1話 24時間の限定転生
~生と死の狭間(三途の川)~
ここは何処だ?
目が覚めたら河川敷に居た。こんな所で昼寝とは、俺は何を…俺?俺は誰だ?
名前、年齢、住所…全て思い出せない。記憶喪失か?
愛知、岐阜、三重。車は左側通行。…一般常識は覚えているようだ。
原因は分からないが、後頭部が強烈に痛む。誰かに鈍器で殴られたのか?
少し歩いたら桟橋を見付けた。ボートも停まっていて、人影も見えた。
ここが何処か聞きに行こう。そう思って近付いてみたが…人じゃない。鬼だ!?
あぁ、そうだ。これは夢なんだ。早く覚めないと。
「うん?おい、兄ちゃん。こっちだ。乗りな。連れて行ってやる。運賃は6文だ」
鬼に話し掛けられた。それに、6文?確か三途の川の運賃が6文で、真田家の旗印だ。
何となく理解した。ここは三途の川で、向こう岸に行ったら完全に死んでしまう。
「ご遠慮しまーーす!」
全力で逃げ出した。
「…うん?何だ?…地獄行きの手配犯だったのか。強引なのは好きじゃないが…やれ!」
足を何かに掴まれる。超デカイ、イカの足だ!?
「くそ!離せ!!うわぁぁぁぁぁ!!!」
そのまま川の中へと引きずり込まれた。
~閻魔大王の玉座~
「おい、起きろ」
誰かの声がする。
「う~ん。ここは…?」
目の前に、玉座に座った禍々しい鬼が居た。
「良く聞け。儂が閻魔じゃ。さて、残念なお知らせだが、お前は既に死んでおる」
川を渡ってしまったようだ。
「報告書によると、生前のお前は殺人犯だ。被害者の遺族に報復で殺された。だからと言って罪が消えることはなく、こうして地獄に堕ちたのだ。たっぷり可愛がってやるから有り難く思え。と言いたい所なのだが…」
何かトラブルだろうか?
「何処の世界だったか第三次世界大戦が始まってな。地獄に堕ちる兵士達が多すぎて順番待ちなのだ。と言うわけで、お前くらいの殺人犯程度なら地獄から抜け出し、異世界で第二の人生を歩むチャンスをやろう」
異世界?異世界転生というやつか?アニメが流行っていた。しかし生憎、視てなかった。アニメなんて子供の頃にドラ○ンボールやワン○ースを視ていた位だ。
「これからお前を24時間限定で異世界に転生させる。そこで良い行いをすれば制限を解除して、本来生きるはずだった寿命分をそのまま過ごさせてやる。出来なかったら、そこの筋肉ゴリゴリムキムキマッチョな鬼のシュワルツ君の抱き枕にされる地獄にご案内じゃ!ガーッハッハッハ」
振り替えると部屋の入り口で見張りをしていたシュワルツ君(?)が笑顔でサイドチェストのポージングをしていた。あの筋肉で抱き枕にされたら全身の骨が砕けるだろう。
「閻魔様。こいつは何処の世界に送りますか?」
閻魔大王がタブレット端末で色々と確認する。何だかシュールな絵面だ。
「鍵無しフリー設定になっているのは『ガイヤルド』じゃ。ここなら転生手続きに履歴書も印鑑も要らん。面接も無しじゃ。ここに送れ」
履歴書?面接??異世界転生は、場所によって就職活動みたいになるらしい。
大発見だ。出来る事なら現世の人々に教えてやりたい。
~異世界ガイヤルド 亜人の国クロスロード~
鬼のシュワルツ君に案内され、異世界へとやって来た。ここは草原か?
異世界へは最上級転移魔法とやらで一瞬で着いた。
「着いたぞ。ここが異世界『ガイヤルド』。比較的新しい世界で、滅び行く世界の住民達の、新たな受け入れ先だ」
「フリー設定だの面接無しだの言ってたが、ここには他にも転生者が居るのか?」
「ああ、いっぱい居る。この世界の住民達にとって、異世界転生は日常的なものだから特に驚かれたりもしない」
そんな世界も有るのか。まあ、理解が有るのなら色々と楽で良い。
「これを持って行け。この世界には凶暴なモンスターも出る。何かしら武器が必要だ」
渡されたのは金棒だった。トゲは付いてないフラットタイプだ。
「良い行いと言われたが、具体的に何をすれば良いんだ?」
「難しく考えることは無い。人助けをすれば良い。モンスター討伐、盗賊の捕縛、人命救助、何でも良い。とにかく罪を償って見せろ」
つまり、24時間の人助けトライアル。寝たら地獄行きの超ブラック業務をやれと。
「お前の行動は動画投稿サイト『HellTube』に投稿される。その動画に1000イイネが貰えたら地獄行き免除だ」
地獄にもYou○ubeみたいなのが有るのか…
もしかして俺、ネタ切れになった閻魔大王チャンネルのテコ入れに使われた?
「それじゃ、俺は帰るぞ。24時間後、お前の目の前に転移魔法で迎えに来るから逃げられると思うなよ」
ストーカーかよ。
「地獄で会おうぜベイビー」
何やら、物凄くお似合いな台詞を残してシュワルツ君は帰って行った。
シュワルツ?聞き覚え有るが知り合いに居たかな?・・・ダメだ。思い出せない。
~ガルシアの町~
草原を歩き続け、近くの町にたどり着いた。
道中、狼やら猪やらに絡まれたが金棒で撃退した。身体能力が驚くほど向上し、クソ重そうな金棒も楽々振り回せた。戦闘力は仮面のライダー並だ。
今の俺ならクモ男やコウモリ男とも互角に戦える…ような気がする。
「おい、兄ちゃん。見ない顔だが、転生者か?」
町の住民に声をかけられた。この世界の住民は猫耳やらウサ耳やらが生えているが、それが普通なのだろうか?
「そうだ。ついさっき転生したばかりだ」
「つまり、行く宛も無いんだな?武器を持ってるって事は戦えるんだろ?なら、そこの冒険者ギルドに行くと良いぞ」
「ありがとう。助かる」
異世界転生が日常的とは行っていたが、いくらなんでもフレンドリー過ぎないか?俺は元殺人犯だぞ。記憶無いけど。
親切な住民のアドバイスに従い、冒険者ギルドに行く事にした。
残り時間 23:30
お読みいただき有難うございます。
1話から○付きのヤベー単語や人物名が出てますが、この方向性で行きます。
シュワルツ君は、ある映画の主人公に憧れて筋肉ムキムキゴリゴリになり、その主人公のセリフを言います。名前も偽名で、本名はニック。
「本物」とは一切関係ありません。