5話 ハーフタイム
〈キャラクター紹介〉
ノアール(偉そうなオッサン)
犬系亜人で、冒険者ギルドのオーナー。ホントに偉い人。
冒険者がギルド職員を口説こうとすると、必ず話に割って入って来る。
酒とサキュバスとギャンブルが好きだが、限度をわきまえている紳士。
~ガルシアの町 冒険者ギルド~
帰り着いた頃には、夕方になっていた。
「あ!おかえりなさ…ダイスケさん!?何があったんですか?ボロボロじゃないですか!?」
ギルドはローリー1人だった。購買部も閉店。2階の食堂も閉店し、階段は鎖が張られている。
クエストボードにも「本日のクエストは終了しました」と張り紙がしてある。
「モンスターの大群に取り囲まれて、フルボッコにされた。殲滅して来たが…もしかして、俺待ちだったか?」
「いえ、今日は私が残業当番なので。それより治療しないと!凄い出血ですよ!」
「いや、これは返り血だ。自分の傷は、魔法で塞がってる。それよりクエスト完了の手続きを頼む」
ローリーにアイテムバッグを渡す。
「ダイスケさん、モンスターの素材は…」
「入ってない。盗…ハンター達にくれてやった」
わかりました。では手続きしますね。
手続きが終わるまで、その辺に有った椅子に腰掛ける。
「ローリー、ここは禁煙か?」
「禁煙?あ!煙草を吸えない場所の事でしたっけ?ここは煙草吸えますよ」
盗賊団が「守ってくれた御礼に」と煙草をくれた。この世界の煙草で「MATATABI」という銘柄らしい。
煙草に火を付ける。
「ゲホッゲホッ!…何だこりゃ?凄く独特な味と香りだ」
「ダイスケさん。それ猫系亜人用のマタタビ煙草ですよ。高級品ですけど、ニンゲンには合わないかと…」
「礼にと貰ったんだが…やっぱり、あいつ等バカだな」
「文句は言いつつ、吸うんですね(笑)」
「…折角、貰ったからな。捨てたら悪いだろ」
マタタビ煙草の箱を見る。ニコチン、タールは含まれていないらしい。疲労回復効果もあるようだが、人間に効くのだろうか?
「ローリー。君はマタタビの匂い嗅いでも平気なのか?猫系亜人だろ?」
「あ!私は猫系と犬系のハーフなので平気です。ほら、耳は猫でも尻尾は犬でしょ?」
カウンター越しで見てなかったが、確かに犬の尻尾だ。モフりたい。
「手続き完了です。私は倉庫でアイテムバッグの中身を整理しますので、ダイスケさんは…」
「手伝おう。かなりの量だ」
「え?でも…」
「男手が必要だろ?俺も『人助けしろ』と言われてるから、手伝える事が有るなら積極的に手伝いたい」
「…わかりました。では、倉庫に案内します」
~冒険者ギルド 地下倉庫~
ギルドの建物には地下室が有った。明かりは裸電球だ。
「…電気って、発電はどうしてるんだ?」
「魔石発電です。電気に詳しい転生者が開発しました。今では全世界に広まっています」
拾って来た物の中には家電も有る。電気が有るなら、この世界でも使えそうだ。
ローリーの指示に従い、先ずは医薬品を仕分けする。
「今回、やけにマスクやアルコールが多いですね?いつもなら抗生物質や漢方薬が多いんですけど」
「ああ。流行り病で沢山作られたからな。無くなった方はパニックになってるだろうけど」
医薬品の棚には十分とは言えないが、様々な薬が保管されていた。
次は食料品の仕分けだ。
「この魚の缶詰、お爺さんのパッケージでしたよね?赤い軍服の仮面男に変わっちゃったんですか?」
「いや、期間限定のパッケージだ。中身は変わらんよ」
食料品の棚には缶詰を中心とした保存食が並んでいた。
「あ!ダイスケさん。そのレトルトのハンバーグは廃却です。私達は玉ねぎが食べられないので」
亜人は、犬や猫が人間同様の進化をした種族らしい。だが玉ねぎを食べられないのは変わらないようだ。
捨てるのも勿体ないので、貰う事にした。
「これは?」
「ドライヤーと言って、濡れた髪の毛を乾かす道具だ。ここのコンセントに差し込んで、スイッチON…ほら、温風が出るだろ」
「か、革命じゃないですか!?」
ローリーはドライヤーを大変気に入ったようだ。明日、偉いおっさんに貰って良いか聞いてみるらしい。
「選別完了です。ダイスケさんのお陰で早く済みました」
役に立てたようで何よりだ。
「ダイスケさん、シャワー浴びます?酷い汚れですよ」
「…そうだな。返り血を浴び過ぎて、獣臭い」
「むしろ美味しそうな匂…いえ、何でも有りません(汗)。シャワー室はこっちです」
…美味しそう?もしかして俺、ローリーに喰われる所だった?
~冒険者ギルド シャワールーム~
ギルド職員の休憩室横にシャワールームが有った。本来は職員用らしい。
タイル張りで、ちゃんと温水も出る。異世界って事を忘れてしまいそうな程、しっかりした設備だ。
ボディーソープ、シャンプーにリンス。全て揃っているが、こっちの質はあまり良くない。
シャワーを浴びている最中に、外に誰かの気配を感じ、ドアを開ける。
「誰だ!?」
「ひゃあ!?えーっと、汚れた服を洗濯しようかと…これ、冒険者支給品の服とブーツです」
正体はローリーだった。
「てっきりシュワルツ君が来たかと思った。新しい服が貰えるなら、前のは捨てちゃって良いぞ」
「…」
「ローリー、何を見ている?」
「な、ナニも見てません!前の服を処分してきます」
ローリーは、俺のある一点をガン見していた。多分、服を持って来たのは口実で、覗きに来たんだろう。あのスケベ猫め。
「あ~、さっぱりした」
「服のサイズもピッタリですね。良かった~」
こっちの世界の服と言っても、普通に黒のジーンズに灰色のワイシャツ。異世界感が無い。
支給品と言う割にはブーツも中々良い。アマ○ンで売ってる安物よりワンランク上だ。
「ダイスケさんは、宿はどうします?決まってないなら私の…」
「いや、今日の宿は不要だ。地獄行き免除の為に、夜通し駆除対象のモンスター達を狩りに行く」
「ええ!?寝ずにモンスターハンティングですか?」
「ああ。一夜二日でやる」
「一夜二日?」
「寝たら一泊二日。寝ずに過ごすのを一夜二日って言うんだ。こっちでは言わないのか?」
「勇者や俺tueeee系のブラックパーティでも寝ますよ?」
ブラックパーティがどんなのか知らないが、夜は寝るのか。大した事ないな。
「俺は寝なくても問題ない。ローリー、夜行性の駆除対象モンスターリストをくれ」
「え~と…はい、これです」
リストと地図を確認する。ここから1番近いのは北のシェパード山のイノシシ型モンスター。2番目は西のシャムネ湖周辺に陣取っているゴブリン。
神出鬼没のマッスルベアーには要注意か…。
「あれ?そういえば、俺って何時にココに来た?」
ローリーがクエストボード横に設置された、大きなノッポの古時計で時間を確認する。今の時刻は午後6時だ。
「えーと、確か…10時半です」
だとすると、この世界に来たのは10時頃か。
「ギルドは何時からだ?」
「毎日9時には開きますよ」
「わかった。それまでには帰って来る」
「行ってらっしゃい。お気を付けて」
残り時間 16:00