第十三話 最悪なゲーム
「……あなたも女神様の味方につくのですか?」
予想通りのセリフを吐いてくるステラ。だが、このセリフを待っていた!
私はステラの目の前まで歩いていくと、その場で変身する。もちろん公園に他の一般人がいないのは確認済みである。
「は?……あ……ああ……ば、化物……」
目の前で突然変身した私の魔力を確認したのだろう。ステラはその場で腰を抜かすかのように、尻もちをついて倒れこむ。
「どっちにつくかはお前次第だよステラ。お前は私に助力を乞う事に対して何を代償として捧げる事ができる?」
うっわ!すげぇ気持ちいい!!こういう悪の魔王みたいなセリフをリアルで言ってみたかったんだよ!!
「騙されるなステラ!裕美はそういう中二病セリフを、ただ言いたいだけだ!」
うるせぇよ!そんな事まで分析すんなよ親友!!言葉にされると恥ずかしくなるだろが!
「ワ……ワタクシは……」
変身した私を目の前にして、完全に怯えているステラ。それでも震えながら懸命に言葉を紡ぐ。
「ワタクシは女神様を倒すためなら悪魔とだって契約します!命だって惜しくはありません!ワタクシの命を捧げるのでは足りませんか?」
何かを決意したかのように叫びだすステラ。
「いい覚悟だステラ。お前の命をもって私はお前に力を貸そう!」
最高だよステラ!こういうセリフをポンポン言わせてくれるなんて!中二病さんのセリフまわしとかも考えると、コイツ等の世界ってもしかして、こういうセリフが普通に飛び交う世界なのか?
「ちょっと待ってください!!?何を考えてるんですか裕美様!!本当にステラさんの命を後々奪う気ですか!?」
何言ってんだ幸?んなわけねぇじゃん。そんなもん貰ってもいらねぇし。それとも何?ステラの命ってネットオークションとかで売れんの?ただの様式美だって気付けよ幸。相変わらず空気読めないヤツだな。そんなわけで幸の発言は無視する。
「だがなステラ。お前のその魔力を含んだ命程度じゃ、私との契約は精々5日間が限度だ。しかも私が全力で戦う事ができるのは1日5分といったところかな?」
適当な制約をつけて、今後のルール説明を馬鹿三人にもわかるように口に出す。
「お前に私を使う権限は、1日5分の5日間だ。どのタイミングで使うかはお前次第だ。与えられたチャンスを最大限に使うがいい」
どうだこのルール?馬鹿三人でも、私がどういうルールでゲームをしたいか気付いただろ?
「裕美~しつも~ん」
空気読めよ美咲!!?私は今ステラとサシで話してる体で言ってるんだよ!なんでソッチから質問飛ばしてくんだよ!?
「たぶん、1日1回どっかのタイミングで裕美の奇襲が来るのを、アタシ達で5分間エフィさんを守り通すってのを5回できればアタシ達の勝ちって感じなんだろうけどさぁ……」
なんだ、わかってんじゃん。美咲に伝わるか心配だったけど大丈夫そうだな。
「仮にポチやのぞみんに応援頼んだとしても、裕美が全力で暴れる5分は耐えられないと思うぞ」
は?
「ですよね……裕美様の攻撃って、一発が致死量ですからね」
「まぁ、1人1分耐えられるかすら怪しいわね」
ここぞとばかりに四天王3人からクレームが飛んでくる。
「裕美のやつぜってぇに、その場で思いついたキリのいい数字適当に言っただけだぞ、きっと」
「見積が甘すぎますよね。私達と自分との実力差をもうちょっと考慮してもらえないとゲームにすらならないですよね」
「そうとも限らないわよ。ただたんに『俺TUEEEE』したいから、それを考慮したルール設定かもしれないわよ」
もう言いたい放題だなテメェら……何か泣きたくなってきたんだけど。
「あの?……えっと……どう……いたしましょうか?」
馬鹿三人の会話をバッチリ聞いていたステラが戸惑いの声をあげる。
「そもそも5日間とか言ってましたけど、その間、裕美様はステラさんの衣・食・住の面倒を見る気あるんですかね?」
「無いでしょ。見捨てられた経験がある私が言うんだから間違いないわよ」
「言ってやるなって。裕美がそこまで考えて喋ってるわけないじゃん」
……泣いていいかな?私?
「あの……何かごめんなさい……ワタクシのせいで、こんな事になっているのですよね?」
ステラにまで気を使われてるし……やばい、本気で涙出てきた。
「名前、裕美さんでいいんですよね?……大丈夫ですよ裕美さん。元々ワタクシ一人で戦うつもりでしたので、裕美さんが女神様の護衛に付かなかっただけでも、ワタクシとしてはありがたい事ですから」
健気に微笑みかけながら、涙ぐむ私の頭を撫でながら口を動かすステラ。
「ワタクシの味方をしてくれると仰ってくれた裕美さんのお気持ちはとても嬉しかったです。ですが、お気持ちだけで十分です。ワタクシだけで、あの護衛に付いた3人を倒し、女神様を打ち取ってみますから見ていてください!」
ええ子やないか……ステラちゃん、マジ天使だ……
「……殺そう」
私はステラちゃんを抱きしめてつぶやく。
「私達二人でアイツ等殺そう。もう手加減抜きだ……蘇生魔法があるから大丈夫……アイツ等全員にトラウマ植え付けるくらい惨たらしい死をくれてやろう……」
「……はい?」
状況を掴めていないステラちゃんが変な声を上げる。
「よく聞けお前等!ルール変更だ!!」
馬鹿三人に聞こえるように大きな声で叫ぶ。
「私は1日に1人、お前等のうち誰かを殺す!もちろん普通には殺さない!生きてる事を後悔するレベルの殺し方をしてやる!次は誰が殺されるのか、どのタイミングで殺されるのか、ビクビクしながら一日を過ごしてろ!」
「ちょ…!!?待て裕美!!」
咄嗟に美咲が何か抗議の声を上げるが無視する。
「4日後には、そこの中二病さんの護衛は誰もいなくなる。そしたらステラちゃんを向かわせる!」
「裕美様!!?少し冷静になってください!」
幸の抗議も、もちろん無視する。
「4日後までに、中二病さんの魔力コントロールが戻っていればお前等の勝ち。そうじゃなければ私達の勝ちだ!」
「何で魔王が、魔王軍で保護してる人を殺そうとしてるのよ!!?」
サクラの言う事はもっともだ。でも、それはヴィグルが決めた判断だ。私は関係ない。
「まぁ、魔力コントロールが戻っていても、その時は私が殺してやるだけだけどな!ゲームとしてはお前等の勝ちって事でいいぞ。ゲームとしては、な!」
「あ……ああ……はぁ…はぁ…はぁ…」
再び過呼吸になっている中二病さん。こりゃ、4日間で魔力制御を安定させるとか無理そうだな。
「安心しろ。年明け前には全部方が付く!良い新年を迎えられるように震えて待ってろ!!じゃあな!」
そう捨て台詞を放ち、ステラちゃんの肩に手を置き、転移魔法を使って、その場をあとにする。
何も言えずに顔面蒼白になっている4人の姿を、目に焼き付けておく。
とりあえず、方向性はだいぶ変わったけど、年越し前までだけど、冬休み中は退屈しないで済みそうだ。
さて……どんなヒドイやり方で殺してやろうか、今から色々と考えておかないとな……




