での殺傷も可能ではあるがナイフを手放すことになるので、ダミーの可能性がある以上この方法は使えない。レールガンを投擲武器として使用することもできるが撲殺と判定されるため、これも使えない。

サクヤの行動は、見事なほど封じられていた。


(仕方ありませんね)


 状況から自己決定を下したその時、人影らしきモノがサクヤの視界に入る。惑星ラグナを一望できるウィンドウ前、そのスペースに影が現れたのだ。

十中八九、ダミー。

 サクヤはそれが分かっていながら、そこへ向かって疾走した。フロアの中央を走り抜け、障害物を華麗に飛び越える。そして目標直前で大きく上に飛んだ。

 ダミーの直上をサクヤが舞う。クオンが存在すると予想した唯一の死角であり、絶好の射撃ポイントであろうソファーの影を目視で確認するために。


 予想外の結果を目にする。

 予想したポイントにクオンは存在していなかったのだ。白煙は既に膝下まで領域を狭めており、クオンの身長でも隠れることのできる場所は存在しない。

滞空しながら視線を巡らし、他のポイントを探すがそちらでも確認ができない。


 ダミー虚像を飛び越え、ウィンドウの前で着地する。

 改めて視線を巡らし周囲を確認するが、やはりクオンの姿は確認できない。


「テイクよ」


 響く言葉と共に鮮血が舞った。

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