第四話 脅威の人間災害
「あれ?そういえば、今ここにいる人が、さっきキューちゃんが言っていたエフィさんって事は、希美さんを待ってる間に会った方は何者だったんでしょうか?」
唐突に幸が、私の思っていた事と同じ事を口にする。
「あ、言われてみればそうだね。アタシ、さっきの子が今回のラスボスだと思ってたよ」
美咲が話にのっかる。ってか『ラスボス』って何だよ?これだからゲーム脳ってやつは……
「私は直接会ってないから何とも言えねッスけど、さらに別の異世界から来たとかじゃねッスか?」
ノゾミちゃんまで会話に入っていく。
「ちょっと待ってくれないかキミ達!?別の何者かがこの世界に来ているのかい!?どうしてもっと早く教えてくれなかったんだい?」
って、コイツまで勝手に始めた会話に加わったら、誰が中二病さんの話聞いて……
……めっちゃ私の事見てんじゃんコイツ!!
アレか?まともに話聞いてくれるの私しかいないって判断したのか?
いや、でも、お前が探してるの私だろ?人間災害に向かって「人間災害どこにいますか?」とか聞いちゃうのって凄い滑稽だよ。
「さあ!隠すとためにならないよ。知っている事を全て私に教えてくれないかい?」
他三人と一匹に無視されてて、若干ムカついてるっぽい雰囲気出てるけど、目線は完全に私しか見てないな……あ~あ、私もソッチの会話に加わっとけばよかった……
「あ~……知らない知らないそんな奴。知らないからもう帰ってくんね?」
どうせ私は、戦っちゃダメとか言われて関われないんだから、正直どうでもいい。そんなわけで、適当にあしらっておく事にする。
「ふざけているのかな?……サーチ魔法を使えないのかい?キミ程度の魔力では私には勝てないよ……もう一度聞く。知っている事を教えてくれないかい?」
魔力?確かにコイツの魔力は、幸や美咲に比べてもそこそこ強い。
……でもその程度だ。
「だから知らねぇっての……はやく帰れよ」
私がそう言った直後だった。私はエフィの魔力による衝撃波を食らい、窓を突き破って外まで吹っ飛ばされた。
「くっそいてぇな……」
衝撃波は私の自動防壁を抜いて、私の身体にダメージを与えてきた。
ってかコレ左腕折れてね?
ちきしょう……いてぇ、超いてぇ……
もうアレだ……
コイツ……
殺してもいいよな?
「逃げろ!!マジでやばい!すぐに逃げろ!」
私が突き破ってきた窓の内側では、美咲が必死に叫んでいた。
「そうだね。代わりにキミ達が私の質問に答えてくれるのだったら、外にいる彼女は見逃してあげてもかまわないよ」
それに対してエフィの、この見当はずれな返答……随分とおめでたい奴だな。
私は無言で、突き破ってきた窓枠へと飛行魔法で移動する。
私のマジギレしている表情を見た美咲は、何も言わずに変身すると、魔力で脚力を強化して、全力でノゾミちゃんの部屋から逃げ出していき、幸は部屋の隅で頭を抱えてうずくまり、魔力全振りで防壁魔法を展開しだす。
「おや?戻ってきたのかい?素直に私の質問に答えてくれるとは思えない表情だけど、キミと私の実力差は実感できたろう?無駄な抵抗はやめる事を推奨するよ」
コイツ馬鹿か?
美咲と幸の行動を見て、状況を察する事ができなかったのか?
「落ち着くんだユミ!!キミが戦っても誰も幸せにはならない!冷静になってくれ!!」
「そうッス!!マジで一旦話し合いしましょう!!お願いッスから私の家壊さないでほしいッス!!」
浮遊狐とノゾミちゃんが叫ぶが、私は無視して変身する。
「……は?」
その瞬間、エフィの不敵な笑みが消え、みるみると顔が青くなっていく。
「え?……いや……嘘でしょ?こんなの……人間が持てる魔力じゃなくない?」
私の魔力が想像以上だったのか、先程までの演技がかった口調がなくなっている。
「なぁ?私の左腕折れたっぽいんだよ。すげぇ痛いんだけど、どうしてくれんだコレ?」
一歩も動く事なく、ただ殺気を込めて睨みつける。
「ちがっ……!?……いや、それは……状況的に……」
「聞こえねぇよ……ハッキリ喋れ。死ぬか?」
「ああああああぁぁぁぁ~~~!!!」
私の一言で、何か吹っ切れたのか、叫びながら魔力を高める。
先程私に使ってきた衝撃波を含め、色々な攻撃魔法を私にぶつけてくる。
たぶん、何かしら効果的な魔法が一つくらいはあるだろうと考えての魔法乱射なんだろうが、生憎私には反魔法の防御がある。
私に触れた魔法は全て消え失せる。
「ちょっと待ってよ……ナニコレ?……ありえないって……こんな……」
肩で息をしながら、半泣き状態でブツブツ言いだす。
私は黙って歩を進め、エフィへと近づく。
「待って!待ってよ!!ごめん!謝る!謝るから!!お願いだから許して!!そうだ!帰る!!私言われた通り元の世界帰るから……あぐっ!!?」
喋ってる途中で、エフィの頭を手で掴み、そのまま転移魔法を使う。
転移後、そのまま飛行魔法を使用し、絶景を眺めつつ宙に浮いた状態で静止する。
「私に何かされると思って防壁張っててよかったな……防壁なかったら気圧の関係で体液とかが沸騰して、全身の水分が蒸発して死ぬとこだったぞ」
「……どこ?ここ?」
「成層圏……知ってるか?」
「せい……そ?」
やっぱ知らないか……
「簡単に言うと、ここは地上からだいたい40㎞くらいの位置か?下は赤道付近の太平洋上……まぁ海の上だな」
それだけ説明すると、掴んでいるエフィの頭から反魔法の魔力少量を流し込む。
「……え?何……コレ?魔法が上手く制御できない……?」
大量に魔力を流し込んで、コイツの魔力を一時的に封印する事もできたのだけれど、そうすると防壁も消えて即死してしまうため、軽く魔力の回線を残しておく。
「面白ぇ魔法だろ?防壁維持するので精一杯になったろ?……つまり私が手を放したら、防壁張ったまま飛行魔法が使えないお前は、時速1000㎞を越えて落下していくってわけだ」
エフィの顔が青ざめていく。
「気を失ったら死ぬから気を付けろよ。それと落ちてる最中に気温が-50℃以下まで下がる個所もあるから、この辺でも上手く魔力を制御しないと死ぬぞ。あと、水面に叩きつけられる瞬間だけど、その防壁だけだと耐えられないだろうから、それまでに私の反魔法解呪しないと死ぬからな。まぁ落ち始めてから10分くらいの猶予があるから何とかなるだろ?」
私の話を聞きながら、エフィの顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃになっていた。
最初に登場してきた時のすまし顔が、今はもう見る影もない。
「や……やだ……えぐッ!……し、死にたくないよぉ……お願いします……ゆ……ヒッく!ゆるしてください……無理……私には……ヒぐッ!……私には耐えられないです……!」
嗚咽しながら、必死に懇願してくる。
まぁ、中二病こじらせただけの奴のメンタルなんてこんなもんだよな。
そんなエフィに、私は優しく微笑みかける。
「……死ね」
私は躊躇なくエフィの頭から手を放す。
あっという間に米粒大の大きさになる勢いで落ちていく。
エフィが最後に見せた、私が手を放した瞬間の、全ての思考が止まったかのように、大きく目を見開いた絶望に打ちひしがれる表情……あの顔だけで御飯どんぶり一杯はいけるな。
あ~……スッキリした。




