白銀の九狐となる
「良かったのか、フロン?」
「なにが~?」
狂剣達が出ていった後、他のダンジョンマスター達は各々のダンジョンへと戻っていた。
「いくら強力な魔物の肉体に魂を納めたとは言え、あれの魂はレベル10に到達するほど成熟している。私には到底大勢の元同族を殺すような真似は出来ないと思うのだが?それに万が一あれが我々の敵に回ってみろ、私とフロンの腕一本分とガードンの鬣と大量の血液を贄に造られた肉体だ。それを操る魂も成熟している。今この状況でダンジョンマスターが減るような事があってみろ。その時が我々の終わりの時だぞ」
静かに語りかけるように、しかしいつも飄々としているヴァンパイアの少年に釘を指すように確かな意志をのせて言う。
「僕は別に問題ないと思うな~」
「なに?」
フロンは少年と全く変わらないまだ幼さの残る顔で何ともいやらしい顔を作る。
「魂云々は専門外だからさておき、彼は人間だった頃も結構人を殺してるみたいだよ?」
「初めから殺すことを目的として殺すのと、自己防衛として殺すのとでは全く違うだろうが」
「えー、僕はあんまり変わんないと思うけどな~」
「.......」
目の前のヴァンパイアの少年とはもう随分と長い付き合いになるが、こういう適当な所は直してほしいとも思わなくもない。
ただ、最早言うだけ無駄なのもこの長い付き合いのなかで学んできたので、とくになにかを言うようなことはない。
「それに、彼以外にもレベルにしたどれくらいになるんだろ?他のダンジョンマスター達もそう簡単に殺られるような子達じゃないしね。それは彼も分かってるよ。......でももし、もし彼が僕らに牙を剥くなら、その時は僕が確りと責任を持って殺すよ」
それじゃーねー、と気楽に手を降りながらいつの間にか現れた扉をくぐるヴァンパイアの少年を見やる。
「私も最低限は頑張るとするか」
「いいかッ、この俺が狐頭に教えることは全部で三つだッ!一つ目はダンジョンの作り方と管理の方法、二つ目が魔物としての身体の動かし方、三つ目が我らの目的だっ!」
「うい」
扉を潜るとそこはダンジョンの中だった。
扉は潜ると忽然と消え、跡形も無くなってしまった。
「まずダンジョンの作り方だが、主に二つある」
ガードンと呼ばれていたライオンの獣人が2本の指を立てる。
「まず一つはダンジョンコアを使った、コアが破壊されるまで稼働し続ける永久的なダンジョンだ。そしてもう一つは魔物が核となって作られる臨時的なダンジョンだ。こっちは周囲に影響を及ぼす事なく魔物が召喚出来るようになるだけのもので、自分が死にさえしなければ何時でも閉じる事が出来る簡易型だ」
恐らく前者がいつも俺が冒険者として潜っていたダンジョンなんだろうな。
「簡易版のダンジョンなんて見たこともない聞いた事も無いんだけど」
「基本的に簡易型のダンジョンを作れるのは俺たちのようなダンジョンマスターだけだ。簡易型のダンジョンには範囲内の人間を逃がさない機能もあるからダンジョンマスターを殺せるようなものがいない限りは生きては帰れない」
だからそんな突発的なダンジョンの話なんて聞いた事がなかったわけだ。
ダンジョンが現れて初期の頃の影響がまだもろに残っていたせいで、簡易型のダンジョンを発見出来なかったと言うのも大きいのだろう。
日本の首都である東京ですら適当に歩けば建物の残骸に遭遇して、インフラも怪しかったのだ、そりゃそうか。
「まずは簡易型のダンジョンを作るからよく見ておけ!」
そう言ってガードンは地面に片手を置く。
「フィールド展開!」
ガードンがそう宣言すると同時に地面についた手を中心に光の波動のようなものが広がり、半径50メートルほどの所で円を描いて止まっている。
「昔はもっとめんどくさかったがフロンの奴が随分と簡単に展開出来る様にしたからな、これなら初めてでも出来るだろ。特に広さに制限は無いが、取り敢えずあの境界線が見えるくらいの広さで作ってみろ」
「りょーかい」
見様見真似でガードンと同じように片手を地面につきフィールド展開と口に出す。
……なんかあれだな、どこぞの漫○の〇〇展開のパクリみたいで嫌だな、アレンジ出来るなら後でしとこう。
「でけた」
「ま、簡易型だからな」
結果としてはガードンの境界線と被らないように20メートル辺りを目標に作ってみたが、これが意外とすんなり作れた。
特に倦怠感や何かが抜けるような感覚もないので多用しても問題は無いんじゃないかな?
それに不思議と範囲内にいる生き物の居場所と大体の強さが感じ取れる。
とは言えこの簡易型ダンジョンから感じ取れるガードンの強さはなんかヤバそう程度なので、格上相手は余り当てにしないようにしよう。
「ダンジョンマスターが作る最初の本腰を入れたダンジョンのダンジョンコアはダンジョンマスターの命と連動するからな、作るときは適当に同じ手順で作成とでも言っておけ。多分出来るはずだ」
「そこ多分なんですね」
「取り敢えずダンジョンの作り方はこれで終了だ。次は魔物としての体の使い方だが……そもそも自分の種族を分けってるのか?」
「話を聞いた限り九尾の狐の亜種っぽいんですけど。亜種じゃ無い九尾の狐とは戦った事はあります」
レベル10相当のダンジョンの最下層の階層ボスに九尾の狐がいた事はよく覚えている。
体長は目測で50メートル走のレーンよりは大きかった。
高さは成人男性10人分以上は確実にあった。とにかく大き過ぎてサイズ感が狂いそうなくらいにはデカかった。
見た目は名前の通り九本の尻尾のある狐で、少なくとも人型の魔物では無いし、こんなに小さくも無い。
九本の尻尾は確かに腰の辺りに付いているが、これじゃ狐と言うか狐人だ。
「体の内側から筋肉が溢れ出て身体が造り替えられる姿を想像してみろ。自分の身体なんだ、そんくらい曖昧でも元の姿に変身くらい出来る」
どうやらこの姿は本来の姿とは違うらしい。
やっぱりね。
目をつむりまずは今の身体の全身を意識してみる。
細胞までとまでは言わないが、全身をめぐる血管までは意識して、内部から筋肉がある出るような様子を思い描く。
筋肉がまた新しく生えて定着して皮膚が伸びて新しくなってより強靭に、より強固に肉体が変形していく様を意識すると、少しずつ身体が芯からあったまるのが分かる。
「ほぉ、九尾の狐の亜種と言うから大型の魔物かと思えばそれほどでも無いな。中型の中でもデカい方ではあるがな」
「できタのカ?」
「完璧だな。目を開けてみろ」
そう言われて初めて俺は目を開ける。
まず初めに気がついたのは目線の高さが高くなった事だ。
見上げる程の身長があったガードンを今では見下ろしている。
大体体長は10メートル程だろうか?
次に感じた事は四足歩行がかなり楽に感じる事だ。
人間の骨格の作り的に四足歩行は中々キツく感じるはずなのだが、むしろ四足歩行が当たり前のように感じる。
脚も完全に獣のそれで、美しい白銀の毛並みをしている。
人型であった時とは違い素肌が見えるところはなく、全てが体毛に包まれている。
鏡を見ずとも完全に獣の姿に変わったと分かるのだが、どうやらこの姿でもきちんと言語を発する事が出来るようだ。
「まずはそれがお前の本来の姿だ。次に完全な人間の姿を想像してみろ」
そう言えば先程まで確かに人型の魔物ではあったが尻尾があったり所々体毛があったりして、あれでは人間ではなく獣人と言ったところだろうか。
人間をイメージするのは簡単だ、何せ元人間だし。
取り敢えず違和感のある所を片っ端から修正していけばほら出来上がり、先程よりも直ぐに終わった。
「………さっきから思ってたけど身長低くね?」
いや、別にショタになってるとか言うわけでもなく、170センチは軽く超えているんじゃ無いかな?
目が覚めた時から思っていたのだが元々俺の身長は190前後だったので少し違和感があったのだ。
人間に変身するときには身長も元のサイズに戻る事を期待していたのだがそうはいかなかった。
「しかもなんか声高いし、これじゃ完全にガキじゃんか」
元々狂剣の声は成人男性の中でもかなり低い方で、別に今の声も高いわけでは無い。
「フロン曰く死体を見てなんとなく再現したそうだが、手足でもどっか千切れてたんじゃ無いか?」
「適当すぎねそれ?」
「あれに適当以上を求める方が間違ってるんだ。まだ人間の体に変身できるだけ感謝しておけ」
確かにあのフロンとか言うヴァンパイアの子供に真面な期待をかけてはいけない様な気がするな。
「身体の動かし方は時間をかけて教えていくとして、最後に俺たちの目的を話しておく」
そう言えば最後に目的を話すとか言ってたな。
途中狐になったりダンジョン作ったり人間にたったりと忙しかったから忘れていた。
「とは言え今のお前に教えられる事は少ないんだがな」
「何処までなら話せんの?」
「話し方が段々と素になっている気がするんだが………とにかく、ダンジョンを作って冒険者を殺せ。それも出来るだけ高レベルなものを。……あぁ、フロンのヤツがDP?とか言うのを集めろって言っていたな」
DP、どう考えてもダンジョンポイントの事だよな?
「このDPはダンジョンに冒険者が入ってくると溜まるらしい。他にも冒険者を殺してもDPは手に入れられる………らしい。このDPを使えば自分の強化や魔物の召喚も出来る、らしい」
「いや全部らしいしか言って無いじゃん」
「ムゥ、元々は個人の感覚で溜まっていた力を使ってやっていた事でDPなんてものは無かったんだが、フロンのヤツがわかりやすい様に作ったのがDPだ。DPを使ってる奴もいれば昔と同じように感覚でやってる奴もいる」
「つまりDPは後付けで元々感覚でやってたって事か」
感覚でやっていた事をマニュアル化して自動化させたものがDPと言う認識で良いのだろう。
「確か『ダンジョンボード』とか言えば、出てきた」
「ほんとだ、『ダンジョンボード』」
ガードンもDPを使用するのは初めてなのか辿々しく『ダンジョンボード』と口にすると、目の前に青いボードが現れた。
ダンジョンボード
DP 0
使用者 ダンジョンマスター(白銀の九狐)
能力強化(筋力)+1 DP100
能力強化(耐久)+1 DP100
能力強化(俊敏)+1 DP100
能力強化(妖力)+1 DP1000
能力強化(回復)+1 DP10000
能力強化(特殊耐久)+1 DP1000000
ダンジョン作成 DP10000
条件を満たしていません
おぉ、スゲェ。
なんだろ、この感動は。
ポイントを貯めて強くなるってのは結構俺は好きだったりする。
ゲームとかでもこう言う貯めて強化して貯めてって言うのが大好きなのだ。
でも冒険者がダンジョンに入ればDPを獲得出来るって事は、基本的に冒険者は殺さずにたまに間引くくらいが効率的には良いのか?
あ、別に人間を殺す事に罪悪感とか俺には無いよ?
そりゃ歳はもいかない子供とか知り合いはちょっと殺しづらいけどさ、俺って平等主義だからね★
でも平等と公平は違うからここは都合のいいように使い分けてこ!
前回から時間が空いてすみせん
いや〜これって完全に趣味なんでちょくちょくと言うか、結構な頻度で投稿が滞りますけど、暖かい目で見守って貰えれば幸いです。