第6話 《友と恋》
1日目の団体行動が終わり夕方、僕たちはホテルに到着した。
今回泊まるホテルは駅の目の前なので自由行動で移動はかなり楽だ。
僕たちはバスを降り事前に決められた部屋に荷物を運び入れた。
学校側の計らいで僕は小春と二人部屋になった。
男子と同じ部屋にする訳には行かず、かといって女子と一緒だと僕がまだ慣れず無理なので一人部屋にする案があった。
しかし修学旅行で独りは可哀そうと言う事で小春が二人部屋を提案したらしい。
僕は別に独りでも良かったけどせっかくの小春の好意を無下にする訳には行かず今日に至った。
「良い部屋ね。ここからなら夜景も見えそう」
「せっかくの修学旅行なのに僕と一緒の部屋でなんかごめんね」
「何で謝るの? 私は気にしてないから大丈夫よ。せっかくの修学旅行なんだし楽しまないとね」
「小春……うん、そうだね」
僕たちは夕食までの間、部屋で今日回った名所の話しをして盛り上がった。
お互いスマホで撮影したいろいろな写真を見せ合った。
「それで冬李がここに行こうとしたんだよね。どう見ても無理なのに。それにここに行った時も―――」
「本当に琉夏って冬李の事を話すとき楽しそうよね」
「そっ、そうかな?」
「だってその冬李から貰ったヘアピンずっと着けているじゃない」
「これはすぐ外すと申し訳ないから着けている訳で」
「はいはい、そう言うことにしておくわ。そろそろ夕食だし行こっ」
僕たちは1階にある大広間へ向かった。
向かう途中別の階から冬李と秋吾が一緒に歩いてきた。
「おっ、琉夏と小春じゃん。夕飯一緒の席で食おうぜ」
「うんっ、良いよ」
僕たち4人は大広間に入り、僕は冬李の横に座り小春は向かい秋吾の隣に座った。
どんな料理が運ばれてくるか冬李と予想したりした。
全員が集まり挨拶をした後、料理が次々運ばれ食事を開始した。
「わぁ、この天ぷらすごく美味しいよ。家でも作ってみたいなぁ」
「今度作ってみるか? 何事も経験は大事だと思うぞ」
「冬李は食べたいだけでしょ?」
「あはは、バレたか。ほら舞茸の天ぷらすきだろ?」
そう言って冬李は自分の分の天ぷらを僕にくれた。
付き合いが長いとお互いの好物も知っている。
僕も冬李が好きな海老天などをお返しにあげた。
向かいに座っている小春がニヤニヤしていた。
食事が終わり小春と秋吾は先に部屋に戻り、僕は冬李とロビーのソファで雑談をした。
「食ったなぁ。腹いっぱいだ」
「デザート美味しかったね」
「この後の予定何だっけ?」
「えーっと20時からお風呂だったかな? そのあと22時には就寝だったと思う」
「もうそろそろしたら入れるのか。俺はさっさと入って寝ようかな? なんだか急に眠気が来たし」
「歩き疲れたもんね。僕もご飯食べたら眠くなってきちゃったよ」
「そろそろ部屋戻るか」
「だね」
僕は冬李と一緒に部屋までの廊下を歩いた。
ホテルのあちらこちらでは同級生カップルが一緒に居る。
やっぱり修学旅行で付き合い始める人が居るんだ。
なんだか羨ましいような気が……
「琉夏はここの階だろ? 上は男子の部屋だし」
「あっ、そうだね。それじゃお休み」
「おぉ、また明日な」
冬李は階段を上がって行った。
部屋に戻ると小春は同じクラスの白石さんと中村さんと一緒にお菓子を食べながら話していた。
「琉夏おかえり~。この後みんなでお風呂行くけどどうする?」
「えっ、僕は部屋のシャワーで良いよ。ほら皆に悪いし」
「南篠君はもう女の子なんだし私たちは気にしないよ。ね?」
「うんうん。せっかくだし一緒に入ろうよ」
「二人もそう言っているんだし。どうかな? 無理なら良いけど」
「ごめん、やっぱりちょっとまだ……」
「そうよね。それじゃ私たちは入って来るから」
「うん、行ってらっしゃい」
小春はバッグからパジャマやタオルを出すと白石さんと中村さんと共にお風呂へ向かった。
僕はその間に部屋にある浴室でシャワーを浴びることにした。
でもシャワーだけだと疲れが取れない気がする。
浴室から出た後、髪を乾かし小春が戻ってくるのを待った。
なかなか戻ってこないので僕は飲み物を買いにホテルの売店へ向かった。
「(小春の分も買って行ってあげよっと)」
飲み物を2本購入して売店を出るとジャージ姿の秋吾に出会った。
「秋吾、やほー」
「お、琉夏。もう風呂から出たのか?」
「僕は部屋のシャワーで済ませたよ。大人数で入るのはちょっとね。秋吾もお風呂上り?」
「そうだよ。ここの浴場かなり広くて良かったぞ」
「人が居ない時間に入ろうかな? 朝なら居なさそうだし」
「屋上露天風呂は朝の5時から開いているらしい」
「そうなんだね」
僕はキョロキョロと辺りを見渡した。
それを見て秋吾は何かを察した。
「因みに冬李はシャワーで済ませて寝るって言っていたからもう寝ているのかも。会えなくて残念か?」
「べ、別に!? どうせ明日班行動するんだし。自由行動楽しみだねー」
秋吾と話しているとちょうどお風呂から出た小春がロビーを歩いていた。
僕たちに気づくと一緒に居た友達と別れこちらにやって来た。
「あれ~? 琉夏が浮気しているわ」
「たまたま会っただけだよ。って浮気じゃないし。冬李と付き合ってるわけじゃないから」
「私何も言って無いけど?」
「うっ……」
最近なんだか小春が僕と冬李をくっつけようとしてくる。
最近この胸の痛みが冬李に対する“恋”なのでは? と考えるようになっていた。
でもこの関係が壊れるのが怖い。
それならずっとこのまま……
「それじゃ、俺は部屋戻るよ。二人ともまた明日」
「うん、おやすみ~」
「また明日ね」
僕は小春と一緒に部屋に戻り就寝時間まで日々の出来事や明日の事を話した。
女子トークは尽きる事無く続いた。
朝、僕は目を覚ましスマホの時計を見ると、そろそろ午前5時になるところだった。
「(早く起きちゃった。そういえば秋吾が朝からお風呂開いているって言っていたし、行ってみようかな?)」
僕は小春を起こさないようにそっと起き部屋を出た。
屋上露天風呂に着き入ると朝早いため誰も居ない。貸し切り状態だ。
空が薄っすら明るくなっている。
とても静かで落ち着く。
露天風呂に浸かりゆっくりしていると竹壁の向こうの男湯に誰かが入って来る音が聞こえた。
「(こんな時間に入る人居るんだ。人のこと言えないけど)」
すると隣の男性は気持ち良さそうに鼻歌を歌い出した。
その歌、声は聞き覚えがある。
僕はもしかしてと思い竹壁に近付きそっと声をかけた。
「冬李?」
「ん? その声は琉夏か?」
「やっぱり冬李なんだね。こんな朝早くに入るなんてどうしたの?」
「いやぁ、昨日早めに寝たからこんな時間に目が覚めてな。そういう琉夏こそ早いじゃん」
「僕も目が覚めちゃったし、あと人が居ない時間に入ろうかなって。この身体になってもう1ヵ月以上経つけど他の人と入るのは抵抗がね……」
「徐々に慣れるしかないよな。おっ、日が出てきたぞ」
僕は外側を見ると地平線から太陽が顔を出し始めていた。
街は徐々に明るくなっていく。
「綺麗だね」
「あぁ、綺麗だな」
こんな時間がずっと続けば良いのにと僕は思った。
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