8話 タイムリミット
〈モンスター紹介〉
獣王マッスルベアー
大昔に封印されたモンスターだが封印が解けてしまい、亜人の国をうろついている。
非常に凶暴で、特に睡眠を妨げられると容赦しない。
犬が苦手で、犬系亜人を見ると逃げ出す。その為、犬系亜人の住んでる地域は被害が少ない。
~ガルシアの町 冒険者ギルド~
「う~ん…ここは誰?俺は何処?」
「あ!目が覚めましたか?ちょっと混乱してるみたいですけど、大丈夫ですよ。直ぐにノアールさんを呼んできますね」
声の主はローリーだ。この木造の建物…ギルドのようだが、こんな部屋が有ったのか?
ベッドから起き上がると、横でセシールが突っ伏して寝ていた。ここまで運んでくれたのだろうか?
実を言うと、転生した時から亜人の猫耳が凄く気になっていた。
セシールの猫耳を、ちょっと触ってみる。
触るとピョコピョコ動く。
「…ふむ、なるほど」
何が「なるほど」なのか良くわからないが、思わず声に出た。次は耳を掴んで、フニフニやってみる。やはりピョコピョコ動く。
「…エッチ」
ビックリした!?起こしてしまったようだ。
「ダイスケさん。目が覚めましたか。なんでもマッスルベアーと戦って生きて帰ってきたとか。いや~運が良い。一歩間違えば『脊髄ぶっこ抜き』されてますよ」
何だ!?その物騒な技名は?
「ダイスケ?それが主の名前か?何で私には教えてくれなかったんだ!?」
「セシール、ちょっと黙ってろ。俺を助けてくれた奴等は?礼を言いたい」
「ダイスケさんを助けた冒険者は、また直ぐに出発してしまいました。『お大事に。無理はするな』と伝言を預かっております。どうも他国の冒険者らしく、名前等は登録されてないので分かりませんでした。男性の方はマッスルベアーを手懐ける一歩手前まで追い詰めたそうなので、相当の手練れです」
あのマッスルベアーを!?噂の俺tueeee系という奴か?
「因みに、女性の方はナイスバディなサキュバスでした。それはもう大きなおっぱ…いけない、鼻血が…」
「サキュバス?何だそれ?」
聞いた事あるような気がするが、何だったかな?
「え?ご主人様、サキュバスを知らないのか?」
「…ご主人様??何ですか?ご主人様って??」
ローリーがジト目で睨むように問い掛けてくる。
「な、何でもないから(汗)。セシール、俺は他の転生者と違って、異世界だのファンタジーだのの知識は無い。サキュバスって何だ?簡潔に教えろ」
「サキュバスってのはエッチな悪魔だ。寝てる男性の夢の中に入り込んで、夢の中で…」
「簡潔に!」
「エッチな事をすると強くなる悪魔だ」
「なるほど。良く分かった」
「ダイスケさん。ずっと気になってるんですけど、そちらの方は?上下関係は手に取るように分かりますけど」
ローリーに問われる。
「妻です」
「嘘つけ!?シェパード山近くのゴブリ…」
セシールに口を塞がれる。
(それは言わないで!ゴブリンに捕まってたなんて言ったら、皆あんな事やこんな事されたって誤解されるから!私、捕まってたけど、何もされてないから。される直前だったけど)
セシールに小声で口止めされる。
「ダイスケさん?」
「え~と、あれだ。道に迷ってたセシールと手を組んで、一緒に駆除対象モンスターを狩ってたんだ」
「…ホントにそれだけですか?今『妻』って聞こえましたけど?」
「セシールが勝手に言ってるだけだ。俺はロー…」
「?」
ローリーの方が好みだなんて、本人の前で言えるわけがない。
「いや、何でもない。それより、今何時だ?」
部屋の時計を見る。
「え~と…大変申し上げにくいのですが、10時半です」
ノアールが申し訳無さそうに答える。24時間トライアルの開始時刻を覚えれいないが、おそらくトライアルは終了している。
「ノアールさんは悪くないだろ。しかし、10時半か…シュワルツ君は来たのか?」
「いえ、まだです」
「ご主人様、シュワルツ君と言うのは?」
「シュワルツ君ってのは…」
「俺の事だ。呼ばれた気がして戻って来たぜベイベー」
噂をすれば、鬼のシュワルツ君が転移魔法でやって来た。
ノアールとローリーはサッと机の裏に隠れる。
「う゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ァ゛ぁ゛!?」
セシールはパニックになっている。手を掴んで自分の後ろに隠れるように誘導した。
「シュワルツ君。24時間ぶりだな。それで、俺の判決はどうなったんだ?」
「その事なんだが、手違いがあってな」
どうやら閻魔大王は、俺の行動を動画配信サイトHellTubeで24時間ぶっ通し生配信をし、その動画のイイネの数で地獄行きか無罪放免かを決めようとしていたらしい。
しかし、運営から「24時間生配信?バカじゃないの?最大3時間だよ」と言われたんだとか。利用規約はちゃんと読むべきだ。
それで、今からステルスドローンで撮影していた動画を編集して投稿するらしい。
「編集、投稿、評価、集計、判決。早くて1週間。遅ければもっと掛かるかもしれん。判決が出るまでは仮釈放。ここで自由に過ごしてて良いそうだ。」
急に猶予ができてしまった。
「因みに、シュワルツ君はどう思う?見てたんだろ?」
「…モンスターハンティングだけだったらイイネは貰えなかっただろう。だが、そのセシールって娘が仲間になってから夫婦漫才が面白かったからな。無罪放免狙えるんじゃないか?」
「夫婦じゃないから!」
「…そうは言いつつも、嫁さんを守るようにしてるじゃないか」
後ろのセシールを見る。瞳がハートになっている。吊り橋効果で更に好感度が上がってしまったようだ。
「俺はローリー1択だから」
「え?」
ローリーの声。しまった!?ローリーは直ぐそこの机の裏に隠れてるんだった。慌てて口を塞ぐが、手遅れだ。
「泥沼の三角関係か…実に面白い。予定には無かったが、今後も録…監視させてもらう。あ!夜中にニャンニャンするのは見ないようにから安心してくれ」
いや、絶対見る気だろ?
「それじゃ、俺は帰る」
「あ!待ってくれ」
帰ろうとするシュワルツ君を引き留め、収納魔法に仕舞っていたアメリカンバイクを取り出す。
「拾い物だが、要らないか?」
シュワルツ君がアメリカンバイクをマジマジと見て回る。
「良いバイクだ。欲しいが、異世界の物を地獄に持って帰るには手続きが要る。また今度引き取りに来るから預かっといてくれ」
そう言って、シュワルツ君は帰…
「言うの忘れてた。アイルビーバック」
いつものセリフを残して帰って行った。
1章の24時間トライアルはこれで終了。
2章からは仮釈放の1週間が始まります。