馬車と従者
朝起きると早々に、王子の馬車へと乗せられた
正確には、同じ馬車を拒否し続けた結果、従者と同じ馬車へと載せられることになった
馬車に乗ること自体を避けれず、とても不服だが、王子はそんなこと気づいてもいないようだった
〔ユウリ……〕
「大丈夫、少しイラついてるだけだから」
……というのも、従者の視線がとても迷惑そうだからである
私ちゃんと拒否しましたけれど?王子をとめきれなかったそちらの不手際では無いのですか?
それともうひとつ、何故かミソラが自主的に喋りまくるようになってる。
私の事で怒っているのだとわかって、すごく嬉しい半面、そんなミソラのことを完全に蔑ろにする王子にイラついているのだ
〔やはり、走った方が早いです、馬車を抜けて走っていきましょう、ユウリ〕
「それは果てしなく同意なんだけど、逃げたら捕まえるためだけに指名手配されそうでちょっと、ね。
あと、王宮に用があるのは確かだし、このまま向かった方が入城に手間がかからないかなっておもったりもするから……」
〔入城に関しては、人間国の王子がどうにかしてくれるんじゃないのですか?〕
「私が私だって証明できるのって、今、ギルドカードかミソラの存在ぐらいしかないんだよ。そんな状態だと、流石に門前払いされちゃうと思うんだ。まあ、あの人のことだから何かしら策は打ってくれてると思うけどね」
家を転々としてる者なんて、怪しさMAXだろう、
まあそれでも、本音を言うなら馬車なんてすぐに飛び出してしまいたいのだが……
「あの、すいません……」
「はい?」
いつの間にか迷惑そうな視線をやめていた従者に突然声をかけられる。
「人間国の王子と知り合いなのですか?」
「知り合いというか、依頼を受けているんです。」
「依頼?冒険者ギルドのですか?」
「いえ、直接の依頼でしたね」
馬車内にザワっ……とした空気が流れる
「王子からの直接依頼ですか……失礼、お名前は?」
「ユウリです」
〔ミソラです〕
「ふむ……失礼ですが、知名度はそんなにないですよね?」
「まあ、旅を始めたばかりですので」
「旅ですか?」
「王城から逃げるために旅をしてたんですけれど、まあ、依頼は受けてしまいましたし、依頼のせいで魔族の王城には行かなければならなくなってしまってるので、どうしようかと考えているところですね」
「王城から逃げる……?失礼ですが、その理由は尋ねてもいいですか?」
「Sランク冒険者になるための登城を、したくないのです。コミュ障なので」
「コミュ障?」
「ええ、今でさえ頑張って話してますが本当ならもう黙りたいぐらいなのですが。手を見て見ます?汗びっしょりでしょう?」
服を握りしてめいた手を開いて見せてみると、握りしめていた箇所が濡れた跡が着くほどに汗をかいていた
「なるほど……ですが、黙ってしまったら、どうやってコミュニケーションを取るのですか?」
〔こうやって、ミソラを介して喋ります。
はー。ようやく手汗が止まりそう。とユウリが言っております〕
ようやくいつものスタイルになれて、ほっと一息ついた私とは裏腹に、従者達はヒソヒソと会話をしだした
少したって、話し合いが終わったのか、また私に視線を向けてくる
「ユウリ様、貴方は王子と共に行きたくないのですよね?」
〔はい、そうですよ?〕
「それならば、私達が協力しましょうか?」
〔え、良いのですか?私の見張りも兼ねているのでしょう?〕
「確実とは言えませんが、ミソラさんをお借り出来れば、時間稼ぎをできます。その間に、王城への用事を済ませ、帰ってきていただければ、そのままミソラさんと共に他の国へ向かっていただければ…」
〔なるほど、ここから居なくなったとしても私はなんの問題もない、ですね。ですが、なぜこのような提案を?〕
私が純粋な疑問をぶつけると、少し苦笑いして、答えてくれた
「平民を嫁にというのはやはり問題があるのですよ。それに、会話もできないのでは社交場へ連れ回すことも出来ない。王太子妃としてそれは致命的です」
〔それを言われたらぐぅのねも出ないですね…ははは…〕
ここで実は私が姫だとわかったとしてもきっと後者の理由で同じ提案がされたであろう。
私としては願ったり叶ったりだ
〔では、お願いしてもいいですか……?お城に入れるかどうかで掛かる時間変わってくると思うんですけど……〕
「任せてください。何度も王子の無茶ぶりに耐えて……ゴホン、適応してきたのでこのぐらいは朝飯前です」
ボロっと本音こぼれてるぞー、おーい。
〔……分かりました、では、私は先にお城に向かいますね〕
「ご武運を」
とりあえず、飛ぶためには馬車から出なきゃ行けない。
私は、馬車の窓から身を乗り出し、サナギから羽化する蝶のようにして、屋根の上に登った。
もちろん、幻覚魔法を使って馬車付近の見た目は変わってないように偽装しながらだ。
これがちょっと難しかった……というのも、羽が大きすぎてなかなか抜けなかったからだ
……とまあ、そんな情けない姿を晒しつつも、屋根に乗れた私は、一気に羽に風を掴み、直線で上に飛び上がった。
豆粒ぐらいにしか馬車が見えないぐらいにはすぐ距離をおけたので、そのままの高さで魔族の国の王都へと、私は1人飛んでいくのだった。