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魔王少女  作者: mizuyuri
第三部
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番外編 ~異世界の魔法少女~

 この世界には神様がいる。

 ワタクシがそう思ったのは10歳の時でした。


 ある日の事、この世界での主要宗教の神父をしていた父が、異教徒の襲撃を受け、一緒にいた信者達と共に大怪我を負いました。

 もちろん、本来でしたら『大怪我』程度で済む事件ではありませんでした。

 大怪我で済んだのは、その現場に偶然居合わせた、ある女性のおかげでした。


 その女性は、暴徒と化し、刃物を持った異教徒数人を前にして、まったく動揺する事なく立ちふさがり、不思議な力で、相手に触れる事なく、手を振りかざしただけで吹き飛ばしていました。

 それだけではなく、暴徒たちが逃げた後、瀕死な状態である父を、手をかざしただけで治して立ち去っていったのです。


 これが、ワタクシが初めて、女神様……後にイリファ教を立ち上げる、エフィ・イリファ様を見た時の事でした。


 この世界は、お世辞にも平和な世界とは言えませんでした。何かにつけて、国同士の小競り合いが起こり、そのたびに、そこに住む人達の生活は貧窮していきました。国の立て直しという名目で、重い税を取り立てられていたのです。

 そんな国同士の不毛な争いをおさめて回っていた女神様に、心を惹かれていったのは仕方がない事だったのかもしれません。


 そんなある日、女神様は全世界に向け演説を行いました。


『この世界は、一部の権力者による不毛な争いが多すぎる。自分が神に選ばれた存在だとでも思っているのかい?権力者諸君!それは自惚れというものだと悟るがいい。何故なら、私こそが真に神の代行者なのだから!私は世界中を回った。私が行ってきた奇跡は皆、目の当たりにしているはずだ。私はここに宣言する!争いの無い楽園をつくる事を!私に付き従う者よ!声を上げろ!もう権力者に怯える事はない!私は、私の庇護下にある者を絶対に見捨てたりはしない!』


 それは国家からの独立の言葉でした。

 しかし、自らの領土を持っているわけではない女神様の国が認められるはずもなく、扱いとしては、ただの新興宗教扱いでした。

 これが、イリファ教の始まりとなったのです。


 ワタクシはすぐに入信しました。

 もちろん、国教の神父をしている父をはじめ、家族からは猛反対されましたが、ワタクシは耳を傾ける事はしませんでした。


 女神様の傘下に入る人は、決して少なくはありませんでした。

 各地に、支援者によりイリファ教の教会が建てられ、ワタクシは家から一番近い隣町の教会へと、数十キロの道のりを惜しげもなく通いました。

 各教会をまわり、数か月に一度やってくる女神様の姿を拝見する事がワタクシの楽しみでした。

 女神様の姿はとても輝いてみえました。


 女神様は、どんな病気やケガも不思議な力で治療する事ができ、女神様に謁見したがる方は大勢おりました。

 病気やケガをしていないワタクシが謁見するわけにはいかず、ただ眺めているだけしかできませんでしたが、それでも幸せでした。


 女神様が世界に与える影響は、日に日に大きくなっていきました。


 そんな女神様に危機感を覚えた、ある国の権力者がついに動きました。

 イリファ教を邪教と認定し、女神様討伐のための軍も編成されました。

 今まさに、女神様討伐の軍が出陣しようとしたその時、たった一人で軍隊の眼前に降臨した女神様は、不思議な力で、その国もろとも軍を壊滅させたのです。


 そう、何の罪もない、その国に住む人達もろとも……


 ワタクシの……家族もろとも……


 隣町の教会にいて難を逃れたワタクシですが、孤児となり、それからは教会に預けられ、そこで生活するようになりました。

 何故普通に生活していただけの、ワタクシの家族が死ななければならなかったのか、それを考え続ける日々となりました。


 ただ、この事件をきっかけにして、女神様に逆らおうとする国は現れませんでした。

 そして、不思議な事に、各地で異変が起きるようになりました。

 それは、イリファ教の教会が存在しない町が、次々と自然災害により壊滅的な被害を受ける、といった異変でした。

 理論的に因果関係が証明できるものは何一つありませんでしたが、各所でイリファ教の教会が建設されるようになりました。

 異変が起こらなくなった時には、イリファ教の教会が無い町は一つもなくなりました。


 そして、その頃には、教会内で女神様の姿を拝見する事はほとんどなくなりました。

 女神様に逆らう者がいなくなった世界での、女神様の居場所は城の玉座となっておりました。


 ワタクシは、イリファ教を妄信していなかった町が、自然災害にあうのを目の当たりにしていた事で、ワタクシの家族が死んだのは、女神様を認めず、異教の教えを説いていたのが原因だったのだと、己の中で納得しようとしておりました。

 そんなある日の事でした。


「お初目にかかります。私の名前はフーリン・アールグ・ヴァイスシュヴァル・リグ・ファルブといいます。少々お話よろしいですかお嬢さん」


 ワタクシの前に現れたのは、空を飛ぶ猫のような姿をした、謎の物体でした。


 フーリンさんは、魔法についてワタクシに色々と教えてくれました。

 魔力さえ持っていれば、誰でも魔法が使える事。異世界では魔法が普通に使われている事。そして、女神様が魔法を悪用している事……


 女神様は最初、世界中をまわる時、常に魅了魔法(チャーム)を発動しており、自らの信者となりえる者をより多くつくりだす行為をしていたようで、ワタクシはまんまと、その作戦に引っかかってしまった一人となっていました。


 もちろん、自然災害も全て女神様の魔法の力でした。

 自らが現代神となるために。自らが世界を統べる王となるために。


 そんなくだらない野望を持っただけの俗物を、ワタクシは神と信じて……

 そんなくだらない人物に家族を殺されても、それは仕方がない事だと思い込まされて……

 そんなくだらない事に巻き込まれて、ワタクシの人生は……


 怒りしかありませんでした。

 ワタクシは家族の仇を討つために、女神様を倒す術を手に入れるために、フーリンさんと契約して、魔法の力を手に入れました。


「ただステラさん。一つ問題がありまして、どうやら彼女は異世界へと旅立ってしまったようなのです。まったく……異世界に現れた人間災害を例に出して、己の矮小さを教えてあげただけだというのに、せっかちな暴君だね。今ならまだ空間移動のゲートが開いたままになっているので追いかける事は可能ですが、帰還できるかどうかは保証できません……どうしますか?」


 フーリンさんの警告はまったく聞くつもりはありませんでした。

 帰還できなくても、この世界に未練はありませんでした。

 家族がいないうえに、女神様の色で染まってしまった世界。こんな世界は、もう見たくありません……

 帰れなくなったとしても、それでも構いません。

 ただ、それでも、嫌な思い出ばかりなこの世界ですが、私が生まれ育った世界。帰って来る時、それは、女神様を討伐して、この世界から女神様の色をそぎ落とす事が可能になった時。その時は帰ってきたいと思いました。


「決意したアナタに、私からは何も言う事はありません。が、一つだけ忠告しておきましょう。アナタが今から行く世界には、全異世界で初めて『人間災害』に認定された恐ろしい魔王が存在しています。その『破壊の権化』ともいうべき人物に会ったなら、迷わず逃げてください。命乞いは無意味です。もちろん戦ってなんとかなるような相手ではありません。いいですか?人としてのプライドを捨ててでも逃げてください。命の重さをきちんと理解して行動してください」


 そう、ワタクシの心にぽっかりと空いてしまったような穴……家族を失った事で知った、一人一人の命の重さ。信じていた者に裏切られた痛み。今は人としての尊厳をワタクシは理解できたような気がしました。

 ある意味、女神様のおかげで……


 ワタクシは、この気持ちを忘れる事なく、終生持ち歩く事を決意しました。

 それは、異世界でも行動の指針になるように……女神様のように力に溺れないように、常に人の心を持ち続けられるように……


 フーリンさんと、この世界に別れを告げて、ワタクシは一人異世界へと旅立つのでした。


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