第二十四話 和解
「っぶねぇ~……不発に終わったからいいものを、少しは周りの迷惑考えろよ馬鹿裕美!死ぬかと思ったじゃねぇかよ!」
せっかく中二病さんをヤる気になってたのに、近くにいた美咲から妨害のクレームが入る。
ってか『不発』?コイツ何が起きたのかちゃんと見てなかったのか?
そもそも『馬鹿裕美』って何だオイ!?馬鹿の総本山みたいな奴に言われたくねぇよ!
あと、しっかり防壁張っといて『死ぬかと思った』はねぇだろ?美咲の防壁レベルでダメだったら、たぶんここにいる全員死んでるだろ。
……いや待て、コイツが放った、たった一言にどんだけツッコミ入れてんだ私!?
「大丈夫、お前、生きてる、OK?」
いちいち相手してるのも面倒なんで適当に流しておく。
「何で片言なんだよ?もしかして馬鹿にしてんのか?」
鬱陶しいなぁ……わかってんなら聞いてくんなよ。
「おいサクラ。お前は、中二病さんが反魔法習得しようとしてたの知ってたのか?ずっと中二病さんのお守りしてたんだろ?」
何が起きたのかちゃんと見ていたであろう、口を半開きにして目を見開いて驚いているサクラに声をかける。
「おいおい大丈夫か?ただでさえ喋る時よだれ垂らしそうな喋り方なんだから、そんな口半開きしてたら、よだれがリットル単位であふれ出るぞ」
「そんなに垂らしたら脱水症状になるわよ!?」
言い返すところソコかよ?
「えっと、エフィさんの反魔法でしょ?も、もちろん知ってたわよ!だって私が警護してて、ずっと一緒にいたんだから当たり前じゃない!」
完全に目が泳いでるな。
まぁわかってたけど、案の定サクラも反魔法については聞かされていなかったんだな。
「とにかく!エフィさんが反魔法を習得した今、アンタの馬鹿げた魔力による攻撃も怖くなくなったわよ!もう無駄な抵抗はやめて大人しくしなさい!!」
いや……私の攻撃を防げる手段を得たってだけで、私にダメージを与える手段が無いんじゃ、そんな脅し文句は交渉の材料にすらならないだろ。
「わかったなら早く幸さんを復活させて、両手をついて額を地面に押し付けて謝りなさいよね!」
ああ、サクラにとっての第一目的はソレか……
「もう少ししたら幸は復活させてやるから落ち着けよサクラ。でも、その前に……」
サクラをあやしつつ、私は再び魔力の矢を作り、中二病さんへと放つ。
威力は、美咲がいつも使っている物に毛が生えた程度に抑えているが、突如現れたステラちゃんと話し込んでいるせいで、私に背を向けて完全に油断している中二病さんを仕留めるには十分な威力だ。
さっき私の魔法を防いだ時は、左手を突き出していた。
つまりは、私のように、身体全体を反魔法で包み込むほどには制御できてはいない、という事なのだろう。
そう判断したからこその、威力無視な即効性の不意打ち。まぁ威力無視って言っても、心臓狙ってるから、当たれば致命傷になるだろうけどね。
「馬鹿ねぇ……エフィさんには反魔法があるから無意味だってわからないの?」
ずいぶんと余裕ぶっこいてるなサクラ。
そういう分析力の低さが出世できない原因だと思うぞ。
何はともあれ、コレで今回の騒動も無事終了だな。
そう考えた瞬間、思いがけない事が起こった。
ステラちゃんが中二病さんをかばったのだ。
防壁は張っていたようなので、若干威力は軽減できていただろうが、私が放った魔力の矢はステラちゃんの肩に突き刺さっていた。
「何故だいステラ!?何故私をかばったりしたんだい!?」
中二病さんが叫ぶ。
つうか、そのセリフ私が叫びたいよ。
ホントどういう事だよ?ステラちゃん、中二病さんには死んでほしいんじゃなかったのかよ!?
「ワタクシは……女神様に騙されていたのだと思っておりました。魔力の存在を明かさずに、魔力があれば誰でも使えるような魔法で奇跡を演出し、人々の心を惑わせていたのだと……」
ステラちゃんの独白が始まる。
「反抗する者は力でねじ伏せ、自らが現代神として世界を統べるために行動する俗物的人間……そう思っておりました」
……違うの?
「しかしソレは、ワタクシが抱いていた女神様のイメージにフーリンさんから聞かされた、少し嘘が混じった言葉が合わさった事で出来上がってしまった妄想だという事に気付きました」
さすがは浮遊狐の同類だな。説明に嘘を混ぜ込むとか人間味の欠片もねぇな……いや、実際に人間じゃないのか。
「実際、多少は女神様には騙されていたのですが、それは、女神様も気が小さいだけの普通の人間だった、という程度のものでした」
そりゃあ、ただ中二病こじらせてるだけだから気は小さいわな。
「それでも『世界を平和にしたい』という、芯にある部分は、嘘偽りない事を知る事ができました。ワタクシが女神様をお慕いしていた部分に間違いはなかったとわかったのです!」
何を中二病さんから聞かされたのかわからないけど、大丈夫かステラちゃん?そんな簡単に、殺したいほど憎んでた奴の言う事信用していいのか?
ステラちゃん、新興宗教の勧誘とかにコロッと騙されたりするタイプなんじゃ……あ、騙されたタイプだった!!?
「むしろ、気の小さい普通の人間でありながら、ブレる事なく『世界平和』を願い続け、実践しようとしていた事に感激いたしました!やはりワタクシにとって、女神様は女神様なのです!!」
はぁ……うん、まぁ本人が納得してるなら、それでいいんじゃない。
何かもう馬鹿らしくなってきた。
私は中二病さん達がいる方へと、やる気なく歩いていく。
「何をするつもりよアナタ!?」
めちゃくちゃ警戒してくるサクラ。
いや、だって幸の御遺体が放置されてるのって、あの辺りなんだもん、しょうがないじゃん。
「何か気が付いたら勝手に和解してて、普通にやる気削がれたから、もう幸を復活させてこの件は終わりにしようとしてんだけど……不満か?」
物凄い勢いで首を横に振るサクラ。
そりゃあサクラは幸第一主義だもんな。蘇生させる事に反対はないだろう。
そして何故か、皆が見守る中で幸を復活させる私。
「蘇生まで出来るのかい?さすがは人間災害認定受けるだけの事はあるね。魔力が桁違いだ」
もう殺される心配がなくなったからか、随分と余裕ができてきたな中二病さん。
「私の事を『人間災害』って呼ぶのはやめてくれ。浮遊狐共に与えられた呼び名ってのはどうにも気に食わない。私を呼称する時は『魔王様』か『裕美様』にしてくれ」
「サラッと様付けで呼ばせようとすんなよ……」
私と中二病さんの会話に、腐れ縁の親友がボソッとツッコミを入れてくる。
「確かに、アノ浮遊猫の思惑通りになっているようで腑に落ちないね。ではお言葉に甘えて、キミの事はマオウ・サマと呼ばせてもらおう」
ん?何か発音変じゃなかったか?もしかして『魔王様』って名前だと思われてる?
「それと、私の事はエフィと呼んでほしい。何故、チュウニビョウサンと呼ばれているのかはわからないが、できれば本名で呼んでもらえると嬉しいね」
そういう台詞回ししてるから中二病さんなんだよ……
でも、まぁエフィって呼んだ方が文字数的には楽でいいので、とりあえず「あいよ」と適当に返事を返しておく。
「さらに追加でお願いしたい事があるのだがいいかな?」
「あんだよ?まぁ、幸が目を覚ますまで暇だから、とりあえず聞くだけは聞いといてやるよ」
私は寛大なので、中二病さん……改めエフィの要求を許可する。
「サクラ以外……羽の少女と真っ白少女の名前をまだ聞いていなかったのだけれど……聞いてもいいかな?」
テメェ等1日以上一緒にいたのに自己紹介すらしてねぇのかよ!!?




