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裏切りと笑顔

「おいっ!どうすんだよこれっ!レベル10のボスなんて聞いてないぞっ!」


うるさい………

集中出来ない。


「団長はどうしたんだよっ!」

「剣帝ならもうとっくの昔に死んでるっ!」

「剣姫はっ!?剣聖はっ!?騎士王はどうしたんだよっ!?」

「うるせぇぞてめぇっ!?死にてぇのか!?さっさと雑魚どもを殺せっ!それに今はレベル10どころかレベル9も戦闘不能なんだよっ!」


羊の角を生やした紫色の肌を持つ体長2メートル半はある異形の怪物が剣や盾を持ち、鎧に身を待とう人々に襲いかかる。


ここは『迷宮(ダンジョン)

西暦2000年代に突如として全世界に現れたダンジョンは瞬く間に多くの命を奪った。

ダンジョンからは後に『魔物』と呼ばれる異形の怪物が生まれ落ち、本能のままに地上で暴れ回った。

そんな中、一部の人類にも変化が起こった。

『選定者』と呼ばれる彼らにはそれぞれに1~10のレベルが与えられ、そのレベルにあった強さが与えられた。

彼ら選定者の出現によりダンジョンは脅威であると共に、無限の資源を生み出す 宝庫ともなった。

選定者の中でもダンジョンに潜り魔物と戦い資源を集めるもの達の事を『冒険者』と呼ぶようになった。


「じゃあ誰があの化け物を抑えてんだよっ!?」

「剣の集いに勧誘されてたレベル10の狂剣だよっ!アイツが一人で抑えてんだよっ!」

「はぁ!?いくらレベル10でも同レベルのボスはキツイだろっ!」

「だから早く雑魚を倒して加勢すんだよっ!」


どこかで仲間同士で言い争う声が聞こえる。

言い争うのも仕方ない、何せ冒険者の中でも最強のレベル10が四人も殺されたんだ。

それに今生きてるレベル10は一人で次点のレベル9は全員戦闘不能に陥っている。

レベル8も半分弱は限界が近づいている。

レベル8は十分高レベルであるが、レベル10の敵相手では分が悪い。

ましてやレベル10のボス相手は絶望的とすら言えるだろう。


『ギヤヤャャャャヤヤヤヤッッッツツツ』

「くそったれが………」


悪魔とも取れる姿を持つ屈強な敵の中でも一際大きな体を持つ魔物がナタを一人の男に振り下ろす。

男は剣で逸らす事すらせず、体力も気にせずに全力で回避する。

その一瞬後には男がいた場所にナタが振り下ろされ、地面が抉り取られる。

ナタの着弾と共に男はまた魔物に切りかかる。

1時間前からこの光景が繰り返されていた。

他を圧倒するのも魔物がレベル10のボスモンスターであり、本来ボスモンスターは同レベルの冒険者が3~5人が集まって討伐に挑まなければならないような相手だ。

そしてそんな化け物をギリギリとは言え抑えているのがレベル10冒険者の狂剣と呼ばれた男だ。


幸いにもボスモンスターは攻撃力は目を見張るものがあるが、速度はそこまででも無い。

小回りは効くが、あくまでもその巨体に見合う程度のものだ。

とは言え他の魔物の倍以上はある体格は脅威以外の何者でもなく、その攻撃は近くにいた同じレベル10のモンスターを木っ端微塵にしてしまう。


(………このままだといずれ死ぬな)


隙をみてボスモンスターの体を切りつける狂剣であったが、相手の身体を切るのは容易ではなく、更にせっかく付けた傷も直ぐに治ってしまう。


(そもそも来るんじゃなかった)




「なぁ狂剣、俺らのギルドに入らねぇか?」

「断る」


平日の昼下がり、お洒落なカフェの一角には黒いコートを着込んだ目付きが悪いものの十分にイケメンと言える男と、鎧を身に纏う角刈りで巨漢の男が話し合っていた。

片方は興味の欠片もなく、もう片方は熱心に語り掛ける。


「別に名前だけでもいいんだ、な?」

「な?じゃねぇんだよ。そもそも俺はレベル10になってこの8年間ソロでやって来たんだ。今更ギルドに入る気もない」

「そこをなんとかな?」


まるでヤクザの様な目付きがさらに鋭く男を射抜くが全くこたえる様子もない。


「そもそも、なんで今になって俺を勧誘するんだよ?一体何年の付き合いだと思ってるんだか」


目の前の男、ギルド『剣の集い』のギルドマスターであるレベル10冒険者剣帝の新田とはもう6年以上の付き合いになる。

俺が22で相手が42と歳は離れているが、それなりには気心のしれたなかと言えよう。

ギルドの勧誘も今まで何度も受けていたが、今日は特別しつこかった。


「いやー、実はな?うちのギルドに剣姫って冒険者が入ったんだよ、知ってっか?」

「レベル10の新人だろ?噂になってるよ、冒険者になってそうそうオッサンにナンパされたって」

「おいおい誰が言ってんだ、そんなこと?」

「主に俺」


ひでぇ〜、と言いながら新田はカフェラテをちびちび啜る。

ストローを使え、ストローを!


「で?それがどうしたんだよ?」

「いや〜、実は嬢ちゃんがお前の大ファンでな、お前と友達だって言ったらギルドに入れてくれってうるさくってな?お前も彼女いねーから丁度いいかな〜と」

「単純だな、お前は」

「お前にだけは言われたかねぇよ、この戦闘狂がっ!」


豪快にサンドイッチを貪りながら言う。

しかし、ファンか。

俺もそれなりには長いこと冒険者してるしな。


「ま、ギルドに入らずとも一回くらい一緒にダンジョンに潜ろうぜっ」

「初めからそう言えっ。別にそのくらいなら構わんよ」

「じゃあ、それで決まりな!後で連絡するわ」

「りょ」




慢心はなかった。

今回潜ったダンジョンは全50階層のレベル8に部類されるダンジョンだ。

それも中層の32階層までしか潜っていなかった。

出てくる魔物のレベルは6~8程度で、中層の適正レベルは6~7程度とレベル10が5人、レベル9が8人、レベル8が15人いる今回のメンバーなら万が一が起こるはずもなかった。

たとえイレギュラーが起こったとしてもなんら問題はなかった。


初めは小さな違和感だった。

一応レベル8の魔物が出るとはいえ、主にレベル6とレベル7の魔物しか出てこないこの中層に見合わないその存在感は一瞬でレベル10相当の、それもボスモンスターだと分かった。

幸いにもレベル10全員が集まっている最後尾からおい迫るように現れてくれたので対処は可能だと思った。

ボスモンスターがこちらに突進してきたとき、全員が厳戒体勢で攻撃に移った。

剣帝の新田は右足の健を切り裂き、騎士王は左足を剣で地面に縫い付け、剣聖が左腕を切り裂き、俺が右腕を切り裂き、剣姫が心臓を突き刺した。

通常の魔物であれば確実に死んでいる攻撃をしたにも関わらず全員が次の瞬間には追撃の姿勢に移っていた。

だが______


「ギェェェェエエエエエエッッッッ!!!!!!」


悪魔の姿をしたボスモンスターは奇声を上げながら剣姫を殴り付けた。

直ぐ様防御の姿勢に移った剣姫だが攻撃特化のボスモンスターの攻撃は防ぎきれずに吹き飛ばされ、そのまま壁に激突することとなった。

レベル10なら耐えれないこともない程度の攻撃ではあったが、壁にぶつかった剣姫が立ち上がる事はなく、意識を失っていた。

更に追撃しようとするボスモンスターを全員が全力で攻撃するも、ボスモンスターは損害を気にせずに剣姫の元へと突っ走った。

とうとう剣姫の元へとたどり着いたボスモンスターは両手を重ねて降り下ろす。

これが最初の犠牲者となった。


そこからは最悪の展開となった。

周りにはいつの間にか大量のレベル10の通常モンスターが現れ、襲いかかってきた。

それに加え怪我を気にも止めないボスモンスターの攻撃は苛烈で瞬く間にレベル10の冒険者は数を減らした。


「なぁ剣帝、生きてるか?」

「生きてるよ、もうあと数分で閻魔様に会いそうだけどよっ!」

「エリクサーくらい持ってんだろ?レベル10なら案外ぶっかければ1人位復活すんじゃねーの?」

「無茶言うなよ。まだ使ってなくて容器が割れてないエリクサーを探す余裕なんてねーよ」

「なら死体くらい退けとけ。そんくらいならまだてめぇも動けんだろ」

「......なぁ狂剣」

「なんだよ」

「......生きろよ」

「......分かってる」




あれからどれ程時間が経っただろうか?

そろそろ腕が上がらなくなってきた。

元々ボスモンスターは同レベルの冒険者が3~5人ほど集まって相手をしなければならないような魔物なのだ。

そんなものを一人で長い間抑え続けるのは無理があった。


「......動ける魔術師、全員合同で詠唱しろ」

「合同で!?無茶を言うなっ、失敗すればどうなるか分かってるのかっ!」

「なら死ね。成功すれば生き残れる。どのみちこのまま行けば死ぬぞ」

「......くそが」


選定者の中でも魔法に目覚めたものたちが合同で詠唱を始める。

魔法の詠唱は失敗すると術の何度によって代償が訪れる。

基本的に魔法は自分のレベル相応のものしか使えないので、魔法を使うのに必要な魔力を失うに留まるが、今回のような合同での魔法は最悪の場合死をもたらすこともある。

魔法の行使には精神状態が大きく影響するが、今のコンディションは最悪としか言えない。


だがそれでもやってもらわねば困る。合同魔法は単独での魔法の威力とは比べ物にならない程の高威力となる。

俺も時間を稼ぐため、最後の力を振り絞りギアを上げる。

ボスモンスターの豪腕を大きくバックステップで回避し、地面を滑るように肉薄しボスモンスターの右足を切りつけながら通りすぎる。

右足を地面にめり込ませ左の壁に向かって走り出す。その時右足の骨が折れる感触がしたが気にしない。

まるで弾丸のように壁に突っ込むと、壁に向かって飛び上がり壁に着地する。

そのままレベル10の肉体に任せて壁を蹴りボスモンスターに再び肉薄する。

正に弾丸となった俺にボスモンスターは鉈を振るうが跳び箱の要領で回避し、左肩に剣を突き刺す。

直ぐに剣を抜くと今度は肩を蹴って天井に着地し、ボスモンスターに向かって飛びかかる。

頭から股関節まで切りつけて地面に着地すると、左足を切りつけながら壁に着地する。

壁から天井に移動すると今度はまた天井からボスモンスターに強襲をかける。

流石に学習したのか鉈を掲げて防御するが剣をそのまま鉈に叩きつける。そしてまた鉈を蹴って天井に移動して鉈に剣を降り下ろす。

何度もそんなことをしているとやがて鉈が半場から折れ、ボスモンスターに攻撃が通る。

その後も立体的な動きで一方的にボスモンスターを攻撃し続ける。


終わりの時は唐突に訪れた。

ボスモンスターの再生が間に合わない程の傷をつけていた狂剣だったが、致命傷には程遠かった。

肉体も行使され続けた結果、もう数分も持たないところまで来た。

そんなとき、薄暗いダンジョンにそぐわないほどの閃光が身を包んだ。

光の発信源を見ると、様々な色の光が混じった魔法が此方に向かってきていた。


それは裏切りなのだろう。

囮ごと巻き込んだその一撃は最強のレベル10冒険者を巻き込みながらもボスモンスターを討伐した。

怒りはない。

歓喜はあった。

後悔はない、だが約束を守れなかった悲しみはあった。

彼らは生きるために正しい道を選んだ。

それがどうしても剣帝の、新田の俺への祈りと重なった。


「生きろよ」


最高の笑顔で言えたと思う。

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