第十二話 ステラの決意
「ステラ君といったかな?少し落ち着こうじゃないか。私を殺して、キミに何かメリットはあるのかい?その魔力では、私を殺した後に、世界間移動のゲートを開く事は不可能なのではないのかな?元の世界に戻らない事が望みなのかな?」
中二病さんはやっと起き上がり、饒舌に語りだす。
「先程の発言を取り消すというのなら、今ならまだ許してあげてもいい。キミを元の世界に戻す手助けもしてあげてもいい。どうだろう……あぐっ!!?」
話している最中に、再び衝撃波をくらい、再度しりもちをつく。
ってかさっきから何やってんだコイツ?この場にいる、私を除く全員で襲い掛かっても倒せるかどうかわからない程度には魔力強いんじゃなかったのか?
「ワタクシは今怒っているのです……黙って涅槃へと旅立っていただけませんか?」
ステラのやつ、完全に目がすわってるな。
自分が、減量中ボクサー以上に過酷な状況だったのに、中二病さんが悠々自適な生活してたのが、そんなに気に食わなかったのかよ?……いや、まぁ気持ちはわからんでもないが。
ってかアレか?怒りで魔力パワーアップでもし……てるわけでもないな。サーチ魔法で確認してみても、前に確認した時とさほど変化してないな。
「だから私の目の黒いうちには、エフィさんはやらせないって言ってるじゃない!無駄な事してないで、少しは落ち着いたらどうなのよ!」
中二病さんをかばうようにして、サクラが再びステラの前に立ちふさがる。
「エフィさんも、あまり挑発とかしないでよね!魔王にやられてから、上手く魔力がコントロールできないんでしょ?」
「は?今何と言ったのですか?」
正気に戻ったかのように、拍子抜けしたような表情でステラが聞き返す。
なるほど、そういう事か……何でさっきから、あんな弱魔法で吹っ飛ばされてんのかと思ったら、私のせいで……って、それヤバくね!?目の前に命を狙ってる奴がいるのに、自己防衛すらままならない状態とか!?アレか?このまま中二病さん殺されちゃったら、それって間接的には、私のせいになるのか?寝覚めが悪くなるから、そういうのは勘弁してほしいんだけどな。
「だからエフィさんは、魔王にやられたせいで、魔力がコントロールできなくなっちゃってるのよ!何?アンタは無抵抗な人間を殺すのが趣味なわけ?」
ここぞとばかりにステラを責めるような事を言って、攻撃されるのを思いとどまらせているサクラ。
「そんなバカな事が……?あの強大な魔力を持った女神様を倒した!?……まさか!その魔王というのが、フーリンさんが言っていた『この世界に現れた破壊の権化のような化物』の事なのでしょうか!?」
何それ?どこ情報?少なくとも、この世界の魔王の事じゃないのは確かだな。
「アハハハハ……あ~そうだな。確かにこの世界の魔王は、そんな感じな化物だな」
「いえ!そんな事ないですよ美咲さん!『気に入らない人がいたらとりあえず殺す』程度な事はしますが、『破壊の権化』というのはさすがに言いすぎですよ!」
黙れ馬鹿二人!!何でそう場を引っ掻き回そうとするんだよ!?ってか幸はフォローにならないフォローすんのやめろや!!
「んで?ステラちゃんも魔法少女なんだろ?だったら、その『破壊の権化』も標的になってんの?」
余計な質問をする美咲。いいんだよ!ほっとけよ!仮に破壊の権化が私だったとして、くだらない戦いはしたくないんだよ!正直面倒臭いし。
「そうですね……フーリンさんには『接触は避けて、出会ってしまっても逃げる事を最優先に考えろ』と言われていますが、いずれは力をつけて成敗したいと思っております」
しなくていい!思わなくていい!!
「ですが……今は女神様です。力を失っているなら好都合です。今のうちに息の根を止めておきます」
ノゾミちゃんの時並みに根が深いな。自覚がなさそうだけど、中二病さん何をやったんだ?
「待ってくださいステラさん!先程、裕美様も言ってましたが、今エフィさんを殺してしまったら、元の世界に帰れなくなってしまいますよ」
「元より覚悟のうえです。女神様とは刺し違える覚悟でやってきました」
すげぇ覚悟だな……
「で?ステラのこの発言を聞いて何か思う事はないかサクラ?」
「うっさいわね……私だってヤガミに対してそれくらいの思いはあったわよ!たぶん……少しくらいは……」
絶対ないな。すげぇ尻つぼみで言われても説得力皆無だぞ。
「帰れなくなった、って言って泣いてたのは誰だよ?生活費欲しさに、私に土下座してきた事もあったよな?」
「泣いてないわよ!それに私の事を助けてくれたのは、結局は幸さんで、アンタ何もしてくれなかったじゃない!」
何もしなかった……って、出会ったその日に万札あげたの忘れたのかよコイツ。ホント恩知らずなやつだな。
「何を言われたところでワタクシの決意は変わりません。そこをどいてもらえませんか?」
「ふえ!?……いや、無理だって言ってるじゃない!しつこいわよアンタ!」
私との無駄話に夢中になっていたせいで、咄嗟に対応できずに変な声を出すサクラ。
どっちにしろ平行線な会話しかしてないんだから、そんな焦って返事する事もないんじゃね?
「では……力ずくでもどかさせていただきます!」
ステラはそう言うと、衝撃波をサクラに向かって放つ。
サクラはステラが動いたのとほぼ同じタイミングで、無数に風の刃を作りステラに向かった放つ。風の刃は、ステラの皮膚数か所に傷を負わせる。
一方で、ステラの放った衝撃波は、サクラの防壁に阻まれ、サクラに一切ダメージを与える事なく掻き消える。
「かすり傷程度で済むうちに諦めなさい……次は首を叩き切るわよ」
わかってはいた事だが、ステラ程度の魔力ではサクラには勝てない。
頭はちょっとおポンチで、実務ではまったく役に立たないが、魔力を使った戦闘をさせれば、いちおうは魔王軍四天王だけあって、それなりには強い。
「ステラさん!いったん落ち着きましょう?少し話し合いをしませんか?事情を詳しく教えていただければ、何かしら力になれるかもしれませんし!」
「う~ん……アタシ個人としては、どっちの味方ってのはないんだけど、魔王軍から給料もらってる立場上、エフィさんを守らないとならないしだし……あと、人殺しを黙って見てるほどサイコパスな神経はしてないから、コッチに付かせてもらうよ」
幸と美咲も、サクラの隣に立ち、ステラと対峙する形をとる。
あ~あ……こりゃもうステラに勝ち目はないな。その程度の魔力で魔王軍四天王3人を同時に相手するとか、ただの自殺行為だ。
「皆さん、女神様の味方をするの……」
何やらつぶやこうと口を開いたステラだったが、私と目が合い、途中で口を閉じる。
今だ中立状態の私を見て黙るって、もう何を言いたいのかわかりやすすぎだろオイ?この状況で私が、四天王側に加わったところで大勢に影響はないとはいえ、ステラ側につくメリットは……
…………
……
ちょっと待ってくれよ!?ソレ超面白そうじゃね?
もしかして、私がステラ側について、ハンデつけてコイツ等と戦うのって面白いんじゃね?
どうせ冬休み中暇なんだし、ちょっとしたゲーム感覚で長期戦すれば、いい暇つぶしになるんじゃないかコレ?
「……サクラ、さっちゃん。気を付けろ……裕美のあの表情、絶対にろくでもない事考えてる顔だ」
おっといかん、顔に出てたか。長年私の親友やってるだけあってよく気付いたな。さすがは美咲。でもな……私がコレって決めた事を止める力は誰も持ってないだろ?
ってか、確認できなけど、今の私どんだけ凶悪な笑みを浮かべてるんだろう?
もうね、何というか……超楽しそうだわコレ。




