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魔王少女  作者: mizuyuri
第三部
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番外編4 ~女神様 part3~

 どうやって生き残ったのかは、正直ほとんど覚えていない。

 ただ、こんな所で死にたくない、という一心で無我夢中だった。

 無駄に余計な事を考えないようにしていたからかもしれないが、覚えているのは、ひたすらに自分の体内にある異物を外に出すようなイメージで、魔法の発動を阻害している魔力を何とかする行為だけに集中していた事くらいである。


 気が付いた時には、海面を漂っていた。

 体は動かない。

 と、いうよりも感覚がほぼなかった。

 呼吸する事も困難なため、なけなしの魔力を循環させて生命維持をしていた。


 生き残った喜びなど微塵もなかった。

 むしろ、こんな死の恐怖がじわじわ迫ってくる状態になるくらいなら、落下した衝撃で即死していた方が楽だったのかもしれない、という後悔の方が強かった。

 ただ一人で死を待つだけのこの状況は、心細くて嫌だった。

 不安で仕方なく、叫びだしたいのに声が出ない。涙だけはとめどなく流れてきたが、すぐに海水と混じり、余計に私の不安を増加させていた。


 どれくらいの時間そうしていただろう?

 私の感覚では無限にすら思える時間だった。

 魔力も尽きかけて、いよいよもうダメだと思った時「見つけたぞ!こっちだ!」という声が聞こえた。

 顔を動かす事ができなかったので、視線だけを向けると、異形の姿をした者が数名、私の方へと飛んで来るのが見えた。

 助けてもらえるのか?それとも、とどめをさされるのか?そんな思考を最後に、私の意識はそこでいったん途切れた。



 次に目を開けたのは、どこかの部屋の一室だった。

 私を取り囲むようにして座った異形の者達が、数人がかりで回復魔法をかけてくれていた。


「気が付かれましたか?身体の具合はいかがですか?」


 この場にいる一番偉い人なのだろう。異形の姿をした紳士風な人物が話しかけてくる。


「あ……体……うご……く?」


 喉がかすれて上手く喋れなかったが、ボロボロだった体は回復し、動かす事ができた。


「順調に回復しているようですね。回復魔法に特化した我々の医療班は優秀なんですよ。何か不調な部分がありましたら遠慮なく仰ってくださいね」


 私を安心させるかのように、にっこりと微笑みながら話しかけてくる。

 何で、こんな見ず知らずな死にかけを助けてくれたのだろう?


「ん?混乱している顔ですね。何故私達が無償でこんな事をしているのかが気になりますか?」


 エスパーか何かなのかなこの人は?


「そうですね、アナタが何故この世界に来たのか?どうして瀕死になっていたのか?その辺の事情を知りたい、というのも理由の一つですが、一番の理由は裕美様……この組織の長の指示ですかね?」


 どうやら私が異世界から来た事はバレていたようだった。


「裕美様は、元々この世界にある既存の法を大事にされております。この国では、例え犯罪者であっても死にかけている者は回復させた後、事情聴取するのが一連の流れとなっております。そして、魔力関連の事件・事故は我々の組織が専属して担当させていただいている、というのが理由ですかね?」


 何ともお人好しな人達なのだろう。

 回復した私が暴れだす可能性だってあるというのに……

 私は、今この場にいる誰よりも魔力が高い。この人達がサーチ魔法を使えないとは思えないので、そのあたりも理解したうえでの行動なのだろう。


 ともかく、私が生きていられるのは、そのお人好しな組織の長のおかげなのだろう。

 感謝の言葉しか出てこない。


 私はどうしても、その組織の長に直接お礼が言いたかった。

 多少の無茶を言い、何とか会える段取りをつけてもらった。

 本来なら無くなっていた私の命。もし役に立てるのだったら、この慈善事業組織に私の力を捧げたいという気持ちになっていたので、その意思を伝えたかった。


 しかし、やって来た組織の長は、あの人間災害だった。


 顔を見ただけで恐怖が蘇ってきた。

 完全にパニック状態になった。

 頭の中が真っ白になり、この時の事は何も覚えていない。


 気が付いた時には私は布団に寝かされていた。

 この世界に来てから、私本来の気の小ささが露呈されてばかりで、本気で自分が嫌になってきた。


 それからしばらくは、人間災害を見ても、とりあえずは冷静さを保てるようにするリハビリが行われた。

 こんなくだらない事に付き合ってくれているサクラという少女には感謝の言葉しかでてこない。


 そして一つとんでもない問題が発覚した。

 例え写真であっても、人間災害を見ると、魔力が上手く扱えなくなるのだ。

 人間災害から受けた、魔力阻害の魔法は完全に除去できているのだが、彼女の顔を見ると、私の中で勝手に魔力阻害魔法を生成してしまうようで、それによって私自身が上手く魔力を扱えなくなってしまうのだ。

 理由はわからないが、トラウマを克服できれば、自然と治るのではないかとサクラは言っていた。


 そうこうしているうちに、リハビリも次の段階に進み、人間災害と直接顔を合わせる訓練へと移行した。

 人間災害に会うのは、臆病な私にとってはとても気が重かったが、サクラに迷惑をかけたくなかったので素直に従った。


 しかし、待ち合わせ場所にいたのは見た事もない少女だった。


「ワタクシの方からは何度か拝見させて頂いておりましたが、こうしてお目にかかるのは初めてですね……お初にお目にかかります。ワタクシの名前はステラと申します……以後お見知りおきください女神様」


 突然自己紹介されて戸惑った。

 どうやら私の元々いた世界から来た、私の信者のようだった。


 私が作った時空間移動のゲートを使ってきたのか?でも何でゲートの存在を知っている?


 サーチ魔法を使うと、弱いが魔力を持っているようだった。

 ……という事は、アノ浮遊猫の差し金か。


「ふむ、その姿……以前教団内部で見た記憶があるね。私を追ってここまで来たのかい?」


 ゲートがあるのは、教団内部にある私の部屋だ。

 そして、この少女程度の魔力では、自前で時空間移動ゲートを作る事は不可能だ。


「この場所まで来るのも、だいぶ苦労したのではないかい?そこまでして私に謁見して、何か叶えてほしい望みでもあるのかい?」


 言葉に少々探りを入れてみる。


「ワタクシの願いですか。そうですね……女神様…………死んでくださいませんか?」


 少女はそう言い放つと同時に、攻撃を仕掛けてくる。

 やはり予想通りな展開だ。

 しかも、そんな程度の魔力を纏わせただけの魔法で私を殺せると思っているのだろうか?


 私は防壁を張り、しっかりと相手を見据えるように視線を上げ前を見る。


 そして、視界に入ってくる人間災害の姿……


 魔力阻害魔法が勝手に生成されるのがわかる。

 展開していた防壁が消えていき、ステラと名乗った少女が放った衝撃波をもろに受けてしまい、思いっきり後ろへ吹き飛ばされる。


 致命傷を受けるような攻撃ではなかったが、スゴイ痛い。


 追い打ちをかけようと迫ってくるステラ。

 人間災害がいるため、解呪しても解呪しても勝手に生成される魔力阻害魔法。


 あ、ひょっとしてコレ、すごいヤバくない?


女神様視点ずいぶんと長くなってますが、もう少し中二病さんにお付き合いください。

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