ここってもしかして異世界?
「今日で卒業かー」
俺は高校3年生、ぴちぴちの18歳。斎藤真白。今日卒業式を終えたばかりである。
充実した高校の3年間を過ごし、4月から大学デビューだ。
高校の友達や親と離れる寂しさもありなんとなく気持ちをすっきりさせたくて俺は家の近くにある海岸に来ていた。
今日は晴天だ。青く澄んだ雲一つない空が広がっている。
春を感じさせる暖かな風が髪をなでる。昔から家の近くにある海を眺めるのが好きだった。波の音を聞いていると心が落ち着く。
雄大な海の波を見ていると自分がちっぽけな存在だと気づかされる。しかし、それと同時に何にでもなれるんだという謎の自信が沸き起こってくる。
就職という道もあったが夢もやりたいこともない俺はまだ自分が働くということが想像できなかった。頭も悪かったため名のある大学に進学することはできず、県外の定員割れをしているいわゆるFランと呼ばれる大学に進学することになったのである。親には良くわからない大学に行くくらいだったら就職しなさいと言われたが、大学に行けないならニートになるからと脅しわがままを押し通した。なんとも親不孝者である。
何かに本気で取り組んだことはない。いつもなんとかなるや精神で何となく生きてきた人生だった。大学にいったら本気で何かに取り組もう。今まで大切に育ててくれた両親のためにも。俺はそう誓った。
そんなことを考えながら、俺は新たに始まる生活に胸を膨らませ、青く澄んだ海をぼーっと眺めていた。
この景色を見ることもなくなるのかー。やっぱり寂しいな。
◻︎◻︎
「うわああああああ」
すると突然強風が吹いた。俺の体は宙に浮き、為すすべなくそのまま吹き飛ばされ海に投げ出された。
うそだろ……。
俺は衝撃に備え目を固く閉じ息を止めた。
ーーバシャン
「うっっ」
海に叩きつけられた衝撃と共にすぐに冷たい海水が体全体を包み込む。その温度差に脳がびっくりし体全体がこわばりつく。
必死に手足をばたつかせるがどんどん体が沈んでいった。
やばい溺れる……。落ち着け、泳ぎは得意だろう。
俺は落ち着くよう自分に言い聞かせ、すぐに泳ぐ体制へと体を整え手足を動かす。
上へ上へ太陽の光がさす方へ一心に泳いだ。しかし一向に浮上する気配はない。
あれ、こここんなに深かったっけ?
俺は焦った。一瞬“死”が脳裏をよぎる。
俺は無我夢中で上に向かって泳いだ。
しかし、いくら水をかきわけても現状は変わらなかった。ただただ酸素を消費する一方で体はどんどん冷たい海の底に引きずり込まれていった。
そういやこんな感じで小さい頃にも海で溺れたことがあったような……。あの時はどうやって助かったんだっけ……。
ああ、そろそろ息も切れそうだ……。
意識がもうろうとし思考・動きが停止する。だんだんと視界がぼやけてきた。
“ましろ、しっかりしなさい”
誰かの声が聞こえた気がした。
俺はハッとした。
諦めるな。失いかけていた意識が戻り俺は自分に活を入れなおす。
俺はまだ何もしていないじゃないか。人生がこんなにあっけなく終わってたまるか。
俺は手足を必死に動かし海面を目指した。
しかし日の光は遥か遠くに見え息も続きそうにない。
さすがにもうだめか……。
一瞬諦めかけたその時、急に体全体がものすごい力に押し上げられた。
先ほどまで全く手にも届かなかった日の光がどんどんと近づいてくる。
あ、あと少し……。
◻︎◻︎
「ぷはああああ」
やっとのことで海上に顔を出すことができた。俺は大気中の酸素という酸素をすべて吸い込むかのような勢いで息継ぎをする。
し、死ぬかと思ったああ。
海面になんとか浮上でき安心したのも束の間。
「嘘だろ?」
周りを見渡すと岸がはるか遠くに見えた。そんな流された感じはしなかったが……。
早く地上に戻らないと。俺は急いで泳ぎ、岸を目指した。
岸が近づいてくるにつれ、どこか違和感を覚える。
見たことのない景色……。海岸にこんな場所なんてあったっけ?
〜〜
「なんだここ……」
なんとか岸にたどり着いたが、そこは俺の知っている世界ではなかった。
熱帯雨林のような雰囲気ではあるが……。所々光を発している奇妙な植物が生い茂っている。
この時の俺は、まだ自分の知らない場所に辿り着いただけで大通りに出れば家に帰れるとどこかで信じていた。
しかし、気味の悪い獣が木の陰からこちらを見ていた。うさぎのような耳を生やしているが目はどす黒い色をしており落ちくぼんでいた。目からは黒い液体が流れている。
頭の悪い俺でも分かった。ここは異世界であった。
「やばい。異世界に迷い込んだのか?いや、もしかして俺死んだ?」
急いで自分の脈を確認してみる。しかし、指からはしっかりと脈の拍動が伝わってきた。死んだわけではなさそうだ……。
自分の作品を誰かに見てもらうということが初めてなのでとても緊張しています。
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拙い部分も多いかと思いますが、精一杯頑張りますので温かく見守っていただけると幸いです。