第二十五話 復活の幸
ふと時間を確認すると、時刻は19時を回っていた。
どうりで微妙に腹が減っているわけだ。
どうせなら、夕飯食べてからココ来ればよかったと、内心ちょっと後悔する。
と、いうか幸を蘇生させたんで、本来だったら私はもう帰っていいと思うのだが、サクラから『幸に謝るまで帰るな』オーラがにじみ出ているため、非常に帰りにくい状態になっている。
ヴィグル・ポチ含めた魔王軍連中は、既にここにはいなくなっている。
「裕美様のくだらない思いつきのゲームのせいで、ただでさえ多い仕事がさらに多くなっているんですよ。事が済んだのでしたら、もう一分一秒も無駄にはできないので、先に帰らせて頂きますよ。それと、この運動場は後2日程借りてますので、皆さんとの禍根が残らないように、しっかりと清算してから帰ってくださいね」
それが、ヴィグルが帰る前に残していった言葉だった。
まさにこの言葉のせいで、逃げるタイミングを逃してしまっていた。
最初は『禍根なんてねぇよ……』と思って帰ろうとしていたのに、サクラにそれを阻止されてしまったのだ。
そんなわけでサクラは、幸が目を覚ますまで動くつもりはなさそうだし……
とっとと家に帰りたそうにしていた美咲も、幸が心配だからと残りだすし……
エフィ・ステラちゃん組はそもそも帰る場所ないし……
この状態で帰ったら、私完全に空気読めない人だよね?
「あれ……?私は……」
そんな事を考えていると、良いタイミングで幸が目を覚ます。
これで心置きなく帰宅できる……と思ったのに、サクラの視線が痛い……
わかったよ!謝ればいいんだろ?謝れば?
「その……何だ?幸、ちょっと悪ノリしすぎた……すまん。一応は反省してる」
幸の前に出て、頭を下げて謝罪する。
しかし、私の言葉を聞いた幸の表情は、みるみると鋭くなる。
ヤバイなコレ。もしかして私が思ってた以上に幸怒ってるのか?
「姿はそっくりですがアナタ何者ですか?裕美様の眷属である私の事騙せると思っているのですか?」
何言ってんだコイツ?復活したばっかりで、頭がちょっとアレなのか?
「本物の裕美様でしたら、どんなに自分が悪かったとしても、逆切れして絶対に謝ったりなんてしません!絶対にです!!私を騙すつもりだったら、もう少し裕美様の性格を理解してから演技するべきでしたね!」
マジで何言ってんだコイツ?こっちはサクラに言われて渋々謝ったってのに、何でその返答でディスられなくちゃいけないんだよ?マジふさけんなよオイ……
「あ、あれ?その死んだ魚みたいな目……もしかして本物の裕美様!?あれ?という事は、裕美様は裕美様の性格を理解できてない?んんん?何か混乱してきましたね」
コイツはどういった基準で、私を私として認識してんだよ?
「お前は私を何だと思ってんだよ?馬鹿にしてんのか?」
軽く幸を睨みつける。
「アハハ、冗談ですよ裕美様。ちょっとからかってみました。先程の仕返しをしたかっただけですよ」
『先程』?ああ、そういえば幸はさっきまで死んでたんだったな。つまり記憶は死ぬ直前のものだから『先程』ってのは、思念体の私が死んだ時のやつだな。
って事は、幸のヤツ私が思ってた以上に怒ってたんじゃん!?こりゃあちょっと真面目に謝っといた方がいいのか?
「あ~……いや、ほんとスマン幸。あん時はテンションが変な方向に行ってたというか何というか……」
うああ~……人に謝るのなんて慣れてないから何言っていいのかマジでわかんねぇよ。
「フフ……あ~裕美様。心臓に悪いから、ああいう変な行動はもうやめてくださいね」
しどろもどろになる私を見ながら、幸は軽く笑いながら答える。
ん?それにしてもどっかで聞いた事あるような言葉だな……いつ聞いたっけ?
「それにしても、エフィさんとステラさんが一緒にいる、という事は、私が死んでいる間に色々と解決したんですか?」
幸はエフィとステラちゃんがいる方向を見ながら疑問を口にする。
まぁ当然の疑問ではあるよな。
「そうだね。人間災害……改めマオウ・サマの行為を見て、自らの行為を振り返る事ができてね。許される事ではないとは理解していたが、ステラに謝罪させてもらい、慈悲により許してもらえた、といったところかな」
ざっくりとした説明をするエフィ。
その説明を聞いて、少し考え込む仕草をする幸。
「もしかして裕美様。傍若無人なゲームを提示してきたのは、自らの行為をエフィさんに自覚させるための行為だったんですか?」
は?えっと……もう何回目かわからないけど、何言ってんだコイツ?
「ステラさんではエフィさんを倒せない。だからといって裕美様がエフィさんを倒すだけでは解決しない。この問題を完全に解決するためには、エフィさんに罪の意識を理解させ、謝罪させる事で二人を和解させるのが一番。そう考えたからこそ、裕美様は悪役に徹する事にしたんですね!」
お、おう……?
「裕美様と敵対する事になったせいで、冷静に判断する事ができなくなってしまってましたが、よくよく思い返してみれば、裕美様の台詞回し……」
「いやぁ、やっぱ幸には気づかれたかぁ~演技ってなかなか難しいもんだなぁ~」
幸の発言を途中で遮る。
何が悲しくて、悪役っぽいセリフを中二病全開で話してた、数日前の黒歴史を冷静になった状態で語られなくちゃならないんだよ!?
「黒歴史が一つ追加されてよかったな裕美ぃ……アタシはしっかり記憶しといてやるから安心しろ」
後ろから、肩に手を回しながら小声で話しかけてくる馬鹿。
何か、今なら記憶を消去できる魔法を開発できそうな気がする。
まぁ、そんな魔法を私が本気で使ったら、記憶が完全になくなった廃人作り出すだけなんだろうから、さすがにソレを美咲に使うには気が引ける。
「それはともかく、お前の要求はちゃんと実践したぞ。これで満足かサクラ?」
面倒臭い馬鹿は無視して、隣にいるサクラに話題をふる。
「まぁ……私は、幸さんがそれでいいなら、別にこれ以上は……」
「サクラ。よだれ垂れてるぞ」
「垂れてない!!」
たぶん、私が要求通りに、ちゃんと謝るとは思っていなかったんだろう。どういう反応したらいいのか対応に迷っているサクラを馬鹿にして、いつも通りの空気を作ってやる。
とりあえずは、今この場での問題は無事解決して丸く収める事ができただろう。
あとは、この場ではない問題を解決できれば……




