3話 回収クエスト
〈モンスター紹介〉
メタルドラゴン
異世界からワームホールを通じて流れ着いた未来の兵器。メカゴ○ラに似たデザイン。
正規軍では歯が立たなかったため、中立国の冒険者「竜を狩る者」に応援を要請。討伐に成功した。
残骸の大半は「危険性がある」として、竜を狩る者が海に沈めた。
ギルドのトイレに行き、洗面台の鏡で顔を確認する。
30歳前後だろうか?イケメンと言うよりはダンディな感じだ。
(思い出せ。自分が何者だったかを)
何か声が聞こえたような?…いや、気のせいだ。
地獄行き免除のため、新たにクエストを受けようとする。しかし…
「ペットの散歩?高齢者の介護?冒険者って思ってたのと違うな。これじゃ便利屋だ」
クエストボードには、何ともパッとしない依頼ばかりが並んでいた。
「メタルドラゴンの残骸ですか?確か、応援で来た中立国の冒険者達が討伐後に殆ど回収したそうですが…」
「加治屋組合から破片でも良いから欲しいと言って来てるんだ。だが、あの辺はワイルドベアーの縄張りでしょ?あんな強敵と戦いながら回収できる冒険者なんて、ウチのギルドに居ないよね?」
受付嬢と偉そうなオッサンが、何やら話し合いをしている。
「何か困り事か?」
二人とも「適任者居た!」みたいな顔をしている。
「メタルドラゴン(どう見てもメカゴ○ラ)の残骸を回収か。残骸はこの『回収用アイテムバッグ』に入れると。スゲーなコレ。見た目はホルスターバッグなのに、ドラ○もんのポケットみたいに、いっぱい入るぞ」
「収納魔法を応用して作られた物です。転生者って、皆さんアイテムバッグを『ドラ○もん四次元ポケット』て言いますけど、ドラ○もんさんって何者ですか?」
「アニメ…て言ってもわかんないよな。分かり易く言うと、神話に登場する、不思議な道具を持ったタヌキだ」
アイテムバッグにモンスター図鑑…準備出来た。
「それじゃ、行って来る。…そういえば、名前聞いてなかったな」
「ノアールです」
偉そうなオッサン。お前じゃない!
「ローリー。ローリー・ハウンド」
「ローリーか。今度、一緒にお茶でもどうだ?」
「いえ、飲み会にしましょう。良い酒屋を知ってますよ」
だからノアール。お前じゃない!!わざと邪魔してるだろ!?
「…そうですね。考えときます」
「あぁ、考えといて。そんじゃ、行って来る」
「ローリー君がデートのお誘いを断らないなんて珍しい。ましてや相手は大っ嫌いなニンゲンでしょうに」
「別に私はニンゲン全般が嫌いなわけじゃなくて、偉そうな俺tueeee系転生者が嫌いなだけですよ。ダイスケさんは強くても意気がっては無いからOKです」
~ボンベイ平原~
地面にあちこちクレーターが出来ている。一体、どんな戦闘が起こったんだ?
大きな残骸は無い。討伐した奴らが回収したそうだ。
「探知魔法」
魔法なら細かな破片でも何処に有るのかが分かる。コレはトレジャーハントに便利だ。ドラ○ンボールだって探し出せる。
地獄行きを逃れたらトレジャーハンターになるのも良いかもしれない。
破片を集め終わった頃、近くの雑木林から熊が出て来た。ワイルドベアーという、かなり狂暴なモンスターで駆除の対象だそうだ。
こちらを見るなり、突進して来た。金棒フルスイングで返り討ちを試みる。しかし…
「何!?今の俺の攻撃を片手で受け止めただと!」
その後、ワイルドベアーのデコピンを喰らう。
「うわーーー!」
たかがデコピンで、数メートル吹き飛ばされる。
「痛っ!?応急処置!…何て威力だ。普通の人間なら首が吹っ飛んでるぞ」
ワイルドベアーが、更に追い撃ちを仕掛けに来る。
「イメージしろ。アイツに勝つイメージ…そうだ!光の剣!!」
魔法で光の剣を作りだし、それでワイルドベアーを一刀両断にした。
流石のワイルドベアーも、この剣の一撃は受け止められなかった。
「あ゛~、死ぬかと思った。…死体、持って帰った方が良いのか?」
~ガルシアの町~
初めて行く場所は、行き先のイメージが出来ないので徒歩となる。しかし帰りは転移魔法で一瞬だ。
「ダ、ダイスケさん!?転移魔法使えたんですか!?」
転移魔法で突然現れたせいか、ローリーをビックリさせてしまった。
「すまん。驚かせたな」
「驚きますよ!転移魔法使えるの、チート転生者でも限られた人だけですよ」
あれ?もしかして俺、かなり強い奴に分類されるのか?
「それより、これ。メタルドラゴンの破片×114とワイルドベアー1頭分の死た…いや、素材だ」
ギルドに戻り、ローリーに回収物の入ったアイテムバッグを渡した。
「ダイスケさん。モンスターの素材は隣の購買部で取引して下さい。私、体温が残ってる素材は苦手なんです…」
「あ!そっちだったか。すまん。次から気を付ける」
購買部にワイルドベアー1頭の死体を渡す。
「ほへ~。兄ちゃん1人で倒したのか?普通は分隊(4、5人)で討伐するのに」
「コイツはどうするんだ?」
「駆除対象だが、毛皮は上等でな。防寒着なんかに使われる。…胴体をザックリ斬ったのか。コレだと買い取り価格が大幅に下がっちまうぞ」
「構わない。腹が減ったから飯代が欲しいくらいだ」
「飯代?武具代くらいにはなるぞ。買い取り金額は2万ゼニだ」
「ゼニって通貨なのか。円じゃないから高いのか安いのか分からんな…」
「エン?ああ!転生者達のお金か。確か、前に来た転生者は1ゼニが1エンとか言ってたぞ」
改めてローリーにアイテムバッグを渡し、クエストの完了報告をする。
「お疲れ様です。ダイスケさんが居てくれて助かりました」
「ああ。ところでローリー。近くに食堂かレストランは無いか?」
「すいません。私、まだ仕事が…」
「うん?違う違う。俺が腹減っちゃって…」
今度お茶にと誘ったので勘違いさせてしまった。申し訳ない。
「わ、私ったら勘違いしちゃった!?…こほんっ。このギルドの2階が食堂になってます」
「分かった。ありがとう」
2階の食堂に行く。平気そうに振舞っていたが、腹が減って死にそうだ。
テーブル席に座り、メニュー表を見る。…ダメだ。選ぶ気力もない。
「ご注文は?」
「……このマン・ガ・肉ってのを10人前」
「はい。マン・ガ・肉を10…10!?」
「大丈夫。食い切れなかったら持ち帰る。あと、オレンジコーラ2L」
「2リッ…か、かしこまりました」
ウエイトレスがドン引きしていた。いや、自分でも多いと思う。
「お待たせしました。マン・ガ・肉とオレンジコーラです。ごゆっくりどうぞ」
何の肉か分からないが、巨大で旨そうな骨付き肉だ。豪快にかぶりつく。
何だ!?この味付けは?スパイシーだが辛過ぎず、肉本来の旨味を邪魔しない。軽く煙で燻したスモーキーな香りが、より一層食欲をそそる。
このコーラもオレンジ風味だが、コーラの味を邪魔しない絶妙なバランスだ。
「美味すぎる!!!!」
豪快な食べっぷりに、他の客がドン引きしているようだが、それどころじゃない。
あっという間に10人前を食べ尽くした。そして、ようやく思考が正常になった。
この異常な空腹は前世からの体質か、魔法の使い過ぎによるものなのか…どちらにせよ購買部で携行食料を買っておいた方が良いだろう。
「お会計、11000ゼニになります」
マン・ガ・肉1人前があの量で1000ゼニか。コーラも1Lで500円。飲食店としてはかなり安いな。
食事を終え、1階に降りる。
「あ!ダイスケさん、丁度良い所に」
ローリーに呼ばれ、受付に行く。
「急ぎのクエストです。またボンベイ平原で回収ですけど」
資料に目を通す。
「空間の歪みから出現したアイテムの回収、及びモンスターの討伐。特記事項『盗賊団と混戦の恐れ有』?」
「この世界は次元が不安定で、転生者の他、モンスターやアイテムもやって来ます。空間の歪みと言うのは、その出入口。ワームホールとかゲートとか言ったりもします」
何やら面倒な世界だ。
「空間の歪みは既に閉じてるのか。分かった。ちょっくら行って来る」
購買で食料を買い、転移魔法で再びボンベイ平原に飛んだ。
残り時間 19:00
〈モンスター紹介〉
ワイルドベアー
熊型のモンスター。体長2メートル。亜人の国に生息。
凶暴性と高い戦闘力を備えた凶悪モンスターで駆除の対象。イキった転生者が討伐に向かい、返り討ちにされる事から「転生者キラー」の異名を持つ。
毛皮が高級品で、高く取引きされる。