異世界日記1日目〜勇気を出して森へ〜
森に入ってみると光り輝く草花や、明らかに肉食であろう口がある多肉植物たちが生い茂っていた。木々の間には日の光を目指して上に伸びたツルが四方八方に伸びている。行ったことはないがジャングルに近い感じなのか?俺は気味の悪い草やツタを掻きわけ森の奥に進んだ。
しかし、あれだけ恐れていた気味の悪い虫や気味の悪い爬虫類のようなものは俺を避けるかのように逃げて行った。
(なぜだ)
俺の頭にハテナが浮かんだが気にせず前に進んだ。
ひたすらに森の奥に進んだが景色はさほど変わらなかった。気味の悪い生物たちがあまりにも俺を避けるからなんだか癪に障りこちらから観察してみることにした。
(忘れないように後でスマホにでもメモしておこう)
気味の悪い生物や植物たちを観察してみたがどれも気持ちが悪く食べられそうにはなかった。1日くらい食べなくても平気だろう。でも喉はカラカラだ。
本能が叫んでいる。“水分を補給しろ”と。
森全体が熱帯雨林のように湿っておりどこからか水の流れる音がする。俺は水の音を頼りに水源地を探した。じめじめしたツタの間を潜り抜けると小川らしき場所に辿り着いた……。
しかし、見てびっくり。なんとその水の色は濃い緑色をしていたのだ。濁っているようにも見えるが水自体はサラサラしていそう。
(森の香りの入浴剤でも入れた?)
という感じの神秘的な水の色をしていた。試しに触ってみたが特に何も感じない。
(どちらにしろそろそろ水分をとらないと体がやばそうだから飲むしかないんだけど)
試しに一口飲んでみることにした。俺はおそるおそる水を掬い口に運んだ。
「あまい」
飲んだ瞬間の刺激もなくかすかな甘さを感じた。俺は口喝をうるおそうとがぶがぶと水を喉に流し込んだ。
「うめー」
(最高の気分だ)
特に体も異常はなさそうだった。明日腹でも下したらどうしようという少しの不安はあったが、どちらにせよ脱水になってしまうのだからこの際仕方がない。
(喉が渇いていたのだからしょうがないじゃないか
人は水分を取らないとどちらにせよ死んでしまうのだから)
「ハハ」
「ハハハハ」
ここら辺から俺の頭はさらにおかしくなっていた。脳に糖分も酸素も行きわたっていなかっただけ、俺はそう信じている。
「ってかそろそろ日が落ちてもおかしくないよな?寝床を探さないとか?」
とりあえずサバイバルのアドバイスをもらえたら嬉しいなあ。そんな軽い気持ちで再度投稿してみることにした。別にこのコメントを全て信じているわけではない。馬鹿にされているのはひしひしと伝わってきている。しかし、俺はこの投稿にすがるしかなかったのだ。
(一応もう飲んでしまったが、ついでに緑色の水が飲めるかも聞いてみよう)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【最初の投稿はなぜか消えてしまいましたが近くの村に行って職業を探してゴールドを稼げというアドバイスをもらいました。】
【ひたすら森の奥に進んでみましたが、どうも村らしきものは見当たりませんでした。今日は野宿をするしかなさそうです。まずは村を見つけることを目標に明日はもう少し奥に進んでみようかと思います。】
【喉が渇いてお腹も空いてきました。近くに小川みたいなのがあったんですけど色が緑色でした。飲めますか?あと、サバイバルの知識に長けた方、まず俺は何をすれば良いですか?】
【幸いにもまだ日は明るいです。夜が来るまで何か準備しといたほうが良いことがあれば教えてください。】
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
とまあこんな感じのことを投稿してみた。
しばらく待ってみるとコメントが数件。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【相手したらあかんやつ?】
【そっとしておこう】
【まあバズるように頑張れ】
【実際に見た光る植物?うさぎみたいな化け物?を載っけたらバズるんじゃない?】
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「うっ」
俺の顔は真っ赤になっていたと思う。
(そりゃそうだ、18歳男が何言ってるんだよって話だよな。異世界?化け物?厨二病にでもなったんか?って……)
俺は恥ずかしさと信じてもらえない悲しさに押しつぶされ、胸が苦しくなる。
でも、コメントの感じからすると、どうもこの投稿は現実世界につながっているみたいだ。
異世界のアドバイスを現実世界の人からもらっても仕方はないとは思いつつ、何かの参考にでもなればと投稿は続けることにした。
最近流行ってる異世界アニメとかRPGゲームの知識が参考になるかもしれないし。俺はそこら辺の知識にはめっぽう弱い。そのためそこら辺の知識はこの視聴者の方々にあやかろうと思う。
しかし、その後も投稿を続けてみるが、サバイバルや異世界に関する情報は得られず。
仕方がないので自己流で野宿を開始することにした。
◻︎◻︎
近くの木と岩の間に人一人寝そべることができそうなスペースがあった。草も生い茂っており寝床に良さそうだ。
(今日はここで野宿をしよう)
今日は大きな獣にも出会わなかったし。ここら辺には大型の獣は生息していないのか?まあ。進んでいけば分かることだろう。
(今日は疲れたからもう休もう)
あたりは薄暗くなってきていた。元の世界であればそろそろ街灯が着き始める頃だろう。この世界にそんなものはない。早めに寝床を作らないと危険だ。
俺は急いでクッションになりそうな草やツタをかき集め地面に敷きつめ、寝床を作成した。
◻︎◻︎
「完成!」
(寝床Lv1感満載であるが野宿にしてはまあまあのレベルだろう。贅沢は言わない。眠れれば良いさ)
俺は草でふかふか……とまでは言わないが直地面よりマシな自作ベットに横になる。
「はああ」
(俺、これからどうなっちゃうんだろう)
急にとてつもない不安が襲いかかる。
「ま、明日のことは明日考えよー」
(っとその前にコメント確認)
(新しいコメントはなしか……)
まあ、気長に待とう。長く投稿をしていればこの世界について知っている人が現れるかもしれない。
期待して裏切られたときの心のダメージは大きいだろうから過度な期待はしないようにしておこう。
(ってかスマホを充電減ってないんだけど?)
スマホの充電は99%と表示されている。
家を出てから1%しか減っていない。奇妙すぎる。まあ、こちらからしたらありがたいんだけど。これが異世界の力ってやつ?
「よくわらん」
俺の頭の中はキャパオーバーしておりこれ以上何かを考える余裕はなくなっていた。
「とりあえず今日あったことを忘れないようにメモにでもしておくかー」
ここには充電の減らない魔法のスマホがあるんだから。使わない手はないだろう。
俺は今日あったことや観察したモンスター?獣?爬虫類?たちを日記として書き留めておくことにした。いつかの何かのヒントになるかもしれない。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
異世界日記1日目
【俺はこの異世界での体験を日記に残すことにした。
この体験がいつか何かの役に立てばと思う。】
【俺は卒業式を終えてただ海を眺めていただけなのに強風に吹き飛ばされ海に落下。死に物狂いで岸に泳ぎ着いたが、そこには光る植物や気味の悪い獣や虫がいる異世界だった。】
【スマホは水没し故障しているみたいだったがなんとか動いた。電波もつながっていなかったが、なぜか1つだけ使えるアプリがあって投稿もできた。そこで『近くの村に行って職業を探してゴールドを集めろ』というアドバイスをもらい勇気を出して森の奥に進んでみた。】
【やっぱり気味の悪い生き物たちは生息していたが何故か近づいてくる気配はなかった。】
【食料になるものはないか探していたがどれも気持ち悪くて食べられそうにはなかった。】
【数時間歩いた所で体力の限界が来た。喉もカラカラ。明らかに怪しい緑色の小川があったが、それ以外に飲めそうな水もなかったため飲んでみた。少し甘い気がしただけで体に異常はみられなかった。】
◻︎◻︎
【生き物たちは沢山いたが逃げてしまったため観察できたのは4体だけだった。まず初めに見つけたのは気味の悪い目から黒い体液を出したうさぎ。】
【2体目は何かの卵らしき生物。するどい牙が見えた。動く卵は気色が悪かった。】
【3体目は木の幹に引っ付いて離れない煙を出すキモ毛虫。何かに使えそうな予感?】
【4体目は数センチしかないミニチュア恐竜?見た目は恐竜だけどかなり小さく集団で行動しているみたいだった。これは小さくて少し可愛かった。でも噛まれたらめんどくさそうだったから触るのはやめた。】
【今日は疲れたから草が生い茂った場所で眠ることにする。食料のことは明日考えよう。夜になったがそこまで寒さは感じない。野宿できそうだ。】
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
とまあこんな感じで日記として書き留め投稿しておいた。
明日起きたら何か有益な情報とかあれば良いが……。まあ、無いだろうけど。
俺は過度な期待はしないように自分に言い聞かせ、静かに目を閉じた。比較的どこでも眠れるタイプであった俺はそう時間もかからず深い眠りに落ちていった。
お読みいただきありがとうございます。
主人公の気持ちに近づこうと、実際に自分もSNSを始めてみましたが、フォロワーを増やしたらいいねを増やしたりするのは本当に大変ですね……。
地道に頑張ります。
皆様の応援が力になります。少しでもいいなと思ったら評価やブックマーク登録をよろしくお願いします。