6話 セシール
〈キャラクター紹介〉
ローリー・ハウンド
ギルドの受付嬢。猫系亜人と犬系亜人のハーフ。
チャラい転生者にウザく口説かれて以降、俺TUEEEE系転生者が大っ嫌いになった。その為、能力の高い転生者を見ると差別的な発言をしてしまう。
能力は高くても威張り散らしていないダイスケの事は気に入っている。
~北の街道~
町の食堂で夕食を摂り、北のシェパード山方面へと向かう。
盗賊団から貰ったオフロードバイクで駆け抜ける。夜風が心地良い。
シェパード山までもう少しの所でバイクがエンストした。
故障ではなく、燃料切れのようだ。元々ガソリンが入ってなかったらしい。燃料計が付いていないため、気付かなかった。
近くにガソリンスタンドは無く…というか、この世界に車やバイクが無い。昼間に見掛けたのも馬車だった。
魔法でガソリンを作れれば良いのだが、何度試しても、どうも上手くいかない。魔法も万能ではないらしく、無から有は作れないようだ。『原油』か、それに近い物が必要だ。
バイクは収納魔法に仕舞い、魔法で移動することにする。
「空を飛ぶイメージ…風の翼!」
魔法の翼を纏い、空を飛ぶ事にした。
丸太をぶん投げて、その上に飛び乗る方法も考えた。しかし、転生で身体能力が向上していても無理な気がする。あの曲芸は、鶴や亀の仙人の元で修行する必要が有るだろう。
「おい、早くしろ!奴等が、もうそこまで迫ってるぞ!!」
地上から大声が聞こえた。松明の明かりが見える。
高度を下げて近付く。馬車が溝にハマって身動きが取れなくなっていた。商人の馬車っぽい。
「俺も手伝おう」
「うわぁ!?たまげた!お前、何処から…いや、今はどうでも良い。手伝ってくれ」
馬車を後ろから押し、溝から脱出させる。
「兄ちゃん、力持ちだな!…うわ!来やがった!!」
駆除対象モンスターの『クレイ・ボア』だ。イノシシ型のモンスターで、農作物に被害をもたらす。食べ物の匂いがすれば馬車も襲う。
「行け!俺が食い止める」
「すまねぇ。感謝する」
馬車を行かせ、自分は戦闘態勢になる。
「喰らえ!火属性魔法!」
クレイ・ボアの丸焼きが完成した。
食べてみたが、なかなか旨かった。
~シェパード山の麓 ゴブリンの巣~
5体ほどクレイ・ボアを胃の中に駆除したところで、洞窟を見つけた。
中はゴブリンの巣だった。
ここのゴブリンは駆除のリストには無かったが、襲い掛かって来たので火属性魔法で滅ぼしてやった。
「正当防衛だ。悪く思うな」
ゴブリンの丸焼きは臭いが酷く、食欲は湧かなかった。というか、2本足で立って歩く種族は食いたくない。
「お前は!?…私には分かるぞ。ゴブリンから解放すると見せ掛けて、私にあんな事やこんな事をする気だろ!?この年中発情期のサルめ!」
奥で猫耳の女騎士が囚われていた。ロープで縛られて身動きできない状態だが、威勢は良い。
助けてやろうかと思っていたが、サル扱いにイラついたので、女騎士の手が届きそうで届かない絶妙な位置にナイフを置いて「自力で縄切って出ろ」と言い残し、その場を離れた。
「え?ちょっと待て!ゴメン、今の無し!悪かったから!謝るから、お願い。助けて!」
だが断る!
「お願いします。何でもしますから!」
直ぐに引き返し、ロープを切ってやった。
「今、何でもするって言ったな?」
「え…あれ??え~と、アレは…」
「言ったよな?(威圧)」
「は、はい!」
亜人の女騎士を強引に仲間にした。
名前はセシール。レベルは45でかなり強いと言い張ってるが、だったら何故ゴブリンに捕まった?嘘なのがバレバレだ。
~西街道~
セシールを連れ回しながら、駆除対象モンスターを倒していく。
思った通り、猫系亜人は耳が良い。暗闇の中でも的確にモンスターを発見できる。
モンスターハンティングは予定よりも遥かに順調だ。
~シャムネ湖~
モンスターを倒しながら、西の湖にまで来た。綺麗な湖だ。
この近くの遺跡に、ゴブリン共が住み着いているらしい。
「セシール、ゴブリン共の声や足音が聞こえるか?」
「向こうから聞こえてる。というか、盛大に宴会してる」
セシールに案内してもらい、ゴブリンの巣を探す。
~シャムネ湖 南遺跡 地下~
遺跡の地下がゴブリンの巣だった。
「あん?何だテメーら」
「ゴブリンが…喋ってる!?」
背の高い8頭身のイケメンなゴブリンが話しかけて来た。何だコイツ?
「ホブゴブリン?にしては筋肉が少ない…そうか!ニンゲン、あれはユニーク個体だ!」
セシールを睨み付ける。
「…すみません。『ご主人様』でした」
セシール曰く、ユニーク個体と言うのは、通常とは異なる進化をした『突然変異種』。人間並みに知能が高かったり、無駄にイケメンだったりするそうだ。稀に転生者がモンスターの姿になっていたりもするらしい。
「で、何の用だ?見ての通り、今日は俺の誕生会だ」
え?見ての通り?誕生会??酔っ払いだらけの悲惨な居酒屋にしか見えない。
「単刀直入に言うと、周囲の村への略奪行為により、駆除の命が来ている」
「略奪?俺達はそんな事してない。きちんと農業を営んで、商売もしてる。何かの間違いじゃないのか?」
「…この近くに、他のゴブリンの拠点が有るか?」
「北に有るぞ。あっちはユニークの居ない、野蛮な集団だ。駆除するべきはそっちじゃないのか?俺達はインテリ系の平和主義者だぞ」
「そうか。邪魔したな」
人違い…いや、ゴブリン違いだったようだ。セシールと共に、北に向かう事にした。
~シャムネ湖 北遺跡~
こちらの遺跡に地下は無かった。
イケメンゴブリンの言う通り、野蛮系ゴブリンが襲い掛かって来た。
「闇属性魔法」
指先から出た紫色のビームが、ゴブリンの心臓を貫く。
「ニン…ご主人、なかなかやるな!どれ、私も…てりゃぁぁ!」
セシールが剣を構え、威勢良く突撃した。
「あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
セシールは弱かった。ゴブリン達に捕まり、武器と鎧を盗られ、胸やお尻を触られている。
「ご主人様!見てないで助けて下さい!!」
「やれやれ…高速2倍化魔法」
この魔法で、いつもの2倍の速度で体が動くようになる。
一瞬でゴブリン共を蹴ったり殴ったりパイルドライバーしたりして、セシールを救出した。
「ご、ご主人様~。もう少しでゴブリンに○○○させられるところでした~。このご恩は一生忘れません。私、ご主人様に一生付いて行きます(泣)」
セシールが泣きながら胸に飛び込んでくる。
人をサル呼ばわりするムカつく猫だと思っていたが、意外と可愛…
「あー!お前、ちゃっかり鼻水を俺の服で拭いただろ!?クソッ!一瞬でも可愛いと思った俺が愚かだった」
「ご主人様!残りのゴブリン達がズボン脱いでフル○ンで突撃してきます!!」
迎撃しようとするも、セシールに抱き着かれて身動きが取れない。体術は無理だ。
「あ゛ー!メンドクセー!!爆裂魔法!」
残りのゴブリンは爆裂魔法で吹っ飛ばした。
「これで終了。夜も明けそうだ。セシール、帰るぞ。…いい加減、離れてくれ!」
「私は、か弱い乙女です。守って下さい」
「ついさっきまで騎士だっただろ!騎士道精神はどこ行った!?」
「武器も鎧も奪われました」
「そこに転がってるだろ!」
「武器も鎧も身体さえも、ゴブリンに汚されました」
「変な意味でなく、土でな!」
「もう、お嫁に行けません。貰ってください」
「残念だが、俺には心に決めた女性が…ええい!涙目で訴えるな!心が揺らぐ」
「この世界は一夫多妻制です。私は2番でも3番でも構いませんから!」
セシールを説得するも、聞き入れて貰えない。
とりあえず町に戻る事にした。
残り時間 6:00