技能習得(2)
「待ってくれてありがとう。訓練を始めましょう」
宇宙から惑星ラグナを見つめていたクオンは、暫くすると視線を切りサクヤに声を掛けた。
『構いません。時間の使い方はスレイブの権利として保障されています。それに仮想現実では、時間は二百倍に引き伸ばされているので、経過時間はごく僅かです』
「二百倍かぁ。もっと引き伸ばせないの?千倍とか」
『可能です。しかし、脳に深刻な影響を及ぼす事例が報告されています。現在は、高い安全性が保障されている二百倍が標準設定となっています。設定を変更しますか?参考データとなりますのでSPの取得が可能です』
「SPは欲しいけどやめとく。高い安全性が確認できるまで現在値で固定」
実験台になるつもりはないので、クオンは当然のように提案を却下した。
同時に何かの拍子に勝手に変更されないよう設定を固定化する旨をしっかりと伝える。
『了。仮想現実での思考加速速度を二百倍で固定化します。以降、クオンが設定を変更するまで設定を維持します』
「さて、改めて訓練を初めてくれる」
『訓練プログラム起動、ドームを形成いたします』
一瞬にして、クオンを中心にと白い床と壁で構成されたドームが形成される。
先ほどまで見えていたラグナと宇宙空間は、影も形もない。
「完全な閉鎖空間は、息が詰まるわね」
クオンは生まれてこのかた、閉鎖空間から出た試しがない。
スレイブに自由がないのは承知しているが、流石に仮想空間でも閉鎖空間と言うのは億劫だった。
『希望があれば、再現いたします』
「それじゃあ、場所はさっきのラグナの衛星軌道。惑星方向をガラス張りに設定。形はドームのままでOK。壁の色はもう少し落ち着いた色でお願い」
『リクエスト承認、反映します』
リクエストに応じて周囲の情景が切り替る。
「ここは?」
飾り気のない白いドームから切り替わった先は、謎の空間だった。
正面には大きなガラス越しに見える惑星ラグナ。黒タイルにグレーの壁とおおよそ希望した通りの空間だった。
しかし、注文していないモノもいくつか目に付いた。
ラグナを一望できる窓の前には、長いソファーが複数鎮座。更には、半球状のガラスケースに入った植物が、ドーム内に大小複数点在していた。
『リクエストに似た環境が軌道上の施設に存在していましたので、そちらを再現しました』
「邪魔になりそうな物があるけど、いいの?」
『十分な空間が確保できています。訓練の邪魔になる場合は、都度調整して取り除きます』
「なら、これでやりましょう」
『了。目標物を構築』
クオンが促すと正面15メートルの距離にターゲットが表示される。
大小無数の円を描いた非常にシンプルなターゲットだ。
「アレを打てばいいの?」
『中央を打ち抜いてください』
「私、射撃武器なんて持ってないけど」
『クオン、ホルスターにレーザーガンがセットされています』
言われて自分の腰に視線を落とす。
「いつの間に……」
どうやら仮想現実世界へ移行したタイミングで、装着されていたらしい。
腰にはシンプルな作りのホルスターが装着されていた。右脚側ホルスターにはレーザーガン、左脚側にはナイフが確認できる。
ナイフが確認できることから、どうやら射撃だけでなく近接戦闘も行うようだ。
「ふむ」
ハンドガンタイプのレーザーガンを抜くと、クルクルとひっくり返しながら、それを確認していく。
当然のように銃口管理は、きっちりしている。初めて銃を触るのだとしても、その辺りの知識は刷り込まれている。
『使い方はわかりますか?』
「もちろん」
すばやく右手で構え、引き金を引く。
光線が的にターゲットに向かって発射され、中央の点を見事に穿った。
『ヒット。初弾命中を確認、ターゲットを更新します』
更新とほぼ同時に光線が、ターゲットの中央を穿つ。
『ヒット。クオンの射撃動作に問題なし。随時更新しますので、射撃を実行してください』
「了解」
『開始します』
開始の合図に合わせターゲットが次々と表示されては消えていく。
より正確には表示と同時に光線が交差し、ターゲットを穿っていく。クオンは視界の先に表示される遠近大小様々なターゲットに向けて、黙々と引き金を引いていく。
中には、200メートル先に表示されたターゲットもあったが例外なく中央を射抜かれ、消えていく。更には視界の端、左右&上下の死角、背後なども交えた射撃へと移行していく。
クオンはその場から極力動かず標的に銃を向け、次々に目標を穿っていく。
『規定回数の射撃を終了。ヒット率100%、平均射撃速度0.35、収束率98.5%、評価優』
最後のターゲットを打ち抜くとクオンの射撃評価が下される。
「何の説明もなく、いきなり性能評価っておかしいと思うのは私だけかしら?」
『初弾及び次弾の射撃結果を加味した結果です。加えて、射撃評価はいつでも再評価可能です』
「いや、そういうことじゃなくてさ」
『続いて動的ターゲットへの射撃評価に移ります』
「ちょっ、人の話を聞きなさいよ」
間髪入れずに次のプログラムを消化しようとするサクヤに、クオンは不満げに愚痴をこぼす。
『全ての射撃評価を完了させた後に承ります』
「その言葉、忘れないでよ」
ドームに声を響かせるサクヤに向かって一睨みをするとクオンはプログラムを消化のため、レーザーガンを構え引き金を引いた。




