異世界日記3日目〜緑石実を賞味〜
〜異世界転移より3日目〜
「うううぅう」
気持ちよく眠っていたが、覚えのある痛みが腹に再来し、俺は叩き起こされてしまった。あたりは真っ暗であった。
「夜中か?」
あまりの暗さにぞっとする。
昨日は何も思わなかったが電気のない世界はここまで真っ暗闇になるのか。俺はとてつもなく怖くなりすぐにスマホを取り出した。スマホから光が漏れだす。
(ああ、やっぱり光は安心するな)
スマホの光のおかげで少し恐怖が和らいだ。
「いてえええ」
(くそ、最悪だ)
やはりあの水は飲んではいけないやつだったのだ。腹痛と下痢が再開した。自業自得であるが緑色の水を飲んだ昨日の自分を恨む。
◻︎◻︎
(少し落ち着いてきたか?)
ひたすら苦痛に耐えて、束の間の休息。周りはまだ真っ暗で日が昇る気配はない。症状は少し落ち着いたが目は完全に覚めてしまった。
そういえば昨日の日記書いてなかったな。
俺は記憶が新しいうちに昨日の出来事を書いておくことにした。
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異世界日記2日目
【腹痛、下痢で始まり下痢で終わる。体が、本能が、水を飲めと言っていた。お腹を壊すだろうということは分かりきっていたが、緑色の水を飲んだ。口喝を潤す水が喉を通る感覚は最高だった。】
【こんな頭のおかしい日記を書いているってことは俺の頭もいよいよってことだな……腹痛が辛い。体がだるい。早くこの地獄から抜け出したい。】
【近くに実がなっていた。これは食べられるんだろうか。身が詰まっていそうだ。今は食欲もないし新しいものを食べる勇気もない。腹を下す悪循環から抜け出すためにも明日これを食べてみよう】
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新しいメッセージを確認してみるが、特に見当たらず。
「って最初の投稿の視聴数900超え?」
(SNSってすごいな。なのにいいねもコメントもほとんどない……。)
(俺、何してるんだろう)
馬鹿みたい。異世界に来てまでスマホが手放せないなんて。
でも俺の唯一の希望はこのスマホが起動しており現実世界につながっているということだけである。
「はあ」
(俺は死ぬまでこうやってスマホを眺めてるんだろうなあ)
依存症ってやつだ。本当に嫌気がさす。
しかしそろそろ体も限界そうだ。明日は勇気を出してあの果実を食べてみようと思う。いや、食べるしかない。
俺はそんなことをぼんやりと考えながら再度眠りについた。その後も腹痛と下痢は続き間欠的にしか眠れなかった。
◻︎◻︎
朝がきたようだったが、頭も体も微動だにしない。完全に睡眠不足だ。ここ2日まともに食料も口にしていない。体力がどんどんと削られていくのが分かる。
(このままだと俺、まじで死ぬぞ)
俺は急激に死の恐怖に襲われた。
◻︎正午◻︎
昼頃にでもなっただろうか。俺は死にたくないという一心であの果実の元へ向かっていた。動かない足にむち打ち必死に歩いた。そう遠くはないはずであったが、遥か遠くにあるように感じ、到着するまでにかなりの時間がかかってしまった。
(見えた)
薄暗い森の中、淡い緑色の光が見える。
深海の中、チョウチンアンコウの光におびき寄せられた餌側はこんな気分なんだろうか。
そんなくだらないことを考えながら、俺はそのきれいな宝石のような果実を手に取った。大きさはマスカットより少し大きいくらいだろうか。
俺はその果実をおもむろにもぎとり、躊躇することなく口に放り込んだ。
噛んだ瞬間に果汁があふれだし、果実の甘みが口全体に広がる。
「まって、うまい」
想像をはるかに超えるおいしさであった。触感は柔らかく、ミカンを食べているような感覚に近かったが味はブルーベリーとリンゴを混ぜたようなさっぱりとした味であった。
果汁もたっぷり入っており俺は無我夢中で一帯にある果実を貪り尽くした。
(なんだか体も回復してきたようだ)
もしかしたら回復効果のある果実だったのかもしれない。このままなら明日に探索を再開できそうだ。
俺は一安心した。
「ふう」
果実を少し持ち帰り俺は寝床に戻った。
まだ腹痛と下痢、倦怠感は残っていたが果実を食べるとその苦痛が和らぐ気がした。少しずつ少しずつ体調が回復していくのが分かった。しかし、やはり果実だけでは完全な体力回復はできないようで、時々意識が朦朧とすることもあった。
とはいえ、口喝はうるおい生死の境は脱したようだった。
少し心の余裕も出てきた俺は、また現状を投稿しようとスマホを開いた。
◻︎◻︎
「え……」
俺は驚き声を失った。そこには昨日まではなかったマップのアイコンが出現していた。俺は使えないアプリは全部消去したのだ。しかしそこには何故かマップらしきアイコンがあった。
俺はすぐにアイコンをタップした。ゆっくりとアプリが起動し地図が表示される。
「地図だ……」
(この全体の緑色は森だよな?あれ、こっちの緑色の線はもしかして川?ってこっちは海?なんか海まで緑色だけど)
その位置関係に見覚えがあった。
これは間違いなく俺がいるこの森の地図であった。
表示されている範囲はかなり狭いが……。
「でもこれは確実にこの森の地図だ」
この緑色の川ってまだ続いてるんだ。
俺はしげしげと地図を眺めた。
(あれ、ここになんかある?)
白く小さな四角い記号のようなものが川沿いにあるのが見えた。拡大してみるが良くわからない。
(何かの建物か?)
人がいるかもしれない。
俺の胸は高鳴った。大きな一歩だ。人がいたら助けを求められる。
今日は動けそうにないから明日ここに向かってみよう。
それにしてもマップまで起動するなんて。もしかしてスマホは魔道具化でもしたんじゃないだろうか。やっぱり何もかも良くわからないが、生きる希望が見えてきたぞ。
そんなこんなをしていると、気づいたら周りは薄暗く、日は沈みかけているようであった。
「もうそんな時間だったか」
今日は果実のおかげか時間が過ぎるのが昨日より早かった気がする。
そうだ、日記を書かなければ。
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異世界日記3日目
【今日もひたすらに腹痛と下痢に耐えた。今日の収穫は謎の果実が思いのほか美味しくて水分補給になったということだ。ブルーベリーとりんごを混ぜたような味でなかなかに美味かった。謎の果実を食べたら少しずつ体調も回復してきた。もしかしたら回復効果がある果実だったのかもしれない。】
【あとは、まさかのマップが起動。全体は見れなかったけどちゃんとこの森の地図だった。体調が良くなってマップをしっかり見てみたら、小川に沿ってもう少し行ったところに建物らしきものが!明日はここに向かってみようと思う。】
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俺は今日の出来事を簡単に日記に記した。
(これでよしと)
明日は良い日になりますように。
そう神様にお願いし俺は眠りについた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
もっと表現力と語彙力を磨きたいと思います(泣)
拙いことも多いかと思いますが、少しずつ成長できたらと思いますので、温かく見守っていただけると幸いです。何かあればご指摘よろしくお願いします。
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