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魔王少女  作者: mizuyuri
第二部
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第二十五話 酒は飲んでも飲まれるな

「希美……?希美……?どこに行ったの?何がどうなってるの?」


 ノゾミちゃんの両親の悲痛な叫びが、食堂の厨房の響く。

 不幸中の幸いともいうべきか、既に店じまいした後なので、余計な一般客がいなかった事だろうか?


 というか、私自体絶賛混乱中である。


 再生魔法を使えるようになり、変身した状態のまま部屋を飛び出したノゾミちゃんを追いかけて、同じように変身した状態で、少し離れた位置から、再生魔法を使うノゾミちゃんを眺めていた。


 私がやった通りに再生魔法を使用したノゾミちゃん。

 そこまではよかった。

 しかしその後、ノゾミちゃんの体は光の粒となり、この世から完全に消え失せたのだ。


 何でだ?

 再生魔法を使った副作用?

 見てた感じ、ノゾミちゃんは完全に私が使った再生魔法をコピー出来てた。

 つまり、副作用が出るなら私にも出るハズだ。


 逆に、再生魔法を受けて、部位を再生させた拒絶反応か何かが遅延して出た?

 いや、同じように再生魔法を受けたノゾミちゃんの親父さんは、何も異常はない。

 もうノゾミちゃんの腕が再生してから消えてしまった時間以上の時が流れている。


 私と親父さんは大丈夫で、ノゾミちゃんがダメだった原因は……?


 私は色々と考えつつ歩を進め、ノゾミちゃんが消えた位置へと移動する。

 そこには最初から何もなかったかのように、ノゾミちゃんがいた痕跡は完全に消え失せていた。


「あ……あの?アナタは……?」


 私の存在に気付いたノゾミちゃんの母親が声をかけてくる。

 悪いけど、今相手してやれるほど精神的余裕は私にはない……


 私はノゾミちゃんが消えた地点の床に、回復魔法を……蘇生魔法を……おまけに再生魔法も使ってみる。

 予想はしていたが、何も反応もなかった。


 もしかして転移魔法でどこかに飛んだ?

 確率は0%に限りなく近いが、サーチ魔法を使ってみる……

 うん、まぁそうだよな。どこにもノゾミちゃんの魔力の反応はねぇな。


「あの……魔王……様ですよね?前にテレビで拝見しました。……それで希美は……ウチの娘はどこに?そもそも魔王様は希美に何かを……」


 「何かをしやがったのか?」と続けたいんだろうけど、そこはあえて口に出さずにそっと飲み込んでいるようだった。

 にしても、テレビの効果ってすげぇな。

 この状況で「魔王です」って自己紹介する手間が省けるのはありがたい。

 魔王だって知られてなきゃただの不審者だしな。

 そこから含めていちいち説明するのは限りなく面倒臭い。


「懇願されて、魔力の扱い方と再生魔法の使い方を教えました……」


 少し脚色して簡単に伝える。

 こうやって言っとけば、ノゾミちゃんが魔法少女やってて結構危険な行為してたって事が両親にバレずに済むだろう……


「再生……だからこの腕……」


 親父さんは自分の左腕を見つつつぶやく。


「ただ私は判断を少し誤ったみたいです。こんな訳の分からない状況になるなら、ノゾミちゃんに教えるんじゃなくて、私が直接その腕に使うべきでした」


「魔王様でも……希美がどうなったのか……わからないんですか?」


 私は黙って首を縦にふる。

 いや『どうなったのか』はわかってる。

 ノゾミちゃんはこの世から完全に消えてしまっているのだ。

 私がわからないのは『どうしてなのか』だ。

 まぁこの状況で両親に真実を告げるほど空気読めなくはないので、ノゾミちゃんの両親の問いは肯定してはおいたけれど……


「色々と調べてみます……もしかしたら何度かこの場所を訪れるかもしれませんが構いませんか?」


「え、あ……はい。希美をよろしくお願いします」


 とりあえずこの家への入室許可を取っておく。


「あ、私は転移魔法があるんで、扉の鍵とかは気にしないでください。むしろ施錠はしっかりしておいてください」


 いちおう防犯面でも気を配っておく。


 とりあえず言うべき事は言ったので、転移魔法で移動する。

 移動場所はヴィグルがいる場所。

 『魔力関係で困った事があったら、とりあえずヴィグルに聞け!』をモットーに基本、魔王として活動しているので、もう完全にヴィグル頼みだ。

 さっきカッコつけて「色々調べてみます……」とか言った手前ちょっと恥ずかしいのだけど、正直もうわからなすぎてお手上げ状態だ。


「なっ!?何よアンタ!?いきなりどっから出てきたのよ!?」


 移動先でいきなりサクラからの罵声を浴びる。


 転移した先は、料亭?いや、ちょっと高目な居酒屋かな?とにかくそういった場所の個室だった。

 6名用っぽいテーブルを囲むヴィグルとポチとサクラ。


「……どういう状況だコレ?」


 率直な疑問を口にする。


「サクラさんの歓迎会ですよ。仕事をして頂いているのは昨日からなのですが、昨日は色々とゴタゴタしていたので、本日行っている次第です」


 ああ……昨日は幸が殺されたり、ノゾミちゃんとポチが戦ったりと色々だったしな。


「して?裕美殿がわざわざ訪ねて来る、という事は急ぎの要件があるのであろう?平時なら問答無用で呼び出すだけであろう?」


 ポチからのフォローが入る。

 空のグラスが結構あるのを見ると、相当飲んでるだろうに冷静な判断力だな。


「簡単に言うと、ノゾミちゃんが再生魔法使ったら消えた。何でかわかるか?」


「わかるか!!?簡単に言いすぎてて何が何だかわからないわよ!?」


 サクラからツッコミが入る。

 ごもっともだな。ちょっと焦りすぎてたな。


 私はざっくりと今日あった事を説明する。

 学校での事、ノゾミちゃんの家での事、ついでにヴィグルが昔おいたした事……


「つうわけだ……特にヴィグル、今回の件は半分以上オマエのせいで起きた事なんだから真剣に考えろよ」


「……はい、確かに覚えてます。今だからこそ心の底から本当に申し訳ない事をしたと思います。あの時の少女が、あの魔法少女ですか……」


 ヴィグルは本当にすまなさそうな表情をしている。

 まぁあの当時からだいぶ考え方が変わってきてる感じだしな。


「とりあえず、その再生魔法というのがどういった術式なのかを見てみない事には何とも判断ができないですね」


「ヤガミ、ちょっと腕だしなさいよ」


 ヴィグルの言葉を聞いて、間髪入れずにサクラがポチに命令する。

 不満そうな表情をしつつもポチはサクラの言う通り、私の方に自分の右腕を差し出す。


「えっと、まずこうやって……」

「うらあぁぁぁぁ!死ねぇぇ!!」


 ポチの腕をつかって説明しようとしたところ、脇からサクラの妨害が入る。

 サクラは完全な不意打ちで、風魔法を纏った手刀で、ポチの右腕を切断する。


「ッ!!?……小娘め!?」


「実際に無い方が実演しやすいでしょ?さ、思う存分使っていいわよ」


 完全に私怨が混じってるだろ、この行為。めっちゃ本音が漏れてたし。

 まぁ実演しやすくなったのは事実だけど……


 とりあえず私は、今にもキレだしそうな表情をしたポチに再生魔法を使用する。

 すぐに、何もなかったかのように元通りになるポチの右腕。


「…………ちょっとアンタ、コレって……」


「……まぁ裕美様の事ですからね……9割方そうじゃないかと思っていましたが……」


 何やらサクラとヴィグルで話が進みだす。


「コレ、完全に魔力消費過多じゃないの?常人が使用できる魔法じゃないわよ……」


 は?常人が使用できないって、ノゾミちゃんは普通に使って……


「そうですねぇ……我々常人が持つ魔力量を100としましょう。我々が扱える大魔法と言われるようなものでも、精々が10程度魔力を消費する程度です」


 突然ヴィグルの講座が始まる。


「裕美様の魔力量は、計測してはいませんが、常人の100倍以上ある事は確かです。例に挙げるなら、裕美様が普段乱発している転移魔法ですら100くらいは魔力消費します。常人が使えば一発で魔力切れおこして動けなくなってしまいます」


 若干慣れてきてはいるけど、人の事を化物みたいに言うのやめてほしいな。


「蘇生魔法を裕美様しか使用できないのは、魔力消費量が500くらいだからです。裕美様のマネして使ってみたいと思っても、使うための練習をした時点で魔力切れになります」


 そういう魔法がある、ってのを認識してても、習得する事はできないって事かな?


「つまるところ、限界を迎えると体がブレーキをかけるものなんです。まぁそれでも限界を超えて使用する事はできますが、その場合は何かしら体に障害が残ったりします」


 つまりノゾミちゃんの場合、練習なしで術式がわかっちゃうせいで……


「もうある程度察しはついてると思いますが、先程の再生魔法は蘇生魔法の倍程度の魔力消費量でした……100㎞出すと壊れるので100㎞近くなったら勝手にブレーキが作動する車で、初速で1000㎞出したらどうなると思いますか?」


 体がブレーキかける事すらできずに……


「私達の世界でも『魔法を使ったせいで消えた』なんて例は聞いたことないけど『自分の魔力総量の10倍以上の魔力消費する魔法を使った』って例も無いから何とも言えないけれど、たぶん……」


「魔力総量を1でもオーバーすると後遺症が残るレベルですからね……断言はできませんが、おそらくは体が魔力消費の負荷に耐えられなくなって、魔力消費の代償として何も残る事なく崩れ落ちた……と考えるのが妥当でしょうね」


 それじゃあ……やっぱノゾミちゃんに再生魔法使わせたのは私の判断ミスじゃねぇかよ……


 回復魔法も蘇生魔法も再生魔法も効果ないのは既に実証済みだ。

 どうやってノゾミちゃんを救えばいいんだよ?


 諦めるのか?

 じゃあノゾミちゃんの両親は……


「あまり悲観するのもよくないぞ裕美殿。裕美殿ほどの魔力量があれば、神の領域に手が届くレベルの奇跡的な魔法でも使用可能だろう。この酔っ払い二人も素面になれば、多少はあの魔法少女救出の案も出せるだろうよ」


 ポチからの慰めが入る。

 そんな切羽詰まった顔してたのか私?


 ってちょっと待てよ?


「酔っ払い二人?飲んでたのこいつ等かよ!?ポチは?」


「我が飲んでいたのはノンアルコールだ。この量の酒を飲んだのは6割サクラで4割ヴィグル殿だ」


 注文履歴を見せながらポチが答える。


 何だコレ?何リットル飲んでんだよコイツ等?


 ってかサクラ未成年……異世界人ならいいのか?


 それよりなによりも、こいつら三人もっとキャライメージってもんを大事にしろよ!?


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