プロローグ-目覚め-
どこまで書けるか分かりませんが、頑張ります
7話までは毎日12時、その後は14話まで2日更新予定です
平均2000~2500文字を想定(プロローグを除く)
暗闇と静寂。
はじめに感じたのは、その二つ。
『———の覚醒予兆を確認。成長度合いの再測定を開始』
聞こえるくぐもった無機質な声。
朧気ではあるものの身体が反応する。
己の肌から感じるのは、僅かな身体の律動に合わせて変化する冷たい液体の存在。
『基準値クリア、該当個体———の覚醒許可を申請。承認を確認、———シーケンスを開始。ポッドを———ブロックへ移動』
途切れ途切れで聞こえる音声に合わせ、身体が揺れ動く。
機械的な言葉の主によって、自分が運ばれているのが分かる。
しかし、何故か恐怖は感じない。
まるで何が起こるのか知っているかのように、ただ静かに運ばれた。
『移動完了。続いて———を開始』
揺れが納まり、次のプロセスが開始される。
覆っていた液体が少しずつ嵩を減らしていくのを肌で感じる。
ゆっくりと、しかし確実に己の思考がハッキリしていく。
同時に己の肺を満たしていた筈の液体が気体と入れ替わるのが分かる。苦しさはない、まるでどちらも己の生存環境であるかのように、一切の違和感なく液体と気体と交換が行われる。
一呼吸する度に、肺の中の液体が解けてなくなるように冷たい気体と交換されていく。奇妙なはずなのに、それが当たり前のように感じる不思議な感覚。
『続いてポッド内の環境を覚醒最適値へ、完了まで……5……4……3……2……1』
全身を覆っていた冷たい空気が、温かい空気と入れ替えられる。
温かい空気が濡れた体を乾かしていく。
冷え切った身体がすこしずつ温められ、心地よさが全身に広がっていくのが分かる。
(……そうか……目覚めるのか)
己の状況を正確に理解し、ゆっくりと呼吸を繰り返す。肺の隅々まで空気を行き届かせるよう深く静かにゆっくりと。
肺に流れる血を取り込んだ空気で少しずつ温め、送り出していく。
ゆっくりとだが確実に、身体が温まっていく。
(……もう少しだ)
心臓が鼓動を刻む度に、感覚領域が少しずつ広がっていくのが分かる。
広がる感覚に意識を集中させ、その時がくるのを待つ。
『体温が規定値に達したことを確認』
足先まで領域が広がりを見せたタイミングで、鼓膜を通じて声が届く。
さきほどとは異なる空気を震わせて届く声。
聞くという当たり前の行為、それなのに脳と身体がその新鮮さにざわつく。無機質で構わないもっと声を聴かせて欲しい。耳を使わせて欲しいと心が叫ぶ。
『脳波正常、覚醒シーケンス完了。ハッチ解放』
機械音と共に眼前の硬い扉が開き、外気が身体を撫でていく。
重い瞼をゆっくりと持ち上げると薄い光に照らされた暗い天井が目に映る。
(ああ……これが目覚めか……)
凹凸が存在しない滑らかなタイルで構成された薄暗い天井。
それにも関わらず広がる視界に感情が揺さぶられる。
これが喜び。
これが感動。
押し寄せる感情を呼ぶのならそれが相応しいだろう。
『おはようございます。Type-HN774———』
紡がれる一音すら心地良い。
挨拶に応じるようにゆっくりと身体を起こす。
五感を通じて伝わる全てに感動しつつ次の言葉に耳を傾ける。
『———我々は新たなスレイブの誕生を歓迎いたします』
新たに生まれたのは奴隷。
数多の星々を統べる国家アイスレイブ。
その国家を形成する奴隷の一人として、私は生まれ落ちた。