表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王少女  作者: mizuyuri
第三部
85/252

第十八話 ゲス魔王

「裕美さん!起きてください裕美さん!」


 ステラちゃんの声を合図にして、ゆっくりと目を開ける。


「やっと起きてくださいましたね……急に寝てしまったので驚きましたよ。あ、ホテルの方達が、そろそろ片付けしたいので、部屋に戻ってほしい、と……」


「悪いステラちゃん!話は後だ!早く行かないと格好悪い事になる!」


「え?あの?何が……?」


 混乱しているステラちゃんの手を取ると、そのまま転移魔法を使う。

 転移先は……


「裕美様!裕美様!!お願いです!目を……目を開けてください!!」


 さっきまで()()()()()()()()()()()を抱きしめ泣きわめいている、幸の背後に転移する。

 そのまま幸の頭に右手を置く。


「どうした幸?私はココにいるぞ?何をそんなに叫んでるんだ?」


 涙でくしゃくしゃになった顔が、ゆっくりと私の方を振り向く。


「……な?何が?……え?……コレって……?」


 混乱する幸の前で、左手の指をパチンっと鳴らす。

 その瞬間、幸の膝の上で倒れていた、私の姿が煙のようにかき消える。


「さ~ち~……敵にまわった私をあんま信用しねぇ方がいいぞぉ。そんなんじゃ命がいくつあっても足りねぇぞ」


 その一言で色々と悟ったようで、涙で歪んだ顔から、一気に血の気が引いて行く。


「一旦さようなら幸。お前が一人目の犠牲者だ」


 私が今できる、一番邪悪な笑みを浮かべながら、幸へと微笑みかけ、幸の頭から右手を放し、そのまま指をパチンっと鳴らす。


 絶望を浮かべた表情もろとも、上半身を吹き飛ばす。


「うわあああぁぁぁぁぁ!!!!」


 突然美咲が泣きながら叫びだす。

 ああ、そういえば、美咲のトラウマってコレが原因だったっけな。


「……ゲスめ……」


 つぶやきが聞こえた方に視線を向けると、サクラが涙を一粒垂らしながら、怒りの表情を浮かべていた。食いしばった口元からは、唇をかんだのか、血が滴り落ちており、強く握りこみ、爪を食いこませたコブシからもやはり血が滲んでいた。


「そんな事は知ってる……で?だから何だ?そもそも、このゲーム始める時に言わなかったか?『お前等全員、絶望を与えて殺してやる』って」


 サクラの反応は予想通りだな。幸が死ねば、あとで蘇生魔法使うってわかっていても、本気で感情を爆発させるってのは、ノゾミちゃんに幸が負けた時にわかっていた。

 あとは、煽ってみてどういう行動をとるか……


「言ってないわよ。アンタが言ったのは『トラウマ植え付けるくらい惨たらしい死』だったはずよ」


「は?ちょっと待て。お前、何でそんなどうでもいい発言覚えてんだよ?」


 言った当人ですら、何て言ったかなんて詳しくは覚えてないのに……


「どういう事です裕美様。もしかして設定したルールと違う事してしまったのですか?」


 まさかの外野からツッコミが入る。いいだろこの程度の差異くらい!?ニュアンス的なもんは同じじゃねぇのかよ?


「いけませんよ裕美様。明確なルール違反が行われたというのでしたら、それは反則負けになるのではありませんか?」


 そうかそうか、そういう流れにもっていくわけか……

 ってか何で私が煽られる側になってんだよコレ?


「うるせぇヴィグル!反則負けなんてねぇよ!これは命を懸けた真剣勝負……」


「最初に、ゲームだって言ってましたよね?裕美様本人が。ゲームでしたらきちんとしたルールは必要ですし、ルールに反すれば罰則があるのが普通です。悪質であれば、即反則負けになったとしても、それは致し方無いですよね?」


 私の発言食い気味できやがったな……このゲームを途中中断させるための穴を見つけて、畳みかけにきやがったな。

 コイツの屁理屈は本気で鬱陶しいんだよな……さて、どう乗り切るべきか?


「ルール違反って程のもんでもないだろ?実際、幸の死に方は随分と惨たらしかっただろ?」


「確かに惨たらしいです。ですが、過程はともかく、結果はコレいつもと同じ殺害方法ですよね?『トラウマ植え付けるほど』とは思えませんよ。コレがトラウマになってるのは美咲さんくらいですよ」


 ちくしょう!皆、美咲くらい単純馬鹿ならいいのに!

 ちなみに、話題になっている美咲当人は、うずくまって「ごめんなさい……ごめんなさい……」とブツブツつぶやいている。

 すげぇ鬱陶しいな。


「ってか何なんだよコレ?何が起きたんだよ!?裕美死んだんじゃねぇのかよ!?蘇生魔法使えるの裕美だけなのに、その裕美が死んじゃって本当にショックだったんだぞアタシ!!?」


 いきなり泣きながら叫びだす美咲。

 なるほどね。私が死んだと思ってて、それも含めて混乱とショックで頭ぐちゃぐちゃになってる感じか。


「ああ、さっき死んだみたいになったのは、私の意識をのっけた思念体だ。精神的にもダメージ与えるのに丁度いいと思って使ってみたんだよ。面白ぇ余興だったろ?」


 私の説明を聞いて、美咲は小さく「ふざけんなよ……」とつぶやく。


「私が自動防壁も自動回復も使わなかった種明かしはコレだよ。本体じゃないから、その辺のオプションが付いてなかったんだよ」


 まぁ正確に言えば『使わなかった』じゃなくて『使えなかった』なんだけどな。


「魔法自体は発動できたから、反魔法は使おうと思えば使えたんだけど、それ使うと魔法作用が全部無効化するから、思念体自体が消滅しちゃうから使わなかったけどな」


「まぁ普通、思念体魔法は遠く離れた相手にメッセージを伝える時に使うもので、このように使う物ではないですけどね……ましてや、思念体の状態で魔法を発動させるなんて事はできないんですけどね」


 私が本体じゃない事に気付いてたであろうヴィグルが補足説明を入れてくる。


「そうだな。思念体に実体を持たせる、などという芸当は裕美殿くらいしかできんだろうな……まったく、本体でもない裕美殿に惑わされて命令に逆らえなくなるなど、やはりまだまだ未熟だな小娘……」


 もう一人の、カラクリに気付いていたポチも会話に加わってくる。

 やっぱ、魔力の扱いに関しては、馬鹿三人よりも、コイツ等二人の方が一歩上っぽいな。


 それにしても、信憑性を持たせるために、思念体に実体を持たせたけど、まさか痛覚まで再現されるとは思ってなかったんで、その辺はちょっと誤算だった。

 文字通り、死ぬほど痛かったから、たぶんもう、この使い方はしないと思う。


「そんな事はどうでもいい!!このゲス魔王は、刺し違えてでも私が絶対に殺してやる!幸さんの気持ちをよくも踏みにじったわね!少しでも気を許してた私が間違ってたわ!!」


「……そうだな。裕美が性格破綻者ってのは前から知ってたけど、今回のはさすがに度を超えてるだろ……」


 馬鹿三人組の生き残った二人がキレだす。


「いいぞいいぞ。怒れ怒れ。そっちの方がより真剣にゲームに参加できるだろ?ゲームが面白くなれば、より私の良い暇つぶしになるしな」


 ここぞとばかりに煽ってみる。


「クソ魔王!!!!」


 サクラは叫びながら、私に向かって真空波を放ってくる。が、その魔法は私の自動防壁によってあっさりと弾かれる。


「イキがるのは勝手だけど、せめて私の自動防壁突破できるようになってみろよ。反魔法すら使ってないぞ私」


 美咲との同時攻撃だったら、ワンチャン防壁突破できたかもしれないが、美咲は思念体の私と対峙した時、ほぼ魔力を使い切ってたせいか、サクラに合わせて攻撃する事はなかった。


「つぅか落ち着けよ。今日はもう一人殺したから、続きはまた明日だよ……私はもう帰る」


 というよりも、途中で有耶無耶になったヴィグルの屁理屈攻撃が再開しないうちに、とっとと帰りたいってのが本当の理由なんだけどな。


「それじゃあまた明日な。次はどっちがどんな殺され方するのか楽しみに震えて待ってろよ」


 問題は、考えていた『ヒドイ殺し方』のネタがコレしかない事なんだけど……今更「ネタ思いつくまでちょっと待ってて」とか格好悪くて言えないしな。

 まぁ……考える時間は丸一日あるから何とかなるだろ。


「ああヴィグル。ゲーム終わったら蘇生魔法かけるから、幸の死体は丁寧に保管しとけよ」


 私は最後にそれだけを命令し、顔を青くして絶句しているステラちゃんの肩に手を置き、宿泊しているホテルへと転移魔法を発動するのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ