番外編3 ~女神様 part2~
異世界におりたって数日が経過した。
サーチ魔法によって、私が今いる国が島国だという事は理解できたものの、肝心の人間災害を発見できずにいた。
持ち合わせている魔力を隠すという事は非常に困難である。魔力量が大きければ大きい分だけそれはより難しくなる。
しかし、人間災害と言われる程の魔力反応は一切なかった。
私がこの世界に来る直前に、別の異世界に行ってしまったのか?
それとも、思っていた以上に強くはないのか?
何の情報もない状態で、私はひたすらにさまよっていた。
しかし、このように観光をするために、わざわざこの世界に来たわけではない。私は一大決心をして、情報収集のため、大き目の魔力反応が集まる場所へと、タイミングを見計らって突入した。
結果、無視された……
私の世界にいた、浮遊猫みたいな物体もいるので、おそらく人間災害について何かしら知っている集団だとは思うのだが、各自で勝手に喋っているため、割り込めずにいた。
というか、人と話すのが苦手な私にとって、他人の話に割り込んでいくなどという事は、とてつもなく難易度の高い行為なのだ。
そこでふと気が付く。
ありがたい事に、一人だけ会話に参加せずに、私の方に視線を向け、私の次の発言を待っているような表情の、目つきの悪い少女がいてくれた。
おそらく、ここにいる全員に聞こうが、この目つきの悪い少女一人に聞こうが、人間災害についての情報量は同じだろう。だったら……
「さあ!隠すとためにならないよ。知っている事を全て私に教えてくれないかい?」
私は、目つきの悪い少女一人に対象を絞り、話の続きをする。
「あ~……知らない知らないそんな奴。知らないからもう帰ってくんね?」
目つきだけではなく、口も悪かった。
しかし、この口調は確実に何かを知っている。
せっかく見つけた手掛かりを見逃すわけにはいかない。何のためにこの世界に来たのかわからなくなってしまう。
多少脅してでも……強引な手を使ってでも、何とか聞き出すしかないのかもしれない。
「ふざけているのかな?……サーチ魔法を使えないのかい?キミ程度の魔力では私には勝てないよ……もう一度聞く。知っている事を教えてくれないかい?」
「だから知らねぇっての……はやく帰れよ」
やはり多少は痛めつけないと口は割らないか……
私は、相手の魔力量に合わせて、死なない程度に調整して、目つきの悪い少女を攻撃し、屋外へと吹き飛ばす。
異変に気付いた他の少女達が、一斉にコチラに視線を向けてくる。
「逃げろ!!マジでやばい!すぐに逃げろ!」
外へと吹き飛んだ少女に向かって、金髪の少女が叫ぶ。
自分よりも友人を思いやる心の素晴らしさに、思わず「大丈夫、本気で命を奪うつもりはないよ」と言ってあげたくもなったが、ここは情報収集を優先する。
「そうだね。代わりにキミ達が私の質問に答えてくれるのだったら、外にいる彼女は見逃してあげてもかまわないよ」
情報が手に入るなら、誰に答えてもらっても構わないのだ。
しかし、次の瞬間まわりの空気が一変する。
振り返ると、そこには怒りの表情を浮かべた先程の少女が立っていた。
元々悪かった目つきが、さらに悪くなっている。
「おや?戻ってきたのかい?素直に私の質問に答えてくれるとは思えない表情だけど、キミと私の実力差は実感できたろう?無駄な抵抗はやめる事を推奨するよ」
戦うつもりなら、本気でやめてほしかった。
私は情報が欲しいだけで、命まで奪うつもりはない。
他の子達が、目つきの悪い少女を止めようと声をかけているようだったが、止まる事はなかった。
そして、次の瞬間、目つきの悪い少女は変身する。
そうか……この子も魔法少女だったの……
「……は?」
思わず私の口から声が漏れる。
いつものクセで咄嗟に使ったサーチ魔法。その反応が……
「え?……いや……嘘でしょ?こんなの……人間が持てる魔力じゃなくない?」
尋常じゃない魔力量。人間がどうこうできる領域をはるかに超えている。
間違いない……この子が人間災害だ。
というか、この子が人間災害じゃなかったら、コレと同等以上の魔力持ちがまだ存在する事になる。さすがにソレはないだろう。
ちょっと待って?浮遊猫、何でこんな別次元の存在と私を比較した!?
あの感じだと『お前よりちょっと強い奴がいるよ』くらいなニュアンスじゃない?
カナブンにクワガタ紹介するくらいな感じかと思ってたけど、コレって紹介されてるの恐竜くらいにレベル差があるよね?
「なぁ?私の左腕折れたっぽいんだよ。すげぇ痛いんだけど、どうしてくれんだコレ?」
すごい脅されてる!?ヤバイ!ヤバイ!!やばい!死ぬ!このままじゃ何もできずに死ぬ!!
「ちがっ……!?……いや、それは……状況的に……」
ダメだ!?自分でも何言ってるかわからない。
こんなところで、人と話すのが苦手な事が弊害になっている。
「聞こえねぇよ……ハッキリ喋れ。死ぬか?」
だよね。やっぱりそういう反応だよね。
まずい……これ確実に殺される。
私は何のために異世界までやってきたんだ?人間災害を倒すためにやって来たんじゃないのか?気が小さくて臆病でも、今奮い立たなくてどうするんだ私!
私は叫びながら、無我夢中に全力で魔力を込めて攻撃を繰り返す。
しかし、私のなけなしの勇気を振り絞って繰り出した攻撃は全てかき消されていた。
「ちょっと待ってよ……ナニコレ?……ありえないって……こんな……」
こんなの、どうやって倒せばいいの?
私の混乱を無視するかのように、人間災害がゆっくり近づいてくる。
先程振り絞った勇気は、完全に絞りつくされた。
嫌だ!死にたくない!?
「待って!待ってよ!!ごめん!謝る!謝るから!!お願いだから許して!!そうだ!帰る!!私言われた通り元の世界帰るから……あぐっ!!?」
惨めに命乞いをしてみたが、案の定無意味だった。
常に魔法で防壁は張っているものの、ソレすら意に介さず頭を鷲掴みされ、そのまま転移魔法で、どこかの上空へと連れてこられた。
場所を聞いたが、よくよく考えたら、私はこの世界の地名なんてよく知らない。
その他にも、色々と難しい事を説明されたが、いまいち意味がわからなかった。
そして、説明が終わった次の瞬間体に異変が起きた。
「……え?何……コレ?魔法が上手く制御できない……?」
そう、魔法を発動させようとしても、身体に伝わる魔力の流れを、何かよくわからない障害物によって遮られてしまって、上手く伝えられない、そんな感覚に陥った。
「面白ぇ魔法だろ?防壁維持するので精一杯になったろ?……つまり私が手を放したら、防壁張ったまま飛行魔法が使えないお前は、時速1000㎞を越えて落下していくってわけだ」
頭の中が真っ白になった。
この後何をされるのかが容易に想像できる。
ここから?落とされる?魔力が上手く扱えない状態で?
その後も、人間災害は何やら説明を続けているようだったが、私の頭にはまったく入ってこない。
何度も言うが、私は本当は気が小さくて非常に臆病なのだ。
もう、精神が耐えられる限界はとっくに超えている。
「や……やだ……えぐッ!……し、死にたくないよぉ……お願いします……ゆ……ヒッく!ゆるしてください……無理……私には……ヒぐッ!……私には耐えられないです……!」
嗚咽が漏れる。
本当に私は何のために異世界まで来たんだろう?
こんな化物を倒そう、なんて意気込んでた私はなんて馬鹿だったんだろう?
不満を抱えていても、自分の世界に引きこもっていれば、こんな恐ろしい想いをせずに済んだのに……
人間災害がここまでの化物だってわかっていれば……いや、タラればの話なんかしても意味がない。
結果は、臆病者が恐怖心で心を満たした上で死ぬ、というだけの事。
本当に……私は何のために……こんな結果を残すためだけに異世界まで来て……
「……死ね」
放たれる死刑宣告。
防壁がなければ意識が飛ぶであろう落下感。
そして、最後に見た人間災害の、私の反応を心の底から楽しんでいるような邪悪な笑み。
それは、落下して死ぬであろう恐怖心よりも大きく、私の心に残って消える事がなかった。




