ヒーラーとヒーロー
咄嗟に範囲回復魔法であるエリアヒールをかけたのは、子供も怪我をしているかもしれないと思ったからだった。
実際、その選択肢は吉と出る
「っ!ミソラ、馬車の下にも1人!」
〔了〕
エリアヒールによって回復した情報は感覚的に人数や状態を教えてくれる。
私たちから影になる位置に、もう1人重傷者が隠れて居たのだ
私はミソラが助け出してくれた2名目の重傷者に近づくと、1人目の女性と2人目の男性、両者に向かって全力でハイヒールをかけた。
ギガヒールじゃなくてハイヒールをかけた理由は、魔力の量のせいでギガヒールをかけると逆にダメージになってしまうからと、ハイヒールでも瀕死から回復させることが出来る自信があったからである。
そしてその自信のとおり、2名の傷は無事に完治した
次は子供たちにヒールを…と思って顔を上げると、
子供たちはキラキラした目で私とミソラを交互に見ていた
(これは…)
「「かっ、かっこいい…!」」
ミソラが見事に子供のハートを掴んでしまったようである
(そうだろそうだろ、ミソラはかっこいいだろ)
親バカ?を発動しながら、子供たちにヒールをかけるとキラキラした視線が自身にも向いたのに気づいた
(あっ…やめてっ…そんな視線食らったら気分的に灰になっちゃうっ)
……結局子供相手に拒絶する訳にもいかず、
ミソラとふたりして、キラキラした視線の餌食になった…
ーーーーー
暫くして、重症だった2人が目を覚ました
女性が目を覚ました時の子供達の喜びようから、恐らく親子だろう
男性の方は、冒険者だと名乗ってくれた
興奮気味の子供の説明から、助けたのがミソラだとわかったらしく、ミソラに深い礼をしていた
(ミソラが慌ててるように見えたのが少し可愛かった)
ミソラが私の事を主人だと紹介したせいで、私までキラキラの目を受けることになったことは忘れよう。うん。忘れよう。(大事なことなので2回言いました)
〔一体何があったのでしょうか?〕
「おおよそ、想像するような事さ。突然馬車を魔物に囲われて、道を逸れ、馬を操縦してた男が真っ先に逃げ出して食われ、馬も逃げ、馬を失った馬車が倒れて……」
「何とか子供と馬車から這い出たのは良いのですが、周りはオークに囲まれたままで……私が子供を庇うと、弄ぶように私に怪我を負わせてきたのです」
私の代わりにミソラが事情を聞くと、冒険者の男性が話だし、子供の母親(確定)が、続きを繋げてくれて、ようやく状態がわかった
(つまりこれは、完全な遭難状態)
移動手段を失って、食料も水もある訳では無いという状態。しかもここまでに馬車で3日分の道は進んできているし、次の街まではまだ数日移動する必要がある。
冒険者の男ならともかく、女子供がその日数を移動できるとは思えない
魔物の肉を食えばいいと言われるかもしれないが、魔物の肉は食べれないものなのだ。体の魔力と肉になった魔物の魔力が反発しあって、最悪お腹が爆発してしまうらしい
話に聞いただけだが、到底食べる気にはなれない。1部の好奇心の塊……こほんっ、好奇心の塊な方々が挑戦しては病院送りになるのを時々聞くことがある為、魔物は食べ物ではない、というのは周知の事実なのである。
それなら、私が転移魔法で、私が元いた街まで送ればいいだけの話なのだが……
(提案が!出来ません!!)
コミュ障を舐めてもらっては困る。緊急時だろうと、人に話しかけるのはそれこそバンジージャンプをする人間のごとく心臓が張り裂けそうなのである
(でもでも、ここで見過ごすのも同じぐらい心臓が張り裂けそう……せめて、行先さえ分かれば……)
私がひとりぐるぐると考えていると、
〔それでは皆さんと街まで向かいましょうユウリ〕
と当たり前のように提案されてしまった
「ふぇっ?!」
「おお、強い嬢ちゃんとヒーラーの嬢ちゃんが一緒なら、道中魔物の心配はなさそうだな!こちらとしてはありがたいことだ」
「お姉さん一緒に来るの?」
「来うのー?」
「ええ、一緒に来て下さるって。」
「やったー!」
「やったー」
驚く間に話が進む進む
結局何故か、無事だった馬車を使って次の街まで一緒に移動することに決まってしまった。
……因みに、ミソラが馬役を志願したが速攻で却下しておいた。
私にそんな趣味はありません!!
それでは逃げた馬役をどうするのかという問題なのだが……
普通に乗客ごと馬車を浮遊魔法で浮かせた。
だってその方が早く着くし、馬いらないし、一石二鳥である
冒険者の方からは、「ん……?嬢ちゃんヒーラー……なんだよな??」と何故か確認されたが、正真正銘の物理ヒーラーである。(因みに愛想笑いで返したが、引きつった笑いしか出てこなかった。子供に少し引かれた。ショックである)
そんなわけで、数日の道のりを一日ちょっとに短縮して進めることになったのだった
「このスピードなら、食料は一日分もあれば持つか……オークの肉を加工できるのなら食料に困らないんだがなぁ……」
倒したオーク達は、収納魔法で回収してある。素材はもちろんだが、人道に魔物が出てきたことをギルドに報告する必要があるためだ。
〔食料なら〕
視線でミソラがバトンを渡してくれたので(ミソラにその気があったのかは分からないけど)、
収納魔法でみんなの前にそれぞれ1食分のおにぎりを出す。
あ、もちろん皿となる笹の上に出してますよ、衛生面はきちんとしてます
「うおっ?!どっから出てきたんだ??」
〔解。ユウリの収納魔法からです〕
「はぁー。収納魔法はこんなことも出来るのか。まだ暖かいなこのおにぎり」
「美味しいー!」
「おいちいー」
「ありがとうございます、助けてもらっただけでなく食料まで……」
「気に、しないで」
うぉぉぉぉ舌がもつれそうだァァァ頑張れ私の滑舌!
今喋らなきゃいつ喋る!!他人と会話する稽古だと思え!!
うおおおおぉ
……まって。私、ミソラを通じて話すようにすればいいだけなんじゃない??
ナイスアイデア!早速実践を……
「……おお、そうだ、まだ自己紹介をしてなかったな。俺はガルダ。一応Eランクの冒険者だ。」
「私はソアラ。そしてこっちが、私の子のニコルとアミ」
「ニコルです」
「あみでしゅ」
〔私はミソラ。そしてこちらが、私のご主人の〕
「ユウリでひゅ」
最悪だ、噛んだ、穴があったら入りたい
実践する間も無いよ
〔ユウリが望むなら……〕
「嘘です穴を掘り始めないで。埋めて。」
ーーーーー
会話が成り立たない(主に私)事を除いて、順調に街へと進んでいくと、夜になったため、野営の準備をする。
と言っても、寝る場所は馬車があるし、見張りは索敵魔法と結界魔法とミソラが居るため、ほぼ必要ない。
男性が見張りの交代を自ら受け持とうとしてくれたが、ミソラの強さと、結界魔法を張るということ、ミソラが寝なくても平気だということを何とかわかってもらい、
それなら……と、ミソラと共に焚き火の元に居て寝る事で落ち着いてくれた。
私?魔法をかけたら後はぐっすり寝ましたけど?
「索敵魔法に結界魔法って……ヒーラー……なんだよな……??」
なんて疑問の声が聞こえてきましたけど、何回でも言います。物理もできるヒーラーです。