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12話 セシールの婚約者は?

 亜人の発情期は1週間程続き、この国には「発情期休暇」まで有るらしい。

 そんな事も知らずに発情期を迎えたローリーのアパートにホイホイ入っていったのだ。罠に掛かったネズミのようなもので、昨夜は発情期を迎えたローリーに襲われ、亜人の恐ろしさを痛感した。


~冒険者ギルド~

 クエストボードを見る。特に無し!

 今日は平和そうだ。


「ダイスケ!助けてくれ!!」

 ドレス姿の美女に助けを求められる。

「…誰だ?」

 女性は髪の毛を束ね、ポニーテールのようにする。

「嘘だろ…セシール!?お前、そんなお嬢様だったのか」


「セシィィィル。そんなに急いで何処に行く気だい?僕と言う婚約者フィアンセを置いて」

 何やら高そうなスーツや宝石に身を包んだ猫耳デブがセシールの後を追ってきた。

「わ、私の婚約者は、このダイスケだ。決してお前ではない!」

 セシールが俺の後ろに隠れる。そのセシールに小声で話し掛ける。

「おい、どういう事だ?俺は婚約者になった覚えは無いぞ」

「父上が勝手にあの男との婚約を決めたんだ。ダイスケ、助けてくれ。でないと私は好きでもないあの男と結婚させられ、子を産まされてしまう」

 今にも泣きそうなセシール。涙目の上目遣いは強烈な破壊力だ。そんな顔で頼まれては、断わるものも断われない。


「おい、猿!貴様、俺の女に手を出したのか?俺は公爵家の御曹子だぞ!偉いんだぞ!貴様なんぞ!専属の兵に任せれば直ぐに首と体が離れちゃうんだぞ。泣きながら地面に額を付けて謝れ!」

 なんか知らんが土下座を強要してきた。デブの偉そうな態度に腹が立って来る。

「猿ってのは俺の事か?黙れブタ野郎。鏡見て来い。テメーとセシールじゃ月とスッポンの差だ。イケメンになって出直して来い。一生無理だろうがな!」

 右手の中指を立ててファ○ク(くたばれ)のハンドサインで挑発する。

 周りの冒険者達が「よせ!言い過ぎだ!殺されるぞ!」「良いぞもっと言ってやれ!」「ぶっ殺せ!」等とヤジを飛ばす。


「野郎!ぶっ殺してやる!!」

 デブがキレて襲い掛かって…来ない。護衛の兵士達が抜刀して襲い掛かってきた。

 収納魔法から金棒を取り出し、兵士達を薙ぎ払う。

 近くにいた冒険者も数名巻き込んでしまった。

「あ…すまん。事故だ。許してくれ」

 唯一、気絶しなかったロン毛のゴリラ系亜人が何も言わずに睨み付けてくる。

「ゴメン。悪かった。謝るから!そんな目で見ないで!!」

 睨まれるだけで恐怖に駆られる。彼の技か何かだろうか?

「バカな!?精鋭の兵士達が、たった一撃で…」

 怖気づくデブ。ロン毛のせいでコイツの事を一瞬忘れていた。コイツと争ってるんだった。

「手加減した。死にはしない。次はお前か?それとも、もっと強い護衛が居るのか?」


「セシール!?このバカ娘が!」

「父上!?」

 ギルドにセシールの父親らしき人もやって来た。ダンディなオジ様だ。

 もう一人の偉そうなオジ様は誰だ?デブの父親だろうか?全っ然似てない。

「お前がボブ様と結婚すれば我が家は安泰なのだ。なぜそれが分からん?」

「私にだって選ぶ権利は有ります!結婚相手を決めるのは父上ではなく、私自身です」

 親子で口論が始まった。セシールよ…俺を盾にしたまま口論するのはやめてもらえないだろうか?


「隙有り!」

 口論に気を取られ、油断してる所をデブが剣で突いて来た。

「ぐあぁぁぁっ!」

「ダイスケェェ!?」

 セシールの叫び声が響き渡る。

「ハハハ!避けられなかったか?毛の無い猿め!」

「…なんちゃって」

「は?いやいやいや、心臓貫いてるんだけど?『なんちゃって』って致命傷だろ?」

 実際、メチャメチャ痛い。だがマッスルベアーのフルボッコアタックに比べたら耐えられる痛さだ。

 デブを蹴飛ばし、胸に刺さった剣を抜き、直ぐに回復魔法を掛ける。

 蹴飛ばされたデブは転がって行き、休憩スペースのイスやテーブルをボーリングピンみたいに弾け飛ばした。


「俺は避けなかったんだ。後ろにセシールが居たからな。テメー、このブタ野郎!俺が避けたらどうするつもりだったんだ?セシールが大怪我するだろうが!?」

 ブタ野郎は気絶していて、話にならない。

「やれやれ…男爵様、コイツはセシールを大事にしない。こんな奴と結婚させて良いのか?家の事も大事だろうが、父親として娘の幸せを第一に考えるべきだ!」

 周りの冒険者達の「いいぞ!もっと言ってやれ!」「減税しろ!」「防衛費を上げろ」等とヤジも飛び交う。


「ダイスケさ~ん。騒がしいですけど、何かあり…ちょっと!?ダイスケさん!何で血まみれなんですか!?」

 騒ぎを聞き付けたローリーが様子を見に来た。

「大した事ない。心臓を貫かれたが回復魔法で治っ…ゴホッ!」

 治ってなかった。吐血して、意識を失った。



(この人殺し!息子を…優樹を返せ!)

(俺だって殺したくなんかなかった!だけど、あの時、既に優樹は…)


「…夢?」

 目が覚めると、ギルドの休憩所で寝かされていた。

「あら?目が覚めた?」

 知らない女性が入ってきた。耳、尻尾を確認する。

「…人間?」

「ええ。そうよ。私はセイラ。冒険者で、自分で言うのもなんだけど回復魔法の達人よ」

 どうやらセイラがキズを完全に治してくれたらしい。

「あなたの回復魔法は繊細さが足りてないわ。だから見た目は治ってても、体内でキズが残ってる。もっと練習した方が良いわね」

 ダメ出しを食らった。


「ところで、セシール達は?」

「ダイスケさんが寝てる間に色々話し合い、婚約は無かった事になったそうです。ダイスケさんを刺した腐れブタ野郎は公爵様が『このバカ息子はキチンと再教育する』と言ってました」

 ベッドの下からローリーの声が聞こた。覗き込むと、ベッドの下で寝転がっているローリーの姿があった。

「ローリー。そんなとこで何してる?」

 曰く、亜人はベッドの下など狭い場所を好むそうだ。


「さて、キズも治ったし帰るか。ありがとう、セイラ。助かったよ」

「…念のため、今日は安静にしときなさい。昨晩みたいにエッチな事しないように」

「え?な、ナンノコトカナ?」

 何でセイラが昨夜の事を知ってるんだ?

「あんた達、窓閉め忘れておっ始めたでしょ?裏の酒場まで丸聞こえで、おっさん達が『若いって良いね~』てニヤニヤしながら飲んでたわ」

 なんという失態だ!?音声のみとはいえ、俺がローリーに襲われる様子が酒場に生実況されていたとは…

 ローリーもボクシングマンガの主人公みたいに真っ白になり、呆然としている。

「戸締りはキチンとしてからやる事ヤりなさい。最近、発情期の通り魔がうろついてるんだから」

 だから発情期の通り魔って何なんだ!?


 その日の夜は、流石にローリーも大人しくしていた。だが発情期だからか、獲物を狙うハンターの目をしていたのは怖かった。


 残り時間 5日

〈この世界における差別用語〉

・ニンゲン…「人間」とは発音が微妙に異なる。馬鹿にしたり、おちょくったような言い方。軽くキレよう。

・猿、猿の子孫…「ニンゲン」を更に悪く言った呼び方。割と本気でキレよう!

・年中発情期の猿…差別用語だが、あながち間違いでもない。笑ってごまかそう。

※『異世界の歩き方(著 アレックス)』より抜粋

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