第十九話 裕美とステラ
通常のツインルームよりも、少し料金お高目なロイヤルツインルーム。
部屋がちょっと広く、ソファが設置されており、風呂がユニットバスではなく、風呂・トイレ別に設置されている以外は、普通のツインルームである。
朝食を食べている間なのか、運動場へと出かけている間なのかはわからないが、既に部屋の清掃は終わっていたようで、ベットメイキングが終わっているシングルベットへと勢いよく腰を下ろし、変身を解く。
「あ~~……疲れたぁ~~!」
そのまま寝転び、思いっきり伸びをする。
「ほら、ステラちゃんも、適当に座ってテレビでも見てろよ。明日まで用事は無いし、とりあえずは今日の昼飯の時間までゆっくりしてろって」
動こうとしないステラちゃんへと声をかける。
しかし、それでもステラちゃんが動く事はなかった。
「……どうしたステラちゃん?」
寝そべった姿勢から起き上がり、ステラちゃんへと視線を向ける。
「裕美さんが殺した方……泣いていました。裕美さんを心配して……心の底から……」
まぁ、そりゃあ私の眷属だからな。
私が死んだりしたら、巻添えくらって消滅するってなれば、焦って泣き出したりはするだろ?
「お三方とも、何だかんだ言いながらも、裕美さんの事を信用しているようでした……あそこまで気持ちを踏みにじる行為をしなくてもよかったのでは?」
何かサクラみたいな事言い出したな。
「アイツ等に絶望与えて殺すには、アレくらいやらないとダメなんだよ」
そもそもが、そういうルールのゲームのつもりでやってるわけだしな。
「……裕美さんは、ワタクシが女神様を倒すための手伝いをしてくれているのですよね?女神様の護衛をしている三人を何とかしてくれる、というのがワタクシとの契約なのですよね?」
契約?ああ……そういえば、最初はそういう設定で話進めてたっけな。
「裕美さんの戦闘を目の当たりにして確信いたしました。裕美さんの力があれば、殺す事なく、一瞬にしてあの三人を無力化させる事だって可能ですよね?」
「まぁ……そりゃあな……」
でも、それをやると、あっさり終わりすぎてつまらないから今のルールにしたわけで……
「ワタクシのために動いてくれているのでしたら、もうヒドイ事をするのはやめてください!!途中からしか見ていませんが、あんな場面何度も見たくありません!!」
突然叫びだすステラちゃん。
あの殺し方はちょっと刺激強かったかな?
「落ち着けってステラちゃん。次はグロテスクな感じはちょっと抑えるようにして、精神面をえぐる殺し方にするようにするから、な?」
「違います!!ワタクシが言っているのはそういう事ではなくて……」
叫びながらも、だんだんと声が小さくなっていく。
ただ、ステラちゃんの表情は、何かを決意するかのようにキリっとした目つきになっていた。
「裕美さん……生活面でもワタクシの事を支えてくださいまして、本当にありがとうございました。ですが、ココから先はワタクシ一人で大丈夫です。幸い、先程の場所は把握できたので、女神様がいる位置はわかりました……」
突然血迷った事を言い出すステラちゃん。
「一人で、って……一人じゃ美咲とサクラにすら勝てないぞ。単身乗り込んだところで、中二病さんにたどり着く前にゲームオーバーになるのがオチだぞ」
ステラちゃん一人だと、最悪ポチやヴィグルも敵にまわる可能性だってあるんだぞ?
「それでも構いません……本来でしたら、これはワタクシ一人で何とかしなくてはならなかった問題だったのですから」
う~ん……私等が関わらなかったら、飢え死にしてた可能性あったの忘れてないか?
「目の前にぶら下げられた悪魔の囁きに、手を差し出してしまったワタクシの心が弱かったのです……女神様にたどり着く前に殺されたとしても、それはワタクシへの天罰だと思い、素直に受け入れます」
悪魔の囁きって……私の事だよな?ちょっと言い方ひどくない?
「それに、裕美さんが殺してしまった、羽の女性……ある意味ワタクシが殺したようなものです。ワタクシが死ぬ事で、少しでも彼女の魂が安らぐなら、志半ばで倒れたとしても、無駄死にではないと思えますから……」
いや、無駄死にだよ。
魂云々関係なく、普通に幸に蘇生魔法かけるし。
ってかアレか?ステラちゃんが熱くなってるのって、蘇生魔法の存在を知らないからか?死んだらそこでお終いだと思ってるからこんなに必死になってるのか?
……うん、いや、まぁ普通は、死んだらお終いであってはいるんだけどな。
「あのなステラちゃん。私には蘇生魔法ってのがあるから、仮に何人死んだとしても、全員復活できるから何も心配する事はないんだぞ」
ステラちゃんは、目をつぶり、ゆっくりと首を横数回にふる。
「違うんです裕美さん……復活できたとしても、それは別に関係ないんです……」
私の言葉を聞いても、ステラちゃんの心は動く事はなさそうだった。
「人の命というのは、そんなに軽いものではないんです……復活させるからと言っても、その人の尊厳まで踏みにじっていい権利なんてものは誰も持っていないのです」
いや、そりゃあまぁ、道徳的な観念から言えばそうかもしれんけど……
「ワタクシは、目的のためとはいえ、他人の尊厳を踏みにじるような行為は絶対にしたくはないのです!」
ステラちゃんの剣幕に思わず押されて、私は何も言えなかった。
少しの間、永遠とも思えるような沈黙が訪れる。
「今までありがとうございました裕美さん。ここから先はワタクシ一人で、やれるだけやってみる事にします」
それだけ言うと、ステラちゃんは踵を返し、部屋の出入口へと歩いて行く。
「裕美さんはもう仲間の方達と争う必要はありませんので、あの方達と、必ず仲直りしてくださいね。それと……ワタクシのせいで迷惑をかけてしまった事を謝罪いたします。可能でしたら、皆さんにもその旨伝えておいていただけるとありがたいです」
ステラちゃんは、その言葉を最後に、ためらう事なく部屋を出て行った。
一人部屋に残された私は、その場を動く事なく、ただ黙ってベットの上で座り込んでいるだけだった。
……ってかあと三泊、一人でロイヤルツインルームで寝泊まりすんのかよ?
今からシングルルームに変更できねぇかな?




