表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

ジャズピアニスト 舞佳のこと

この物語の主人公は 大輔。


年齢は50代。


後に語ることもあるだろうが、ある事情でバツイチ、さらに考えられないような事情で

女性にモテる。大輔は女性が嫌いではないので、出会った女性たちとよく深みにハマる。

これは、大輔の女性遍歴、とも言えるが、決して、光源氏でもなければ

松本竜介でもない、どこにでもいそうな大輔という50代の男と、

アラフォーからアラフィフの女子との、物語だ。


さあ、自分にそんなことが起こってしまった、というような気持ちで

平和な人生にドキドキを感じてもらえれば、アラフィフ恋愛作家としては嬉しい。


大輔は、舞佳との食事が終わり、別れ際、舞佳を軽くハグして

「じゃ、またね、仕事頑張って!」

舞佳はジャズピアニスト、といえばかっこいいが、小さな飲食店のライブを

あちこち飛び歩いて、いろいろな同じようなミュージシャンとセッションライブをしていた。


少し舞佳のことをお伝えしよう。


舞佳は、勉強ができる女子として、目黒育ち。父親は中堅の商社で役員まで勤めたが、

定年退職後、割と早く亡くなってしまった。

仕事柄、日本国内の地方都市を転勤して住んでいた時期もあり、

転勤族半分、目黒半分な少女時代だ。


そんなこんなで、地方在住時代も含め、女子校には縁がなく、ずっと共学。

いつも成績優秀で、特に理系科目が得意だった。

というよりも、試験を回答する頭脳が、並外れていた。


そんな舞佳だが、お稽古ごとは、小さい頃から、ピアノ教室に学び、

音楽で身を立てることなど、考えたこともないが、

ピアノは、自分をぶつけて応えてくれるところが好きで、

ずっと、ずっと、止めなかった。


大学を出て、社会人になって数年のある日、知り合いと行ったジャズバーで

後に彼女の師匠となるピアニストと出会った。


そのことが、舞佳の心のなかに小さな種となり、芽吹き、人生に影響を与えていくまで

数年を要した。


35歳を過ぎたときに、舞佳は、師匠の教えをマスターし、

ジャズピアニストとしても、生きていくことを決めた。


もちろん、ジャズピアニスト一本では生きていくことは難しい。

実家で母と暮らしていたので、食べるだけは食べられたのかもしれないが

仕事は辞めなかった。仕事をしながら、夜や週末は、色んなところで演奏活動

そんなことを10年もやっている。


舞佳の言葉は予想を覆すものだった。


「それだけですか?」


「えっ?」意外な反応に、大輔は驚いた(あれ、何かまたしでかしてしまったのか?)。


「毎回 ハグしてくれるだけですか?」


大輔は、基本、サシ飲みはしないことにしてたが、

今日はマブダチの荘太がドタキャンになり、舞佳とサシ飲みになってしまった。


まあ、確かにハグはしてたが、それば大輔にとって特別なことでもなかったが、

(大輔の日常を見れば実際その通りなのだが)

舞佳にとっては特別なことだったのか???


大輔は頭の中で、グルグルと記憶を辿る。

どこで、どこで、ホックをかけ間違った?いや、ボタンだ。どこで???


たぶん、ハグにはいくつかあって、社交辞令的なライトなハグ、

これをする程度の関係なら、キスはしない。

そうではない、しっかりと身体を抱きしめ合うハグ、これは、場合によってはキスもするかもしれないものだ。

愛情がこもったハグは、しっかりと相手の衣類の下に息づく肉体を感じ合う。


大輔は、一つ思い当たった。

この頃何度かハグはしていたが、

少しずつ、舞佳との密着が濃くなって来てた。

フレンドリーな営みと思っていたが、

ここ2回は、胸の膨らみが、腰が、割としっかり厚く、大輔の身体に押し当てられて来ていた。


(ああ、きっとこれだ、ホックを、いや、ボタンを掛け違って、誤解与えてたんだ。)


舞佳は、

「どうしてキスとか、してくれないんですか?」

大輔

「あ、いや、僕、流れではそういうことしないことにしてて、過去に色々失敗してて。」

舞佳

「大輔さん、私のこと、一体どう思ってるの?」

大輔

「もちろん、大切な友達だよ。大好きだし。応援してる。」

舞佳

「なら、なんで、一段一段、上がって来てくれないんですか?」

大輔

「あ、いや、僕は、ピアニストをしてる、舞佳ちゃんが好きだから、それを壊すようなことしちゃいけないって思ってて。」

舞佳

「私、壊れちゃうんですか?」

舞佳は45歳に近づいていた。

大輔

「えーっと、男と女、恋とかで深く付き合うと、DHロレンスとかそういう様々な文学作品であるように、

僕の研究では、大体、その後、お互いの熱量に差が生じてしまい、」

舞佳

「はい?」

大輔

「熱量の差が生じると、どうなると思う?」

舞佳

「うまくいかなくなる?」

大輔

「相手が悪い、って思っちゃうんだ。ハッピーな期間は、総じて長続きしないんだ。」

舞佳

「わかるようなわからないような。そんなこと言ってたら、何も進まないじゃないですか。それはそれ、結果は結果。」

大輔

「僕は、舞佳ちゃんとは、短期間だけ、濃い交際をして、その後、傷つけあって、会えないようなことになるのは、望んでないんだ。」

舞佳

「それじゃあ、私のこと、女として、好きじゃあないんですか?」

大輔

「いや、そんなことないんだけど、大切すぎて、、そんなことになっていいのかな?、みたいな。」

舞佳

「普通、そういうふうに考えるものかな?私だって忙しいんですよ、親に早く結婚しろって言われてて。もう、全然早くはないけど。」

大輔

「急いでるの?」

舞佳

「そういうこともいろいろあるってことです。何にも先がないなら、ダラダラしてたくないし。」

大輔

「僕は、今みたいな関係で、とっても満足してるんだけどな、これマジで。」

舞佳

「もっとちゃんと、普通に女として愛してくれませんか?私のことが好きなら!」


これ以上、舞佳に恥を欠かせるわけにはいかなかった。大輔はもちろん、女としても、舞佳のことは好きだったが、どちらかというと、応援する立場にいるようにしていた。


大輔

「えーっと、今夜?は、どこも予約してないから、そこらのラブホ行くしかない感じになるけど、

ちょっと、麻衣ちゃんには失礼なことだから、次回、ちゃんと旅行でも行くとかにした方が

丁寧、だと思うんだけど。」

舞佳

「今度とかは、今はどうでもいいです。」

大輔

「いや、そんな、単なる流れ、みたいな感じで、、いいの?ホントに?」

舞佳

「もう、これ以上、言わせないでくれませんか?」

大輔

「いや、僕は変態ですよ、酷いことするかも?」


その時、麻衣の目が妙な輝きを放った。40女はこの程度の話では怯まない。

舞佳

「どういう変態?ですか?」

大輔

「変態はだな、縛って、鞭とかで、虐めるんだ。」

舞佳

「大輔さんはそういうのじゃないよね???そういうんじゃなきゃ、私平気だから。」

舞佳の口元がニヤリと笑った。


(やばい、むしろ火に油、焚き付けちゃった。)


その後のことは、あらかた、省略することとして、

大輔は、覚悟を決めて、

ある時、舞佳のマンションに引っ越すことにした。

ただ、法律的なことは、ややこしい事情が大輔にあり、舞佳は、そこは我慢して受け入れた。


ただ、同じマンションの、同じ階の、別の部屋に。


通いの方が、男女はうまく行く、大輔は、そこは譲らなかった。


ある夜、ベッドでピロートーク中の2人。


大輔

「じゃ、僕、帰るから。自分の部屋に。」

舞佳

「何で?」

大輔

「このまま朝までは、舞佳ちゃんによくない。」

舞佳

「どういうこと?」

大輔

「ミュージシャンは、手が大事、もし、腕や指の血流が悪くなるような寝方をしてしまったり、エアコンとかで、雑なことしちゃったら、演奏に悪影響あるから。」

舞佳

「そんなことしないよ。私もプロだし。明日は暇だし。」

大輔

「前にも言ったよね、今のような充実した演奏活動をしている舞佳ちゃんが好きなんだ。そこを邪魔したくないから。」

舞佳

「フーン。」

大輔

「あと、このサプリ、飲んでね、女性は更年期以降、色んなガンのリスクが高まるから、抗がん、抗炎症の成分は摂った方がいいから。」

舞佳

「ハイハイ、、、、」


でも、結果として、舞佳は、大病もせずに、それは、おそらくは、1人で生きてた以上に、

健康で、仕事も飛躍した、充実感が得られる人生を送ることになる。


さて、大輔のあれ、変態の件は、どこに?


色々あるが、大輔の変態は、舞佳にとっては、単なるハッタリ程度のものだったようで、単なる真面目な営みに映ったようだ。


興味はあれど、よほどの好きもの同士でなければ、

小さな扉さえ、開けることは躊躇われ、そのことが遠因となり、世の中の不倫というのは、生まれては消えていく。


かと言って、真っ当な交際の中で、お互いが変態性を遠慮なく出し合っても、微動だにしない、というような関係性は、それこそあるかどうかは、さえもわからないものだ。


この生活が、終わりを告げたのが半年後。


経歴がユニークな舞佳に、ある広告代理店が目をつけた。


舞佳は、オリジナル曲を自分で書いていて、そんな縁から、キー局でないが、あるテレビ局の朝のワイドショーの主題歌を作曲して、演奏することになり、

その曲と演奏が、割とバズって、LIVEをする場所、機会が増え、箱も少しずつ大きくなり、LINEも返信が減っていった。


大輔は

(これでいいんだ、ちょっと間違えたけど、僕はこれを望んでたんだから。)

と思った。


舞佳には告げずに、大輔は引っ越した。


これでいいんだ。何度も自分で反芻した。


大輔は以前住んでいた、池上線の洗足池に、またマンションを借りた。


何度も自然消滅は経験してたが、50を過ぎた今の自分にこんなにダメージがあるとは。大輔は、年齢的に感傷的なのかな、と思ってみたが、心の空洞は埋まりそうになかった。

応援する立場に、また戻れるだろうか、それは無理かもしれなかった。


引っ越した次の週末の前、大輔は珍しく、1人で飲み始めた。酔ったついでに、、友達に何人かLINEしたが、友人も急にはなかなか来れない。


重い千鳥足で歩きながら、大輔の足はいつの間にか自由が丘に向いていた。

駅から割と近い、狭いビルの3階、

ステーシーPというカフェバー、トボトボと階段を上がった。


どうでもいい話だが、マスターはその昔ステーシーQが好きで、それを店名にしていた。


マスターは、

「大輔くん、結構久しぶりだね!」客はほんの少ししかいなかった。

「今日は弾く人がいないんだ、大輔くん、演る?」


大輔

「うん、その前に、喉乾いたから、ビールくれる?」


ビールを飲み干し、壁に掛かってる、ギブソンのj-45を手にして、マイクの前に立った。


「夢のような人だから 夢のように消えるのです」


福山雅治の「最愛」だった。


「強がってるんだよ、でも繋がってたいんだよ、

あなたが、まだ好きだから」


この歌詞が、頭の中で、グルグル巡る。


(これでいいんだ、これでいいんだ、)


歌い終わった途端に、入口から、

雅樹が現れた。


雅樹

「福山雅治?この店でこんなの歌う奴いるのか?

ダメダメ、こんなしんみりした歌は!」


雅樹はカホンに腰を下ろした。


「さあ、次行こう! 明るいやつ!」

雅樹が言った。


大輔は、ギブソンをゆっくり弾きながら歌い始めた。


You are my fire

The one desire

Believe when I say

I want it that way


バックストリートボーイズの名曲


"I Want It That Way" だった。


Tell me why

Ain't nothin' but a heartache

Tell me why

Ain't nothing but a mistake

Tell me why

I never wanna hear you say

I want it that way


雅樹は、

(おいおい、この曲かよ?マジで?

雅樹は、また失恋ソングかよ)、と苦笑い。

(大輔が歌いたいんだから仕方ないな。)


カホンでリズムを重ねていく。


悲しい時の大輔は、歌がいつもよりは上手い。

サビのところは、雅樹がコーラスを入れた。


コーラスを歌いながら、圭太が入ってきた。


壁のベースギターを取り、プラグイン、

ベースで入ってきて、音が暖かく厚くなった。


大輔は、2コーラスを圭太に振った。

悲しい気分ではない圭太は、元歌に近い感じで

頑張った。全員でコーラスで歌い終えた。



圭太は、

「暗いって!

俺たちを呼ぶ時は、いつも暗いのばっかりだよ。」


入口が開いて、晶子が顔を出した。

「また、クソ暗い歌ばっかり歌っちゃって、あんた達、進歩ないよねー。」


続いて、

圭太は、心酔するボールマッカートニーの、「心のラブソング」、を歌い始めた。


「silly love song


I love you I love you I love you…….」


懐かしさの波を打ち寄せながら、歌い終わった。


「悲しい曲の後で聴くと、この曲、なんかしんみりするね、」

マスターが言った。


圭太は、

「マスター、大輔に乗っかっちゃダメダメ、

コイツ、そんなに感傷に耽るような奴じゃないって。

いつだって違う女と付き合ってるんだから。」


大輔は、

「圭太、俺が何でそうなってるのか知ってるだろ!

そういう宿命背負ってるんだから。」


マスターが

「宿命って何?」


大輔は、

「話せば長い。ハリーポッターみたいに。いや、嵐が丘のように。」


まるで繰り返す魂の輪廻を、遥かに見渡すような顔でそう言った。


圭太は、

「そこまでじゃないだろ!」

「でも、大輔、お前、いつ演っても、相変わらず歌が上手いな、ギター下手くそだけど。」


雅樹は、

「下手くそだけど、シャリーン、って鳴ってて、大輔のギターの音は、いいよな。」


マスターは、笑いながら、

「いやいや、ギターがギブソンのビンテージで有名なモデルだからね。」


「なら次は私の番ね。」

晶子が出てきた。


イントロもなく

レナード・コーエンのハレルヤ、を歌い始めた


なぜ、晶子がハレルヤを歌うのか、大輔にはよくわかった。

しんみりした歌だが、人生に傷ついた人を

励ます歌でもある。


店内が水を打ったような静けさになった。

もとより客はほとんどいなかったが。


歌い終わり、晶子は

「大輔、帰るわよ。」

と、大輔を外に連れ出し、

タクシーで、大輔のマンションの洗足池に向かった。



酔って眠り込んだ大輔は、朝で周囲が明るくなり、目を覚ました。

自分がどうやら、晶子の膝で寝てしまったことに気づいた。晶子の膝枕からは、懐かしい晶子の匂いがたちのぼっていた。


何かあったのか?

いや、その記憶はない。


晶子とは、短期間、付き合ってたことがあったが、いつものように

すぐに終わりを告げた。

しかし、晶子は、友達グループからは抜けずにいた。


晶子とは、流れがなかった、か、神様が、ダメ出しをした気がする。


二人の螺旋は、いつまでも絡みそうで絡まない、並行螺旋のようだった。


大輔は、元カノに、失恋を癒やされている自分に、苦笑いした。


ただ、晶子の膝の上が、今は心地よかった。それは疑いようもない事実だった。


大輔も、晶子も、

ここでまた間違えちゃいけない、

そういう相手じゃない、

と、強く心に言い聞かせた。


大輔の脳裏に、ショーケンの「愚か者」がぐるぐる回った。


(また今までのような事由で普通の生活に戻ろう)

(愚か者らしく)


Fin



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ