異世界日記4日目~神殿発見~
~異世界転移4日目~
俺はマップを頼りに森を逃げ回り、やっとのことで目的地周辺に到着した。
「どっかにあるはずだ。地図の白い四角の正体が!」
(どこだ、どこだ……)
俺は草を掻きわけ、白い何かを探していた。
(マップに載ってくるくらいだから、絶対何かしらはあるはずなのに……。俺の目が節穴か?)
数十分そこらを無我夢中に動き回った。
「やばい。しんどい。緑石実ももう全部食っちゃったし、さすがに脱水がきてるな」
この森はじめじめとしており湿度が高い。汗と湿気がベールのように俺を包み込み気持ちが悪く頭もくらくらしてきた。俺の周りには嫌というほど水分が飛んでいるのに俺からはどんどんと水分が抜けていく。
「あちい。喉からから。死ぬ」
俺は血眼になって存在するかも分からない白い何かを探し続けた。
すると目線の先に少し先に開けた場所が見えた。
「あそこだ!」
俺はその場所に向かってか駆け出す。
鬱陶しかった木々が急に姿を消し、びっくりして俺の足は慎重になる。様子を伺いながらゆっくりと進みその場所に足を一歩踏み出した。
「これは……」
俺の視界は白一色に塗られた。目の前には真っ白い花畑が広がっている。
その白さに圧倒され俺の頭の中も真っ白になる。
色々な種類の白い花が咲き誇り、花の香りが風に乗って俺の元へ届く。なんだか懐かしい感じがする。
俺はしばらくその純粋無垢な白い花々の美しさに目を奪われた。
その花たちの香りは喧嘩することなく混ざり合い、一つの優しい香りを作り出していた。俺はその香りをもっと感じたいと思い、静かに目を閉じて目いっぱいに鼻からその空気を吸い込んだ。
「やばい。匂いに酔いそうだ」
優しい母の無償の愛に抱かれ、静かに気持ちよく寝ている赤子になったような気分になり、頭がぼーっとしてきた。
ふと懐かしい思い出が蘇ってきた。
俺の名前を同級生にからかわれ、大泣きして祖母の家に行った時のことだ。
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俺の両親は仕事が忙しく、小さい頃は祖父母と過ごすことが多かった。口数が少ない祖父とは違い、祖母は天真爛漫といった感じで、年を忘れさせるほど元気で明るく子供みたいな人だった。そんな祖母は俺が7歳の時に亡くなった。祖母と過ごした記憶はおぼろげであるが、とにかくいつも笑顔で包み込んでくれていたことだけは覚えている。
祖父も口数は少ないものの、俺が家を訪ねると「坊主、また来たか」「飯、食ったのか?」と目も合わさずに声をかけてきた。俺がまだ何も食べていないと言うと、無言でお菓子を渡してくるような愛のある口下手なひとだった。そんな祖父も祖母が亡くなってからはさらに口数が少なくなり、次第に認知症もすすんでいき今は施設で過ごしている。
俺がまだ5、6歳の時だったか。そんなある日、俺は同級生に『お前の名前ださ。白白、真っ白けっけー!白って何もないってことだぜ?無価値!無価値人間~!黒の方が強くてかっこいいんだよ!お前は黒には勝てない!弱すぎ~』と俺の真白という名前をからかわれたのだ。
俺は言い返すことができず、ただただ泣くことしかできなかった。その時の俺の心は真っ黒に塗りつぶされてしまった。
泣きながら祖母の家に行き、からかわれたことを打ち明けた。祖母は優しく俺を包み込んでくれた。
「白は何もないって思う?そうじゃない。白は他の色と混ざっていない純粋で神聖な特別な色なんだよ。どういうことかわかる?」
「……わからない」
俺は白が特別だと言われてもピンと来なかった。そのまま祖母は話を続ける。
「真白はこれから何色にでもなれるってこと。真白の未来には無限の可能性が広がってるんだよ!何色にでも染まれるけど、真白が汚いと思う色には染められちゃだめ。真白は何色が好き?」
祖母は落ち着いた声で泣いている俺に向かって問いかける。
「青!海とか空とかの綺麗な青色が好き!」
俺は昔から青が大好きだった。近くに海があったこともあり空と海の青さを眺めている時間が何より落ち着いた。
「おばあちゃんも大好き。でも青の中にだって白があるんだよ?」
「えー!青は青だよ!白なんてないよ!」
俺は負けじと言い返す。
「じゃあ、海と空の青さは一緒にみえる?」
「ううん。海の方が濃い青」
「じゃあ、だだの青い絵の具を空の色に近づけたいって思ったらどうする?」
「白い絵の具を足す!」
俺が絵の具で遊んでいた時、青に白を足したら水色になったのを思い出して自信満々に答えた。
「そう。青の中に白が少し入るだけで綺麗な空の青色になれるでしょ?」
「えーじゃあ白は黒にも勝てる?」
俺は白は黒に勝てないと言われたことに腹が立ち、その言葉がずっと心のどこかに引っかかっていた。そのもやもやを晴らすため、俺は祖母に問いかけた。
「真白は黒が嫌い?」
「うん。だってザ、敵って感じだし、白は黒に勝てないって言われた。それに真っ黒ってなんか怖いし嫌い」
「真白、知ってる?大体の色は赤、青、黄色、白、黒があれば作れるんだよ。青と白だけだと海の青さは作れないでしょ?たしかに黒は全部の色を染めてしまうような強さがあって、それが怖く感じたりすることもあるかもしれない。でも見方を変えると黒があるから白く輝く星が際立つ。黒がないとこの世界の色は作れないんだよ。だから勝つとか負けるとかじゃなくて、お互いに欠かせない存在って思って歩み寄らないと」
「えー無理」
「ははは。真白ったら。まあ、そうだよね。これは理想。でも、いつかはどんな色でも受け入れられるような、そんな心の広い大人になって欲しいなって思うよ。おばあちゃんは」
「無理無理!嫌いなもんは嫌い!」
「そりゃそうね。真白ったら素直で笑っちゃう」
祖母はむすっとした俺の顔をみて大笑いした。黒に勝てると言ってほしかった俺の心はもやもやしていたが、先ほどまで真っ黒であった俺の心の色はすでに色を変えていた。
「ねえ!じゃあ、赤と青と黄色と白と黒があれば何色でも作れるって言ったよね?実験したい!ほんとかどうか!」
「いいわよ~今から実験タイム~!」
その後、俺と祖母はひたすらに絵の具やクレヨンで遊びつくした。俺を迎えにきた母親は俺らのインクで汚れまくった姿をみてため息をついていた。俺にとっては楽しく特別な思い出だ。
祖母はそんな何色にもなれる白色が好きで、よく白い花を育てていたのを覚えている。
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「懐かしいこと思い出したな。あー、ばあちゃん。もっと色々と話したかったな」
俺は祖母との思い出を嚙み締めていた。
◻︎◻︎
俺は懐かし思い出にふけりながらぼんやりと白い花畑を見ていた。
すると花畑の奥に何かあるのが見えた。
「ってあれなんだ?」
それはツタや草に覆われた建物らしきものであった。俺は花畑に圧倒され建物があることに全く気づかなかった。長く伸びたツルや草に覆われその全貌は良くわからない。俺はその正体を知るために少しずつ近づいた。
「神殿か何かか?」
よく見るとその建物は白く、上の方はドーム型になっているようだった。
(イスラエルとかそっち系の神殿みたいな形だな)
「てか、入口はどこだ?」
俺は入口を探すため、その建物の周りをぐるりと歩いた。意外と大きいんだな。その神殿は一軒家くらいの大きさはありそうだった。
◻︎◻︎
「これか?」
一部だけ周りとは作りが異なる場所を見つけた。2本の柱が横にたっており、中心には石畳の階段が見えた。明らかに入口ですという雰囲気を醸し出している。ツタや伸びきった草に覆われ見えにくいが、その先に扉らしきものが見えた。俺は草やツタを掻き分け石畳の階段を登った。
「やっぱり入り口だ」
そこにはやはり扉が存在していた。必死にツタと草をむしっていると重圧感のある扉が姿を現した。石でできているのかその扉はずっしりとしていた。俺は力を振り絞りゆっくりと扉を押し、中に入った。
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「涼しい」
中は広々としており薄暗くひんやりとしていた。じめじめとした森の中とは思えないさっぱりした気持ちの良い空間であった。しかし、神殿の中にまで草やツタが伸び、長らく使われていないのだろうということがうかがえた。
◻︎◻︎
俺はそんな薄暗い神殿の中を見渡した。奥に何かが見えた。
「え、まって!水じゃない?」
俺は走った。近づいていくと神殿の奥に小さく水らしきものが噴きだしているのを発見した。
「噴水?」
水が噴き出しているその下には円盤のような受け皿があり、その受け皿からあふれ出した水はちょろちょろと水路のような所に流れて行っていた。
透明な綺麗な水の色をしている。
俺は考える前にその水をおもむろに両手で掬い、ごくごくと喉に流し込んでいた。
「ぷはああ。生き返るー!水上手すぎ!」
俺は白い花畑や神殿に気をとられ完全に自分が脱水であったことを忘れていた。しかし、体は口喝を覚えており頭で考えるより先に水を口に運んでいた。
それは普通の沸き水であったが死にかけていた俺にとっては何より上手い命の水であった。
俺はその水を無我夢中で飲んだ。ひんやりとしたその水は俺の死にかけていた体に染み渡った。
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「俄然復活!」
湧き水のおかげで俺は元気を取り戻した。俺は本当に運が良い。
俺は嬉しさのあまりすぐにSNSに投稿することにした。
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【聞いてください!!!!今日は体調もだいぶ回復したのでマップを頼りに白い四角の建物らしき場所に向かってみだんです!そしたら!なんと!神殿らしきものが!】
【それになんと!神殿の中に湧き水も!我を忘れて飲みました。完全に死にかけていましたが生き返りました。本当に良かったです。神殿はツタとかに飲み込まれてて昔に放置されたような感じです。食料も調達しないとだし、一旦ここを拠点にしたいと思います。神殿の中を少し探索しようかと思います。また何かあったら発信します】
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送信と。かなり浮かれて色々と送ってしまった。その投稿にはすぐに視聴がついたがやはりいいねやコメントはつかなかった。
(でもやっぱり誰かしら見てるんだな!)
俺は命の水を確保でき安堵した。神殿の中には扉がいくつもあり、まだ奥の方にも空間が続いているようであった。
(外から見るより中は広く感じるな)
「少し休憩したら神殿の中を探索してみよう」
ここまで読んでいただきありがとうございます。嬉しいです。神殿とかってすごくワクワクしますよね。
私も主人公と一緒に少しずつ成長できたらと思うので、温かく見守っていただけると嬉しいです。
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