エピローグ
「おめでとう。はれてキミは自由の身だよ」
ノゾミちゃんが魔王軍討伐をやめてから数か月がたったある日の事だった。
暑い時期から寒い時期へと移り変わり、そういえば新しい魔法少女が中々現れないなぁ~とか思っていた矢先の出来事だった。
ある日の下校中、突然やってきた浮遊狐に、わけのわからない一言を言われたのだ。
「相変わらず頭のなか不自由だな。何が言いたいのかさっぱり意味不明だよ。人間様にも通じる言葉を使ってくれ獣」
「キミこそ相変わらず口が悪いね。でも、そんなキミとももうお別れだ」
それはまたありがたい事だ。
でもどうしたんだ急に?
「この前本国に呼び出されキミについての報告をしてきたんだよ。長い議論の末、キミの扱いが決定した」
本国?コイツの出身世界の事か?
しばらく見ないと思ったら里帰りしてたのかよ。
「本国は、キミをどうこうする戦力は全異世界含めて存在しないという結論を出した。結果、キミは災害認定を受けた」
つまりどういう事だよ?
「おめでとう、キミは全世界初の『人間災害』となったんだ。キミが破壊工作をしてもそれは自然災害と同等に扱われ、キミがどれだけ悪さをしても軍は出動しない。軍が動くのは、キミが暴れた後の復興処理でだけだ」
「何を報告したら私の扱いそうなるんだよ!!?」
コイツの世界のお偉いさんも、コイツの言う事鵜呑みにしねぇで現地視察くらいしろよ!?
私がどんだけ善人かわかってねぇな。
「自分を客観視できないのも相変わらずのようだね。とにかく、もう僕はこの世界から去る事になったから最後にキミに報告をしに来たのさ」
まぁこれ以上魔法少女が量産されないのは実に喜ばしい事なんだけど……
何か釈然としないなぁ。
「それじゃあ僕はもう行くよ。サチやミサキにもよろしく伝えてくれるとありがたいな」
そう一言だけつぶやくと、私の返事を待たずに上空へと飛び立ち、そのまま姿を消す。
何ともあっさりとした最後だな。
まぁあんな浮遊狐はどうでもいいか。
私はやる事があったのを思い出した。
今日、何故か幸と美咲がヴィグルに呼び出されていた。
美咲はファミレスバイトをやめて、幸と一緒に時々ヴィグルの手伝いをバイト感覚でやっていたので、それ関連かと思っていたのだが、呼び出された場所がノゾミちゃんちの食堂だったので、これはいつもとは違うなと直感して、冷やかしに行こうかと考えていたのだ。
ちなみに、ノゾミちゃん事件の後、ヴィグルは改めて謝罪に向かっていた。
三年間不便をかけた、という事で、三年分の慰謝料を持って訪れたものの「結果的には何もない状態に戻ったのでその気遣いはいらない」という事で、言葉での謝罪のみで許してもらえていた。
いや……「誠意をもっと見せろ」と言ってヴィグルの頭を地面にめり込むまで踏みつけた私のおかげかもしれないな。
まぁそんなこんなで、大勢での打ち合わせをする時や、ちょっとした打ち上げ等を行う際はノゾミちゃんちを利用する事が多くなっていた。
もちろん無料じゃないよ。
ちゃんと貸し切り料金払ってるよ……魔王軍が。
そんなわけで、あわよくばただ飯にありつこうかと考えつつ、ノゾミちゃんちに向かっていた。
「お前等ぁ何を私を差し置いて悪だくみしてんだぁ~」
『本日貸し切り中』の立て看板を無視して、高塩飯店の中へと入っていく。
ノゾミちゃんの両親に正体はバラしてないので、店に入る前に、店の路地裏で人がいないのを確認して変身した状態での入店である。
「裕美ぃ~~……いいところに来たぁ~……助けてくれよぉ~」
いきなり、半泣き状態の美咲に助けを求められる。
何だ?どういう状況だコレ?
「美咲さん。こういうのはキチンと自分で書かないとダメですよ。裕美様だって三年前から書いてるんですから」
幸が美咲に言い聞かせるようになだめている。
書いてる?何を?
よく見ると、幸と美咲、オマケにポチとサクラが座るテーブルの上には何やら書類が置かれている。
何だ?私が毎年書くような書類なんてあったっけ?
こういう書類関係は全部ヴィグルにふってたからさっぱりわからん……
「年末調整らしいッスよ。一応魔王軍に就職してる扱いにはなってるらしいんで、収支が発生してるんで、ヴィグルさんの説明で皆書かされてるみたいッスよ?」
「年末調整?何そんな一般企業の社員みたいな事やらされてるんだコイツ等」
ノゾミちゃんが丁寧に教えてくれたので、私は助けを求めてきた美咲を笑い飛ばしながら答える。
「会社ですよ。魔王軍は法人登録されてますから。きちんと法人税も収めてますよ。一応は警備保障会社扱いになってますよ。全世界的に展開もしてますから」
ヴィグルが驚愕の事実を口にする。
マジで?初耳なんだけど?
「一方的に税金である防衛費だけを頂いているわけにはいきませんからね。きちんと法人税として還元していますよ」
いや、だからマジで初耳なんだけど。
「収入があるのに税金を納めていないのは魔王軍内でも裕美様くらいですよ」
またしても驚愕の事実。
「は?って事は裕美……コレ書いた事ねぇのかよ?」
コレってのは年末調整の書類か?
ねぇよ!悪いか!
「魔王という立場上、世界最高の権力を持ってますからね。理不尽な行いに対しても、誰も咎める人がいないのですよ。逆らったら即、死が待ってますから」
いや……何もそこまでは……
「裕美様……前に年収1000万超えてるとか言ってましたけど……所得税も住民税も収めてなかったんですか?」
幸の視線が痛い……
「問題なかろう?それは裕美殿が自らの力で勝ち取った権力なのだ。どう利用しようとそれは持っている者の自由だ」
「あ~……こんなヤツが権力握ってたんだもんね、私の世界……そりゃ治安も悪くなるわね……」
ポチの擁護とサクラのため息が続く。
「裕美さんって魔王ッスけど、いちおう人間なんスよね?魔族の方が裕美さんより人間らしいってヤバくねぇッスか?」
ノゾミちゃんから疑惑の声があがる。
ああ……ヤベぇよ。ノゾミちゃんの、私に対する扱いが『いちおう人間』っていう括りなのが。
もうね……何で私この場所に来ちゃったんだろう?
藪蛇ってのはこういう事を言うのか?
「脱税王だ!脱税王がいるぞ!!」
美咲が馬鹿な事を叫びだす。
「美咲さん!裕美さんは魔王なんで、正確には脱税魔王ッスよ!」
ノゾミちゃんの余計なアドバイス。
「『魔王』『脱税王』『魔法少女』『薬物中毒者』……裕美様、いくつ二つ名持ってるんですか?」
ちょっと待て幸!?最後の一個は初めて聞いたんだが!?
アレか?魔王ファンクラブの連中から変な入れ知恵されたか!?
ちくしょう!やっぱアイツ等嫌いだ!
「もういっそ『脱税魔王中毒少女・裕美』って感じで売り出していけばいいんじゃない?」
サクラが話に絡んでくる。
どこに売り出す気だよ!?お前は年末調整書いてろよ!
「いや、裕美殿は誰よりも強大な存在なので、頭に『最強』の文字も入れるべきだろう」
ポチから余計なフォローが入る。
『最強脱税魔王中毒少女・裕美』……って悪化してんじゃねぇかよ!!?
それにしても……
この連中との騒がしい毎日ってのも悪くないな、って思う自分がいる。
浮遊狐の話を信じるとしたら、もう新しい魔法少女が現れる事はない。
コイツ等を脅かすようなヤツはもう現れたりしない。
……いや、あくまでも私が例外ってだけで、こいつ等も全異世界レベルでみたら結構レベル高い方だろうから、そうそう危険な目には合わないだろうけどな。
ちょっと退屈な毎日にはなりそうだけど、こいつ等がいればそんな事も気にならないくらい楽しめそうだな……
「おい裕美!聞いてなかったのか?」
美咲からの抗議で考え事を中断し、現実へと戻る。
コイツ……せっかくマジメな事考えてたのに邪魔しやがって……
「とりあえず、裕美の二つ名は『脱税魔王少女』って事でいいか?」
んな事を確認するためだけに、そんなでけぇ声で私呼んでたのかよ!?
「……『脱税』って部分は取ってくれ」
そう、これは私の物語……
魔王少女の物語である。




