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スレイブ(1)

『———我々は新たなスレイブの誕生を歓迎いたします』


 告げられた言葉の意味に関心はない。

 自分が奴隷であることをType-HN774は、生まれながらに知っていたからだ。

 それよりも今は五感を通して届けられる全てが新鮮で尊く感じた。



『Type-HN774、機能試験・甲01。言語及び認知機能、知識定着確認を行います。理解しているようであれば標準言語にて、了承の言葉を述べてください』

「……だい……じょう……ぶ」


 Type-HN774と呼ばれた個体が、口にした言葉はたどたどしい。

 上手く舌が回らず、うまく音を繋げることができなかったようだ。

 言葉を発するという簡単なことが十全にできない事実にType-HN774は、眉を顰めた。


『了承を確認。言語認知試験クリア。加えて、言語機能に障害を確認。覚醒時に発生する硬直現象であると推定。機能試験・甲01を中断。甲02へ移行します。Type-HN774、姿勢は長座位のまま首を左右に動かしてください』


 耳に届く指示に従い、Type-HN774は身体を動かしていく。

 首から始まり手足へとひとつひとつ丁寧に確認する。

 特別に意識することなく指示が耳に届くと意味を理解し、指示通りに身体を動かすことができた。

 身体を動かす過程で自分がヒューマノイドであることや手足がやや短く未成熟であることを認識する。やや肌の色素が薄いように見えるが、特に抵抗はない。

 全てを事実として受け入れるだけだ。


『機能試験・甲02をクリア。続いて甲03へ、ポッドから離脱しその場に直立してください』

「りょうかい」


 指示されると了承を知らせる言葉がType-HN774の口から零れた。

 まだ少し違和感があるが、自然に近い活舌だった。


『Type-HN774の言語機能の改善を確認。甲03を継続しますが、発言可能であればどのような言葉でも構いませんので、積極的に発言をしてください』

「ひょうじゅんげんごいがいでも?」

『標準言語で発言することを推奨します』

「りょうかい」


 己の身体が改善傾向にあることを自覚するとType-HN774は、ゆっくりとポッドから身を乗り出し、立ち上がった。

 暗がりで見えにくいが、前方にはガラスのような透明なスクリーンが置かれていた。


『前方に5歩進んでください』


 Type-HN774は言われた通り、5歩前進する。


『機能試験・甲03をクリア。ポッド格納シーケンス実行。成育ポッドを格納庫へ移動』


 音声と共に背後にあったポッドのハッチがしまり、勢いよく排出されていく。

 その後、部屋の床がスライドしレールが綺麗に格納される。


『リニアレールを格納完了。各種観測機器を起動』


 照明に照らされて、真っ白な部屋が姿を現す。

 Type-HN774とスクリーン以外は何も存在しない空間である


『甲04へ移行します。指示に従い歩行を行ってください』


 歩行動作の確認を粛々と行っていく。

 その場での足踏みから始まり、速足にターンなど歩行で考えられるありとあらゆる動作をひとつひとつ消化していく。


『甲05へ移行します。スクリーンに投影されたシルエットと同じポーズを———』

「ちょっと待って」


 それまで指示に忠実に従い続けたType-HN774が待ったをかける。

 スクリーンに光が灯り、シルエットが表示される。


『言語機能の更なる改善を確認。Type-HN774どうしました?』

「このままやるの?」

『機能試験は順調に推移しております。中断が必要なレベルの問題は検知されていません』

「本当にこのまま?」

『質問の意図が理解できません。説明を求めます』

「裸、なんだけど?」

『肯定、個体名Type-HN774の状況把握能力は、正しく機能しています。Type-HN774は着衣しておりません』


 Type-HN774の問いかけに対し、淡々と事実を告げる機械音声。


「裸でこのポーズを?」

『肯定』

「服を着ることは?」

『成育ポッドからの出た際の機能試験では、着衣で行うことを認められていません』

「なんで?」

『主要な理由は、成育個体の観測データ収集の妨げになるためです。例外はありません』


 無機質な声が簡潔かつ明瞭に回答していく。


「つまり四つん這いや開脚姿勢をとる必要があると?全裸のまま」

『肯定。正確には138通りのポージング動作を行います』


 生まれて30分も経過しない内に、全裸のままで数多のポージングを要求される事実をType-HN774は受け入れ難かった。

 生まれたばかりであってもType-HN774にも羞恥は存在している。

 そうであるように作られているのだ。


「何かの冗談?」

『否定。観測データ収集の観点から非常に理に叶ったものです』

「360度全ての方向から観測?」

『否定。平面軸線の360度ではありません。あらゆる角度から様々な観測機器を用いて、データ収集を行う全周観測です』


 無機質な声で、何の慰めにもならない訂正を受けるType-HN774。


「映像データも?」

『現在の会話内容を含め、重要データとして収集中』

 

 現在進行で全周観測中、裸を。

 Type-HN774は、改めて事実と告げられたことで強く事実を自覚する。

 こみ上げる羞恥心で体温が上昇するのが分かった。


『Type-HN774の心拍&体温などの上昇を確認。精神面で不安定であると推測されます。観測データの安定化のため、平静を保つことを推奨します』

「……服を着られたら、平静になれる」

『三つの観点からそれは不可能です』


 一縷の望みをかけて望みを口にしてみるが、バッサリと切り捨てられる。


「規則は理解しているけど、他は?」

『ひとつ、服の装着権利の不保持。ひとつ、装着可能な衣服の不保持。以上の理由からType-HN774は、着衣していないのがデフォルトなのです』

「…………」


 告げられる無慈悲な事実にType-HN774は、返す言葉を持ちえなかった。


『装着権利&衣服は、試験項目を消化したスレイブに与えられるモノであり、誕生したてのスレイブが試験項目消化前に取得するのは不可能です』


 追い打ちをかけるように更なる事実を突きつけられたType-HN774は、その後黙々と指定のポーズを取り、試験項目を消化していくのだった。

 1秒でも早く服を着るために、涙目で。

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