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魔王少女  作者: mizuyuri
第三部
82/252

第十五話 魔王の正体は?

「おばちゃ~ん!ラーメン・カレーセットと餃子、それと取り皿2つね」


 店の入り口からではなく、店から自宅へと通じている厨房から入店して、その場で注文をする。


「あら?裕美ちゃん遊びに来てたの?席に座って待っててね、すぐに持って行くから」


 いつも通り、ノゾミちゃんのおかんの反応がすぐに返ってくる。


「席どこでもいい?私の特等席の5番テーブル空いてる?」


「あんな店のド真ん中の席を率先して取りに行くのなんて裕美ちゃんくらいよ……大丈夫、まだ店開いたばっかりで、お客さん来てないから、どこでも座り放題だから。あ、希美も一緒に何か食べてく?」


 そしていつも通りのやりとりが行われる。明日から殺伐とした状況になるだろうけど、今この空間だけは平和でいいねぇ。


「じゃ……じゃあ私は『肉野菜炒め定食の希美盛り』で……」


 ちゃっかり、一緒になって注文するノゾミちゃん。

 ちなみに『希美盛り』ってのは、どれも量の多い店メニューを、長年かけてノゾミちゃんに適した量に調整した、ノゾミちゃん専用の裏メニュー的なものである。


 私の後ろをついてきているステラちゃんは、特に何も言わずに、ノゾミちゃんの両親に、軽く会釈し、申し訳なさそうにそそくさと席につく。


「……ゆ、裕美さん、いいんスか?」


 席に座って、開口一番ノゾミちゃんが質問してくる。


「いくら私がケチでも、この状況でステラちゃん無視して一人で飯食うほど性格ねじ曲がってねぇよ。大丈夫!こっから4日間の食費と宿泊費は私がちゃんと持つって!何なら今回の飯代はノゾミちゃんの分も払ってやってもいいぞ!安心しろ、金ならある!」


 絶賛脱税中だけどな。


「いや、私の分は会計に入らないから大丈夫なんスけど……そうじゃなくて……」


 何とも煮え切らない感じで喋るノゾミちゃん。何なんだ?


「あの……裕美さん、変身したまんまッスよ……」


 ん?何言ってんだ?そんなの変身解いてない私が一番知ってるっての。


「いや、だって、コッチの姿の方が便利だろ?この後ホテル宿泊すんのに、部屋空いてないって言われても、魔王特権で強引にねじ込めるかもしれんし……」


 とりあえず、何で変身解いてないのかの説明をする。


「違うッスよ裕美さん。気付いてなかったんスか?ウチの母さん、変身してる裕美さんに向かって、普通に『裕美ちゃん』って言ってたのに、普通~~っに返事返してたッスよ」


 あ……


「ウチの母さん、裕美さんが魔王だって9割方確信して、私に話しかけてきたりしてたんスけど、その度に必死になって誤魔化してたんスけど……私の努力を返してほしいッス」


 まぁノゾミちゃんの両親に関しては、私も正体隠すの面倒臭くなってきてたってのもあるけど、あまりに不意打ちすぎて、まったく気が付かずに正体バラしてしまうとは思わなかった。


「こ……巧妙な罠だった……」


「いや、超安直ッス」


 だよね。


「まぁバレたもんはしょうがない。バレたからって別に、動物に姿を変えられるわけでも、変身能力を剥奪されるわけでもないし、ノゾミちゃんの両親が他の人に言いふらしたりしなきゃ大丈夫だろ」


「その辺はウチの両親なら大丈夫だと思うッスけど……ってか、バレてもその程度な反応なのに、何で正体隠してるんスか?」


 何を言ってるんだ?そんなの決まってるじゃんか?


「そりゃあ、変身ヒロイン物のお約束だし」


「……皆に正体バラしていいッスか?」


 何だよぉ……怒るなよぉ。私の行動理念なんてそんなモンだぞ。この理由じゃダメなのかよ?


「冗談だっての。本気にすんなよ……ノゾミちゃんだってクラスメイトとかに魔法少女だって事黙ってるだろ?」


「そりゃあ正体バレたら色々と面倒臭い事になりそうッスからね。それに異質な力持ってるって知られたら畏怖されたり迫害されたりって可能性だってあるかもしれないッスから」


「私だって同じだよ。まぁ私の場合、美咲やポチのせいで、異質な力を持ってるって事はクラスメイトにバレてるけど、そこは名誉魔族って事で誤魔化してるってだけで……正体が魔王なんて事がバレてみろ。恐怖の象徴の魔王だぞ。確実に私の事を見る目が変わるぞ」


 とりあえずもっともらしい事を言ってみる。


「私は今の生活が気に入ってるんだ。知られても、今と同じ生活できるなら知られてもいいと思ってるし、逆に少しでも今の生活と変わる可能性があるなら、絶対に知られたくない。ノゾミちゃんの両親は前者だろ?知られたところで、私の生活になんら変化は起こらない」


 もちろん嘘じゃない。ただ、あくまでも一番の理由が、最初に言った『お約束』ってだけで、コレも私の行動理念の一つである。


「はぁ~……裕美さんも意外とちゃんと考えて行動してるんスね……」


 意外って何だよ!?最近だんだんと、ノゾミちゃんが私をどう思ってるのかわかってきた気がするぞ。

 そして、真剣な眼差しで私の話を聞いているステラちゃん。いいんだよこんな話、適当に聞き流してれば。マジになって聞き入る話じゃないっての。

 アレだな。ステラちゃん胡散臭い新興宗教の説法とかマジ聞きしちゃうタイプだな。

 ……って、だからステラちゃん、中二病さんの元信者だったのか。


「うあっ!?魔王様だ!!本当に魔王様がいる!!」


 ステラちゃんに、人の言う事を信じすぎないように説教してやろうとしたその時、突然店の入り口からデカい声が聞こえてきた。


「げっ!!?」


 思わず小さく声がもれた。

 店の入り口にいたのは、クラスメイトであり魔王様ファンクラブ発足者のミキちゃんと、同じくクラスメイトで魔王様ファンクラブに属しているカナちゃんとレイナちゃんだった。


「知り合いッスか?」


 当然の質問をしてくるノゾミちゃん。そんなの見りゃわかるだろ?


「クラスメイトだ……私が大間裕美だって事は内緒で頼む」


 さっき正体バレについて話してた事がいきなり役に立つとは思わなかった。

 ……ってか何でこんな店入ってきた?女子高生3人でフラッと立ち寄るような店じゃないだろ?つうか3人とも、ココから家が近いってほどでもないだろ?


「美咲から、この店が魔王様行きつけの店だって聞いた時は半信半疑だったけど、本当だったのね」


「まぁそんな半信半疑なタレコミ受けて、即行動する私等もどうかと思うけどね」


「そんな事はどうでもいいよ!早く握手してもらおう!握手!あとサインも!」


 こちらにゆっくりと近づきながら、小声でコソコソと喋る3人。

 聞こえないようにしてるつもりだろうけど、残念ながら魔法で丸聞こえである。


「どうやら美咲さんからの地味な嫌がらせみたいッスね……行動読まれてますよ裕美さん」


 同じように魔法で話を聞いていたノゾミちゃんが小声でつぶやいてくる。

 まったくもって本当に、地味すぎる嫌がらせだなぁオイ!ってか美咲ごときに私の行動ルートを読まれたってのが非常に腹立たしい。


「『裕美さん』言うな!こっからは私の事『魔王』って呼べ」


 私も小声でつぶやき返す。


「あ……あの!魔王様ですよね?ずっとファンだったんです!よかったら握手してもらってもいいですか?」


「あとサインも!!」


 緊張が伝わってくるような喋り方だ。普段私を適当に扱っているクラスメイトに、こんな風に話しかけられるのも斬新で面白ぇな。


「ありがとう。握手くらいはかまわないよ。サインは……ごめんね、そんなのは無いからちょっとできないかな?」


 私は優しく微笑みかけ、3人の手を握る。


『大人気ッスね。っていうか、普段の裕美さんを知っているぶん、その声色と喋り方すげぇ気持ち悪ぃッスね』


 頭の中にノゾミちゃんの声が響く。コイツ、いつの間にこの魔法習得してやがったんだ!?ああ、そういえば中二病さんが初めて来た時、この魔法で話しかけてきたんだったっけな……まぁでも、これなら、うっかり口を滑らせても、この3人には聞こえな……


「はいよ!裕美ちゃん。ラーメン・カレーセットと餃子お待たせ!」


 おばちゃぁぁぁーーーーん!!!?


「え?『裕美ちゃん』?」


 怪訝そうな表情を浮かべるクラスメイト達。

 やばい!まさかの伏兵だった。


「女将さん。裕美ならさっき帰りましたよ。急な仕事が入ったんで、使いに出したんですよ」


 クラスメイト3人にも聞こえるように、はっきりとした声で喋る。頼むおばちゃん!コレで察してくれ!!

 当のおばちゃんは、何やら変な表情をしており、まったくの無反応だった。

 何だよこの表情は?察してくれたのかダメなのか、よくわかんねぇな……


「……女将さん?」


 あまりに無反応だったので、再度声をかけてみる。


「あ、ああ……言われてみれば裕美ちゃんの姿なくなってるね。相変わらず魔王様は人使いが荒いわねぇ。あ、あとコレ、希美の分の肉野菜炒めね」


 食事を置いて、おばちゃんは再び厨房へと戻っていく。

 ……よかったぁ、おばちゃん察しがよくて、本当によかった。


『ウチの母さん、空気読まなくて申し訳ないッス……さっきこの魔法使って母さんには説明したんで、たぶんもう大丈夫ッス』


 って、ノゾミちゃんがおばちゃんに説明してくれてたんかい!?じゃあ、さっきの間はそのせいか……


「キミ達は裕美の知り合いだったのかな?ごめんね、裕美はさっき追い出しちゃったんだ」


「大丈夫ですよ!裕美ちゃんなんて、いたとしても、そこにある猫の置物程度にしか存在価値ないですから!」


「おいレイナ。それはさすがに、猫の置物に失礼すぎだろ」


 そう言いながら笑う3人。

 お前等さっき、その猫の置物以下の人間と握手して、めちゃくちゃ喜んでたろうが。


「まぁ裕美はいないけど、せっかくだからココで御飯食べていってよ。ココは私の行きつけの店なんだ。御贔屓してくれると嬉しいな」


「え?じゃあ、ここに来れば、また魔王様に会えるかもしれないんですね!」


「じゃあ私、またこのお店来る!」


 私の発言を聞いて、盛り上がる3人。

 でも、今日がイレギュラーだっただけで、普段だったら、魔王の姿でこの店来るのは、魔王軍で貸し切りにしてる時だけだから、いくら店通いしても、会えるのは猫の置物以下の人間だけなんだけどな。


『宣伝どうもッス。にしても裕美さん本人は随分嫌われてるッスね……大丈夫ッスか?学校でいじめられてねぇッスか?つらくねぇッスか?』


『うるせぇ黙れ!お前は私のおかんか!?』


 あ、試しに使ってみたら出来たわ。意外と単純で簡単だなコレ。


 そして私の言いつけ通り、ノゾミちゃんチで飯を食べて行った3人。さっそく量の洗礼を受けて、泣きそうになりながらも、ちゃんと完食していったのは褒めてやりたいが、あの感じだと、しばらくはこの店来ないだろうなぁ……


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― 新着の感想 ―
[良い点] 猫の置物以下の裕美ちゃん。何気に気にしてるのが面白い。
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