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近接戦闘訓練(3)

 銃創から大量の血が流れ出る。

 的確に中央を撃ち抜かれた心臓が、機能を失い全身の血流が止まる。


 知識として心臓を撃ち抜かれると死ぬとあるのだが、どうやら即死するわけではないらしい。

流れ出る血液と共に全身から熱が奪われ冷えていくのがクオンには分かった。

 寒い先ほど抱えていた寒さなど比較にならない。全身を巡る熱が抜け落ち、身体の機能が失われていくのが分かる。

 身体から感じるものだけではない。精神の欠落、感情が希薄となり心の動きが緩慢になっていく。水滴が蒸気となって消えるように精神が霧のように抜けていく。


 自己の喪失。

 死の感覚をそう理解し時、クオンは身体から命が抜け落ち瞳から光が失われた。

 まごうことなき死。仮想空間でありながら、それを完全に再現していた。


「個体名、クオンの死亡を確認。再構築を開始」


 サクヤの言葉に応じて、光の柱が立つ。

 光の柱の喪失と共にそこへ現れたのは、たった今死んだばかりのクオンそのものだった。


「死を経験した感想はいかがですか?」


 サクヤが声を掛けるとクオンはゆっくりと目を開いた。

 朧げに目の前の人物を把握し、自身の身体を見下ろすクオン。傷一つない自傷する前の自分の身体。先ほどまで感じていた寒気も喪失感も消え失せ、まるで何事もなかったかのようだった。

 しかし、確かにクオンは死んだ。この仮想空間で

 そうはっきりと知覚できるのは、少し離れた場所に自分だったモノが転がっているからだ。


「あまり気持ちのいいものじゃないかな」


 自身の死体を見つめ、そう言葉を漏らす。

 瞳孔が開き、生命の息吹を感じさせる呼吸運動がない。それだけにも関わらず己とそっくりな死体が転がっているという事実は、クオンの心をざわつかせた。


「そう捉えるのは、生物として正常です。死とは生命を司るモノにとって忌避すべきモノでなければなりません」

「正常であることを望んでいないのではなかったの?」

「極度に死を恐れる場合を除き、適度に自己保存の欲求を持つことは推奨しています。過去のスレイブユニットの活動記録からも恐怖を感じる個体とそうではない個体とでは、活動期間に大きな開きが確認できるため、その点については生物として正常であることが望ましいとされています」

「随分都合のいい基準ね」

「否定はしません」


 非難するクオンの言葉をサクヤは事実として受け入れる姿勢を示した。


「死体として肉体を残しているのはどうして?」

「貴方に精神的な負荷を与えるためです。消去も可能ですがどうしますか?」

「不快感が酷いから死体は消して、血糊はそのままでいい」

「了、死体を消去します」


 言葉に従うように、かつてクオンだったモノが光となって消えていく。

 血が擦れた後と血だまりが床に生々しく残ってはいるが、押し寄せる不快感は幾分か和らいだ。


「これより戦闘訓練を開始します。現在の装備は、レーザーガンとコンバットナイフです。リクエストはありますか?」

「各所に、武器を設置。配置パターンはランダム。後、プラズマグレネードを」

「了、各所に習熟済みの武装をランダム配置します」


 クオンの手元にグレネードランチャーが顕現する。

 グレネードランチャーを片手で保持するとクオンは、サクヤにそれを向けた。


「注意事項はある?」

「破壊された武装は一定時間が経過後に再配置されます。私が使用する武装は、レーザーガンとコンバットナイフになりますが、貴方が放棄した武装については自由使用が可能となります。強奪したモノについても同じ扱いとなります。設置武器を除いた当空間に顕現した施設機能及び設置物については、使用対象外となります。装置なしのリモート操作などは行いません。戦闘中であってもリクエストは受け付けます」



 説明に耳を傾けながら、ランチャーの設定を切り替えていく。


「開始の合図は?」

「貴方の戦闘挙動を開始の合図とします」

「そう、了解!」


 言葉と同時に大きく後ろに飛びつつ、グレネードをサクヤに向けて発射する。

 サクヤに向かってプラズマ弾頭が、真っすぐに向かっていく。

 ランチャーの弾速設定は最速。弾頭の設定は、生体感知による即時炸裂に設定されている。至近距離で対象に向けて発射できた時点で、勝利は確定していた。

 相手が普通であれば――――


 サクヤは、瞬時に弾頭のセンサーを投げたナイフで打ち抜く。そして、減速した弾頭をナイフ越しに、クオンに向かって蹴り返した。

 クオンは目を見開く。瞬きの間に発生した事象に驚きつつも咄嗟に顔を反らす。

 生体感知センサーが死んでいる以上、接触をしなければ炸裂はしない。クオンは間一髪で軸線から逸れる。

 弾頭が側面を通過していく、二つの双眸で正確にそれを捉え見送る。


(躱せ――――)


 クオンがそう思った瞬間、一筋の光が視界の端から端へと通り抜ける。

 光は弾頭を正確に捉え、それを撃ち抜いた。死の領域が発生した。

 弾頭から広がる死の領域にあっという間に飲み込まれ、クオンはプラズマによって全身を焼かれた。

 焼かれる痛みを感じる間もなくクオンの意識はブツリと消える。

 炭化した人型の物体とプラズマによって破壊されたランチャーが、音を立てて転がる。


「テイク、再構築を開始」


 サクヤの言葉に合わせ光の柱が立ち、再びクオンがその場に復帰する。

 正体を取り戻したクオンは即座にナイフを抜き放ち、サクヤに飛び掛かる。再構成されてから三秒。相手からの攻撃が無効となる時間を活用して一気に責め立てる。

 身体の中央に狙いをつけられたナイフをサクヤは、僅かな重心移動と足運びだけで綺麗に躱す。

 クオンは一切の動揺を見せなかった。

 分かりきったこととして結果を受け入れ、流れるような動きで体をコントロールし攻撃を加えていく。刺突からの横薙ぎ、流れる相手の身体に向けての零距離射撃。

 僅か数秒の間に、相手の命を刈り取るべく多くの攻撃を繰り出す。


 しかし、当たらない。

 これだけ接近し、的確に攻撃を繰り出しているにもかかわらず、クオンの繰り出す攻撃はかすりもしない。

 三秒が経過する。


 クオンがナイフを横に振った瞬間、サクヤの姿が正面から掻き消える。

 次の瞬間、驚く間もなく拳打によってクオンの首がかちあげられる。意識の外から加えられた一撃にクオンはたちまち意識を散らす。

 そして、ダメージを自覚する間もなく蹴りによって頸椎が砕かれる。


 脳からの信号伝達が途絶え、クオンはその場に崩れ落ちる。

 クオンは僅かに残る意識をフル動員し、唯一自由となる眼球をサクヤの方に向ける。銃口越しにサクヤの顔が見える。

 目に映るのは、レーザーガンを構えるサクヤの姿。

一切の感情を見せず作業を熟すだけの姿は、死の覚悟を決めた筈のクオンの身体を竦ませる。

 引き金を引く躍動と共に一筋の光が眉間に突き刺さり、クオンの命を刈り取る。


「テイク、再構築を開始」


 必死の抵抗を見せるクオンの命を容易く刈り取ったそのAIは己の役目を果たすべく、再びクオンの身体を顕現させた。

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