穴
「てか、さっきの人何?気持ち悪いんだけど」
私が言うと友人のカオルが訝しげな顔をして
「なんかの勧誘?気持ち悪いよね」
と言った。
ついさっきの話だ、友人のカオルとの買い物帰りに駅に向かっていると女性に呼び止められた。
「あなた…」
と言い私の右肩に触れた。私は慌ててその手を払いのけ
「何なんですか!」
と聞くと
「あっごめんなさい違うのよ、そうじゃなくて…そうね驚くわよね」
女性は何か混乱しているようで
「本当に悪気じゃなくて、あなたが」
と言い口籠った。カオルが
「あなたが?何?変な勧誘なら必要ないけど」
とキツく言うと女性は
「…そうね多分あなたはそういう星に生まれたのかもしれないわ。だから守ってもらえているのね、良かった」
といい去っていった。
私達はぽかんと女性の去った方を見ていた。
「チアキってさ時々変な勧誘にあうから気をつけなよ、この間だって」
この間は男性、その前は女性と街でよく勧誘にあう私はいいカモに見えているのだろう。
「こうキッ!と睨んで歩くとかさ」
「イヤイヤ睨みながら歩くって出来るわけないし」
と言うとカオルが
「こっちには誰も寄ってこないのに」
勧誘されたいのかよ
と心のなかで突っ込みながらフフッと笑った。そして私達は電車に乗り込んだ。
暫くして別の友人から電話があり
「土日だからお願い手伝って」
と頼まれてある山奥の駅の側にある閉校された小学校にボランティアをしに行った。
地域の皆さんを呼んでのイベントが開かれるのだ。
「スゴイこれ全部用意したの?」
「皆でね」
「へえ~」
そこには子供達が喜ぶ金魚すくいやボールすくい、綿あめやアイスクリームも販売していた。
大人の向けには産直野菜や不用品のリサイクル、アウトレットの洋服などが販売されていた。
「お昼は焼きそばとお好み焼きとたこ焼きにフライドポテトがあるから、合間で交代しながら好きなの食べてね。はいっチケット」
といい引き換え用のチケットを貰った。
昼頃に交代し私はお好み焼きを受け取り食べようとしたとき携帯がなった。
知らない番号
私は不思議に思いながら
「ハイ」
と電話に出た。
「チアキあなた今どこにいるの?」
「え?」
その声は母だった。
「だから今どこにいるの?」
焦った口調の母に驚きながら
「大学の友達のトモって子に誘われてイベントの手伝いに来てるんだけど」
「え?誰って?」
「だから大学で一緒だったトモちゃん」
母は何かを考えているようだった。
「え?何?何かあったの」
と慌てて聞くと
「いい取り敢えずそこで作ったものを飲んだり食べたりしないこと」
と言われ私は
「え〜美味しそうなのよ?」
「まさかもう飲んだり食べたりした?」
「あー水筒は持参してるから、でもさすがにお昼は食べないと」
と言うと母は強い口調で
「食べちゃダメ!絶対にダメ。それと急用が出来たって言って早く帰りなさい良いわね」
というので私は仕方なくわかったと答えた。
あそこまで言うのにはなにか訳が有るはず
と思った私はお好み焼きをそばにいた子供にあげた。
そして持ってきていたクッキーを食べたあと持場に戻り
「あら早かったんですね良いんですか?」
「あーえっと今家から電話があって今すぐ戻ってこいって言うので帰らせてもらっていいですか?」
というと同じ持場の彼女は驚いた顔になり慌てて
「ちょっと待っててください、言いに行ってきますから」
と言い去っていった。
暫くしてトモが慌ててやってきた。
「本当にもう帰るの?これからなのに」
と言われたが私は母に言われたように
「ゴメンね本当に急いで帰らないと」
と言い帰ろうとした。
すると白いTシャツを着た二人が慌てて私の腕を取り
「駄目ですよ早く着替えて行かないと」
と言う。私は驚きながらも
「離してください何なんですか!」
そんな私を早くと急かし引っ張って行く。
その時私の背筋がゾクッとし真っ黒な渦の中にあいた穴が目の前に現れた。
行ってはいけない
とっさに思い
「離して!どこに連れて行くのよ私は行かないから」
と言い腕を払うと皆眩しそうに目を伏せた。
それがおさまるとトモは驚いた顔で
「やはり素晴らしい!」
と言い二人は
「何と選ばれた方だった。さぁこれから神の光に触れることができますよ」
「なのに帰るだなんて勿体ない事をする気ですか?」
と腕をひっぱる。そんな奥で一緒の持場だった彼女が男性に手を惹かれて無表情で歩いているのが見えた。私は大声で
「八十村さん八十村さん」
と叫んだが無表情のままの彼女の代わりに隣の男性が私を睨みつける。
取り込まれた
私はそう感じた。
「あなた達、彼女に何をしたの」
二人は何を言っているのかと首をかしげた。
ふと私は駅で見知らぬ女性に触られた右肩を思い出し、一人の手を右肩に置いた。
「ギャッ」
と言い彼女は手を離しもう一人は何があったのかと驚いている。
「どうした」
「電気の様な…」
もう一人が神妙な顔で私を見る。
「神の光って何?私には必要ないから」
といい玄関に向かう私を慌てて引き留めようと追ってくる二人。
私は思わず駆け出した。
その時また携帯がなり出るとカオルからだった
「お母さんから電話があって、今車で迎えに行っているから俺が行くまで耐えてくれ」
と言われ私は
「分かった頑張るから待ってるから」
そんな私の腕をトモが捕まえ
「もう駄目だよ逃げ出しちゃあ嫌われちゃうじゃない」
というので
「嫌われるって何?あなた達の神様って何?」
と聞くとニヤリと笑いながら
「暗闇に一筋の光のような方でいつもは箱の中でお眠りになっていらっしゃる。その方の復活のためにこの血を捧げるのが私達の役目よ」
平然というトモのあまりの怖さに私は何も言えなくなった。
「素晴らしい力を持った貴方だから素晴らしい…」
「生贄?」
ギョッとする三人に言ったあと突然目の前にあいた穴に気付くと三人も穴に気付き
「あぁ呼んでおられる!さあまいりましょう教祖様に会いに」
あの穴の中に入っちゃだめ!
何処からか聞こえる声が頭の中に響いている。
「教祖様?イヤイヤそれなら私も不思議な力が有るっていうんだから教祖様になれるわよね!だからあなた達とは一緒にいかない」
と叫び私は走り出し入り口にとめてあるカオルの車に飛び乗った。
「早く出して」
と言うとカオルは慌てて車で走り出した。
それから暫くして電車に乗っていると、ふとあのときの事を思い出した。
「本当にあの時は迎えに来てくれて助かったよ」
「あれはお母さんの手柄だから。本当にあのおかげで友達から彼氏に昇格できたからお母さんには感謝してもしきれないなぁ」
と微笑むので私は気恥ずかしくなった。
その時急に手のひらがチカッと痛くなり手を見ると真ん中に赤い点が
付けられた!
瞬間に思った私は
「消毒用アルコールもってる?」
とカオルに聞くと
「持ってるの知ってるくせに」
といい差し出した。
私がその赤い点をアルコールでふき取ったあと顔を上げると反対側に座っていた二人が席を立ち去っていった。
カオルが不思議そうに
「あの人達ってそうなの?」
と聞いてきた。私は頷きながら
「うん多分」
と答えた。
まだ諦めていない
これで安心と言うわけにもいかない
母さんに連絡しておかないと
私は急いで母にメールをした。
私の母は色々と見える人だ。
最近は歳を取るにつれ見えなくなってきているようだが、私に何かがあるといつも連絡が来る。
そんな母の娘ではあるが私にはなんの力もないと思っていた。
でも…
私にもなにか力があるのか?
それとも母の血のせいなのか?
どちらにせよ、いつの日かまたあの人たちと会うことになるだろう。
その日まで私は私を強くしなければ、母に頼り切ってはいけないと強く心に誓った。