近接戦闘訓練(4)
たった二回の交戦と死。
覚悟して挑んだ筈のクオンの心は、それだけでへし折れた。
そこからは始まったのは、地獄だった。
三戦目の交戦は、距離を取っての銃撃戦。連射ができないレーザーガンを用いるサクヤに対し、マシンピストルを用いた連射。
勝つことを目的とせずとにかく相手に傷を負わせ、ダメージを負わせることだけを目的とした。遮蔽物を利用しポジションをかえつつ射撃をしたにも関わらず、的確に手の平を撃ち抜かれる。ダメージからのリカバーを試みている僅かの間に、接近を許しナイフで首を切り裂かれる。
四戦目、首を切り裂かれた恐怖から立ち直る間もなく始まり決着した。
恐怖に震え満足に動けないクオンに対し、マシンピストルによる銃撃が行われる。結果、肺と腹部、心臓に穴を開けられる。
五戦目、距離を取り続けるクオンの足を的確に撃ち抜き足を止める。それによって生じた僅かな隙を利用しサクヤは死角に回り込む。クオンは背後から絞殺された。
六戦目、マシンガンによる弾幕を遮蔽物で躱しながら接近。至近距離まで到達したところで瓦礫を投擲され頭を粉砕される。
七戦目、奪取されたマシンガンで利き腕を吹き飛ばされ、動きを止めた瞬間に全身をハチの巣にされる。
八戦目、ブレードを奪われ、そのまま胴体を切断される。
九戦目、地面に組み伏せられ、圧死させられる
十戦目、胸部への踵落としで脊柱を折られる
十一戦目、奪われたブレードで壁に張り付けにされる
十二戦目、貫手で首を抉られる
十三戦目、撲殺される
十四戦目、殺される。十五戦目、殺される。十六戦目、殺される。十七戦目、殺される。十八戦目、殺される。十九戦目、殺される。二十戦目、殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される―――
「テイク、再構築を開始」
再びクオンの肉体が構築される。
クオンは構築完了と同時に距離を取り、銃を構え引き金を引く。
そして、また殺される。
ルーチンワークのように殺され再構築される。
もはや数えるのも馬鹿馬鹿しいほど、クオンは死を体験していた。
射殺、圧殺、刺殺、殴殺、斬殺、扼殺、撲殺、絞殺、焼殺、毒殺、爆殺。この場で考えられるあらゆる死を体験していた。
周囲に広がるのは、破壊の限りが尽くされた施設痕。抉れた床や融解した柱、斜めに切断された遮蔽物。それらは全てがクオンの死に関わっていた。
時間経過によるものだろう。付着した血液の一部は、粘性を失い浅黒い色へと変色していた。
繰り返される死の連鎖によって、クオンの恐怖は消え去っていた。
より正確には、繰り返される死によって感情という感情を強引に削りとられたのだ。痛がっても殺され、怯えを見せても殺される。怒っても悲しんでも殺される。何をしなくても殺され、何をしても殺される。
唯一、抜け出す方法は目の前の存在を殺すことだけ、だから感情が切り離された。
クオンは目の前の存在を殺すため、肉体を動かす。
戦いながらクオンは、目の前の殺人AIの行動基準を検証していた。
教えられたルールに抵触しない限り、サクヤを縛るルールは存在しない。
そう思っていた。
だが違った。縛るルールは存在する。
きっかけは長い銃撃戦の後だった。
遠方からのヘッドショットで殺された後に、再び銃撃戦が開始された。その際、明らかな隙があったのに致命部位に銃撃を受けなかったのだ。頭や胴を撃ち抜ける隙が存在していたのに殺されなかった。
クオンは疑問を抱いた。
三桁を超えて殺され続けているにも関わらず、同じ殺害が連続して行われないのは、果たして偶然なのか?と
対戦相手が変わらず武装が同じなら同じ殺され方をするのが自然だ。それにも関わらず死因が被らない。必ず別の方法で殺されるのだ。
この事実に気づいた時、クオンの目に光が戻った。
それまでは形だけの抵抗をするのみだったのが、明確な目的を持った抵抗へと変わった。繰り返される地獄から抜け出すために、徹底的に抵抗をしてルールを分析した。
そして結論に至った。サクヤは連続して同じ殺害ができない。
より正確に言うのなら「クオンを同じ方法で殺すためには、別の方法で三回殺さなければならない」のだ。
具体例をあげるなら射殺された後は、必ずそれ以外の方法で三回殺される。射殺や刺殺が連続したりしないのだ。射殺したら刺殺や殴殺、絞殺など別の殺害方法が三回採用される。射殺が解禁されるのはその後だ。
つまりサクヤは常に三つの殺害方法を封じられていると言える。
クオンはこれを利用することにした。
まずは武器の制限。新たに取得する武器を限定し、攻撃方法を限定する。既に供給されてしまった武器については破壊もしくは弾切れを狙う。
当然、あからさまにならないよう武器の取得は行うが、奪われる前に使い切る。隙の多くなりそうな武器は取得しない。それらを徹底した。
並行してランダム設置された武器の把握も行った。どの場所に何がどう配置されているのか?それをひとつひとつ確認していく。
死を迎える度に、ひとつまたひとつと準備を進めていく。
武装の破壊が難しいなら一発でも多くの弾撃たせる。ブレードやナイフはデリケートな部位にダメージが蓄積するよう行動をする。
端末を操作して、遮蔽物の配置を意図したモノへと少しずつ変化させる。流行る気持ちを抑えながら、偶然を装いつつ着実に準備を進める。
準備だけではない。
有効な戦法を探るため、積極的に攻撃も行った。
対象の反応速度や目標に対する優先度など、攻略の糸口になりそうな情報収集は徹底的に行った。
全てはこの地獄を抜け出すため、クオンは何度殺されても構わず準備を進めた。
死亡回数が三百に届きかけた時、反撃の準備は整った。




