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出生と運命の恋人

私の本当の名前はユイ=ルウァン=アスカルト。獣人族の王族であるアスカルト家の王子……が使用人の魔族との間に作った子供だ。

王子の王位継承権の位は低く、本来なら英才教育を施されるはずだったが、平民との間の子という理由も相まって、平民として育ってきた。

それでも、存在を認知して貰えただけ、平和に何不自由なく暮らせていたと思う。多分、獣人国の王の采配だろう。とてもありがたかった


しかし、王が病にかかり、亡くなるかもしれないとなったその時、貴族の中に、傀儡となる王を生み出そうとする目的からか、他の策略からか、何故か私を押す声が聞こえてきたのだ。


幸い、王は病から回復したものの、私の存在が貴族に知れてしまい、私の暗殺を試みるものまで出てきてしまった。


その為、私は母が亡くなった年の16歳の誕生日に獣人国の王都を出て、平和だと有名な人間国へと逃げたのだ。


幸い魔法は、魔法が得意な魔族であった母から教わることが出来た為、大人になったのも理由に冒険者としてギルドに登録しての旅が可能だった。

途中、狩りの依頼なんかも受けながら、基本護衛依頼をこなしてアンナのいるあの街へと着いたというわけだ。


(あの頃はアンナは受付嬢だったな……)

明らかに見た目が子供の私を見て、心配して声をかけてくれたのだ。ギルドカードを見せてようやく、大人だと信じて貰えたが、道中のギルドでも中々信じて貰えず苦労したものだ。

(名前を聞かれて噛んじゃって、ユウリって登録された時はどうしようかと思ったけど、そのおかげで追っ手から逃げれたし良しとするか)


私の年齢と女性ということもあって、国は私が亡くなったとして処理したらしいことを、

アーティファクト関連でよく話すようになったアンナが教えてくれた。


(あの時はまさかアンナが、受付嬢からアーティファクト登録員に仕事帰るとは思ってなかったなぁ)

まあ、そのおかげで初手を素早く逃げることが出来たのだが……


(……王子に捕まってるからどっちにしろ意味なかった?いや、旅を許されてるから、マシな方向に変わったと信じよう)

無理やり王都に呼ばれるようなことにはならなかっただけありがたいと思うべきだろう。やろうと思えばできるのだから。


(それでも魔族の国の王都へは行かなきゃいけないのか……何とか、アイテムだけ渡しておさらばさせて貰えないか交渉しようか……)

奴隷達を次の街の門番に引き渡すまでの間、ずっと同じことを考えていたが、いい案が思い浮かばない。

いっそ強行突破で帰らせてもらおうかなどと考えてしまったほどには、思考が行き詰まってしまった


(いっそ、ミソラを運命の恋人ってことにして、離れたくないのでって言えば、戦力を持ったままの人を王様と会わすわけないだろうしアイテムのやり取りだけで済まないかな。)


運命の恋人というのは、魔族の間で流行ってる噂である。

魔力値や魔力の構造が近いもの同士が近くに居ると、恋をしたかのような錯覚に襲われることから、

魔力の近しいもの同士だと子供が生まれやすいという理由もあって、「運命の恋人」などと呼ばれているのだ。


ただの噂ではあるが、下手に信憑性をもっている為、王族と言えどただの噂と片付けられない状態らしい

現に、運命の恋人と出会ったという幸せな家庭があるのも事実だ。

略奪愛云々になりかけるケースもあるが、まあそれは人それぞれだろう

それに運命の恋人が1人と限らないのも、国がどう対応するか決めあぐねている理由だ


(実際、私の父と母も運命の恋人という繋がりで関係を持ってしまったわけだし、ミソラとの魔力相性は良いし安心する。ミソラが人だったら本当に運命の恋人だったかもしれない)

まあ、その場合コミュ障が発動してまともに喋れないかもしれないが……タラレバの話はいいだろう。


門番に奴隷を引き渡した後、そのままその街で一泊することにした。

追われてる旅でもないし、少しのんびりしたかったからである。


「ミソラ、買い物行こうか」

〔買い物ですか?必要なものは揃っていると把握してますが〕

「そういうのじゃなくて、なんて言うのかな、ちょっとのんびりお店を見て回りたいの」

〔了解です。のんびりモードに変更。いつでも戦闘モードに切り替えれるように細心の注意をはらいます〕

「もう、私が探索魔法してればいいんだから、普通にのんびりしてていいんだよ?

そもそも街中で戦闘になったら騒ぎになっちゃう」


そんなやり取りをしながら街へ出ると、街は商店露店で賑わっていた

因みに、姿は本来の姿のままだ。王都が近いここなら、ほかの種族がいてもおかしくないから目立たないだろう、という理由と、ただ単に翼を隠した状態で背中の見える服を着るのが恥ずかしいってのが最大の理由だ

人間国にいた頃は我慢して背中の見える服を着ていたが、如何せんロリ体型なため、似合わないのである。


〔様々な店がありますね。どこから回りますか?ユウリ〕

「そうだね、大通りを端から見てこっか。」


果物、野菜、肉等の食べ物のお店に混ざって、雑貨や武器屋、服屋等が並んでいる。


雑貨屋で見つけたキーチェーンをミソラにあげた。歩く宝箱の鍵をずっと私のアイテムボックスにしまったままだったのだが、それだとミソラが使いたい時に使えないからだ

ミソラ自身もアイテムボックスは使えるが、どうせ大事なものをしまうこともないので、アクセサリーとして身につけさせてみたわけだ。

ちなみに、歩く宝箱はミソラのアイテムボックス内に居る。

というか歩いてる。きっと。恐らく。


しばらく見て回ってると、馬車が通るらしく、街の人々が道をあけていった。流れに逆らわずに道を開けると、計、3台の馬車が通った


その時、急な動悸に襲われた。耳の奥が心臓になってしまったかのような大きな動悸に耐えきれなくなって、頭を押えながら蹲ると、

馬車から誰かが出てきたのを視線の隅に捉えながら……私は気を失った



ーーーーーーーーーーーーーーーー


「……知らない天井だ」

目覚めて一言目に何となく言わなければならない気がして言葉を漏らした

周りをよく見て見ると、街に出る前にとった宿の部屋のベットの上だということがわかった

そして、ミソラが居ない。

それだけでパニックになりそうになるが、気配を探る魔法を使うと、扉の前にいることがわかった

ほっと落ち着いたのもつかの間、今度は同時に気配に写った人物に対して不思議と動悸が治まらないのが気持ち悪く感じた


「ミソラ、居るんでしょ?入ってこないの?」

〔ユウリ!〕

ミソラに呼びかけるとすぐにミソラが中に入ってきた

そして、入ってきてすぐ、私を抱きしめると、扉の方に向けて睨みを効かせた

どうしたのだろうと思って視線の先を追うと、例の動悸の原因の人物がそこにいた

〔ユウリはもう元気になりました。だから王城へは行きません!〕

「元気がないから王城にと読んだ訳では無いユウリなら分かるだろう俺たちは運命の恋人だ、結ばれるべき存在なのだ」


〔ですから、運命の恋人ってなんですか!そんなものでユウリが気絶したんだとしたら私は……〕

「ミソラストップ。それ以上は言っちゃダメ」


微かな会話で現状を把握しよう

動悸の原因は運命の恋人で、その運命の恋人(笑)が何故か王城に私を連れていこうとしている。

王城にってことは貴族だ。それも恐らく位の高い者だろう

子供が生まれやすくなるという理由から、貴族は運命の恋人を見つけたら囲えという風潮があるらしい事をぼんやりと今思い出したが、恐らく囲い込みの過程で王城に用があるほど権力を持ったものだということだ。


……ったく。運命の恋人が善人とは限らないのに思い切ったことをするものだ。


「ユウリが起きたならユウリに決めてもらえばいい。王城に来るだろう?」

「いいえ」

「ほれみろ来る……って、は?何故だ?王城だぞ。平民には一切縁のない場所だぞ。来たいと思わないのか?」

本当にありえなそうに返してくるあたり、自信満々だったらしい。不敬だと言われなかっただけまだ良かったな

だが、ここでミソラを通して会話なんてしたら不敬だと言われてしまうかもしれない。

仕方が無い。声を振り絞って返答する


「行きたくないです」

「俺と運命の恋人だぞ?贅沢できるんだぞ?なんで来たがらない……はっ、もしや、ミソラ貴様……」

「ミソラは関係ありません」

咄嗟に関係ないと言ってしまった。これでは、ミソラと恋人だからと断ることが出来なくなった

「ならば何も問題あるまい!私の妻になってもらうぞユウリ」

「お断りします。そもそも!あなたに感じてるこの動悸は不信感と不快感だけです!恋人になんてなりません!」

「なっ……馬鹿な……」


ようやく勢いが収まったらしいので相手の顔を見ると、なるほど確かに動悸が早まるのを感じる。

だがしかし、王城に用があるほどの貴族となんて結婚するつもりは無い

このまま押し通そうと考えていると、

「ふ、ふふ……俺の事をよく知らないからそんなことが言えるんだ。俺は第1皇子だぞ王位継承権1位の偉いやつなんだぞ。断られるわけが……」

「それ、あなたの父が偉いのであってあなたが偉いわけでは無いですよね」

「なっ……」

「あっ……」

思わず言ってしまって口を閉じるが、漏れ出た言葉はもうどうしようもできない

「貴様……こうなったら王城に着くまでに俺に惚れさせてやる……明日出発の馬車に同行しろ。良いな。」

そこまで言うと、カッコつけたいのかマントを翻して宿屋から去っていった。

王子の護衛らしい気配も全て消えてから、私は大きくため息をついた


「はぁ……なんだってこんなことに……」

〔ユウリ……あいつヤりますか?〕

「やめてミソラ余計ややこしくなる……」


深いため息とともに、今夜は寝れそうにないなと思うのだった

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