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魔王少女  作者: mizuyuri
第二部
61/252

番外編2 ~15人目の魔法少女~

 私は魔族が大嫌いッス。

 「昔に比べて魔族は皆まるくなった」って言う人が大勢いるんスけど、本性を知っている身としては、その意見に納得する事はとうていできない。


 魔族は父さんの腕を切り落とした……

 あの日の事は今でも忘れる事はできない。


 それは3年前の秋の休日だった。

 私は中学から始めたソフトボール部の練習に行っていた。

 別に才能があったわけでもなかったッスけど、3年生が引退して、初めてレギュラーに入れた喜びから必死になって練習してた。

 その日も、午前中だけの練習だったんスけど、残って自主練してたせいで家に帰ったのは14時前だった。


 そこで私が見たのは、血だまりの中で左腕を押さえてうずくまる父さんと、泣きながら「もう許してください」と土下座して謝る母さんの姿だった。

 それでも魔族は馬鹿にするような笑みを浮かべて「じゃあ飯代ただでいいよな?1分以上俺の貴重な時間無駄にしたもんな?」と吐き捨てていた。


 店先で行われていたこの行為が理解できなかったッス。

 後から聞いた話っスけど、食い逃げをしようとしていた魔族に父さんが「お金を払ってほしい」とお願いしたところ、問答無用で腕を切り落としたらしい。


「嫌だってんなら、このオッサンの腕をもう一本切り落としてもいいんだぞ」


 薄ら笑いをしながら、うずくまる父さんの背中に足を乗せて吐き捨てる言葉の意味が理解できないほどに私は混乱していた。

 ただ涙があふれてきて……ただ立ち尽くして……


 遠巻きに見ている人は大勢いたんスけど、誰一人として父さんと母さんを助けてくれる人はいなかった。


 私は何も考える事なく、泣きながら飛び出して、持っていたバットで魔族を殴りつけた。


「あ?」


 そのたった一言だった。

 魔族は私が持っていたバットを掴むと、握力だけでへし折った。

 無言で睨まれただけだったんスけれど、それだけで死を覚悟した。


 腰を抜かした私をかばうようにして母さんが抱き着いてきた。

 そして、その上から覆いかぶさるようにして、失血で青い顔をした父さんが、私と母さんを抱きしめてきた。

 この時私は、自分がとった行動のせいで二人に迷惑をかけた事に気が付いた。

 私を助けるために、痛みで動くことすらままならない父さんにキツイ思いをさせてしまった。

 私は我慢できずに嗚咽した。


「死ね……」


 無慈悲な魔族の声が聞こえた。


 その直後だった。


「おうおう、随分と威勢がいいな兄ちゃん……私とちょっとアッチで良い事しねぇ?」


 女の子の声が聞こえた。


「なッ!!?ま……まおッ……」


 魔族の、何やら驚いた声が途中で途切れたと思った直後、野次馬のザワついた声以外の音が消えた。

 抱き着いている二人に隠されてたせいで、何が起きたのかはよくわからなかったッスけど、助かったって事だけは理解できた。


 それから数時間後……

 病院で治療を受け、入院が決まった父さんの病室に、先程の魔族ともう一人別の付き添いの魔族がやってきた。

 ただ、先程の魔族に数時間前までの覇気はまったくなく、一見すると本当にさっきの魔族だったのかわからないほどだった。

 しかも、両手の指の骨は全部折れており、鼻の骨も折れているようだった。片目が潰されており、歯は全てへし折られており、まだ血が止まっておらず口元から血を垂らしていた。

 私がバットで全力で殴ってもなんともなかった魔族がここまでボロボロになっていた。

 いったい何があったのか想像できなかった。


 そんな魔族が膝をつき、頭を床にこすりつけ「申し訳ありませんでした。もう二度とこのような事は致しません」とかすれた声で言った。

 歯が無いせいか、いまいち何を言っているかわかりにくかった心象が残っている。


 両腕が垂れ下がったままだったので、たぶん肩の関節も外されているのだろう。


 ただ、そんな魔族を見て、私はだんだんと腹が立ってきた。


「謝るくらいなら最初っからこんな事しなきゃよかったじゃないッスか!?そんな事されたって父さんの腕は治らないんスよ!」


「では治療はしておきましょう」


 私の叫びに合わせて、付き添いの魔族が父さんの腕に何やら魔法をかけているようだった。


「これで傷口はほぼふさがりましたよ。まだ何か不満がありますか?」


「傷口は……って、魔法が使えるんなら父さんの腕を元通りにできねぇんスか!?」


「そんな事ができるのは魔王の蘇生魔法くらいですよ……ああでも、我々はその魔王の命令で、人間に手出しできないんですよ。ですから、魔王に蘇生魔法を使ってほしかったら、アナタが御父上を直接殺してあげてくださいね」


「なっ……!?ふざけてるんスか!?馬鹿にするのも大概にしてほしいッス!そもそも謝りに来たんスか?挑発しに来たんスか?」


 両親の「もういいから」という静止も聞かずに私は魔族に突っかかっていた。


「私としましては、謝る気などありませんよ。魔力も扱えない劣等種に頭など下げたくもありませんが、魔王の命令なのでね。わざわざ謝りに来てやっているんですよ。感謝してくださいね」


 私はそこで怒りが限界に達して、何かを叫んだ事は覚えてはいるんスけれど、何を言ったかまでは思い出せない。

 ただ両親に止められ、諭された気がするッス。


 それから私は魔族を恨み続けた。

 しかし魔族との力の差が私に行動を躊躇させていた。

 ただ恨み続けて恨み続けて……

 3年がたち、初めてその思いが報われた。


 私の前に現れた狐のような生物。


 狐さんは私に魔族と戦う力を与えてくれた。


 ただ最初の戦闘は散々だった。


 隣町で見かけるようになった、羽の生えた魔族の女。

 魔族のくせに普通に学校に通って人間のように生活するその羽女が許せなかった。


 私は、魔法少女に変身できるようになって即、羽女に戦いを挑み、そして負けた。


 ただ、その戦いで、ある事に気が付いた。

 敵からくらった魔法が、どういった魔法なのか理解する事ができた。

 もちろん、どうやって使用できるのかもだ。


 そんな私を見てか、狐さんは


「ノゾミは僕がいなくても惑わされる事もなく魔族と戦う事ができそうだね。僕は所用で僕の世界に戻らないといけないんだ……僕がいなくてもがんばって魔王を倒してほしい」


 と言って、私の元からいなくなった。

 まぁそんな事言われなくても、私は戦い続けるつもりだったッスけど……


 それからは、色々な魔族や名誉魔族と戦う事で、色々な強力な魔法を手に入れていった。

 手ごたえはあった。

 自分でもどんどん強くなっている自覚があった。


 たぶんそのせいだろう……

 慢心があったんス……

 名誉魔族との戦闘中に、伏兵に気が付かずに、右手首を切断されてしまった。


 咄嗟に、切り落とされた手首を拾って家に逃げてきたものの、切断された右手はくっつく事はなかった。

 父さんだけじゃなく、私まで片手を無くしたなんて事が両親にバレたら、きっと悲しませてしまう。

 私は部活で大怪我をした、と両親に嘘をつき部屋に閉じこもった。

 ただ、そんな嘘をずっとつきとおす事はできないという事はわかっていた。


 いずれは両親を悲しませる結果になるだろう。

 だったら、せめて魔王を倒して魔族を全員この世から追い払ってから、全てを両親に打ち明けよう。

 ただ無意味に片手を失ったのではなくて、この世界を平和にするために戦った名誉の負傷なのだという事にして、少しでも悲しみの感情を押さえられるようにしよう……そう考えて行動にうつした。


 誤算があったとしたら、それは、もう少しで勝てると思っていた魔王が偽物だった事。

 そして本物の魔王の強さが異常で、私の右腕がさらに削られてしまった事。


 命からがら逃げかえってきた私は、少しでもいいから、長く両親を騙せるように、右腕を偽装しようとした。

 上手くいかなかったッス……

 昔から不器用だった自分が情けなく感じ、涙が出てきた。

 それでも、両親の悲しむ顔を想像し、気持ちを奮い立たせ涙をぬぐった。


 そんな私の元に、突然魔王がやってきた。

 私にトドメをさしにきたのかと思い覚悟を決めたものの、意外な事に魔王は休戦を持ちかけてきた。

 父さんの腕を元通りにする魔法の提供を提示された……


 父さんの腕が治る?

 魔法でも治らなかったから、諦めていた……考えないようにしていた。


 無くなってしまった父さんの腕を見るたびに魔族への恨みを募らせてきた。

 たぶん、父さんの腕が治ったら私は戦う意思を今ほど維持できないだろう……


 迷って答えを出せずにいた私に、魔王は実験台として再生魔法を試してきた。


 言葉を失った。

 もう戻らないと思っていた私の腕が再生し始めたのだ。

 両親に悲しい顔をさせないですむ安堵感と、父さんの腕が元に戻る嬉しさが合わさり、居ても立っても居られずに、私はそのまま父さんの元に駆けだした。


 一度受けた魔法を使用できる私の特技がこれほどうれしいと思った事は初めてだった。


「父さん!父さん!!腕!腕出してほしいッス!!」


「え?の……希美……なの?その格好は……?」


 興奮して変身したままの格好で、店の厨房に飛び込んだせいで、母さんが混乱した声を出す。


「話はあとッス!いいから父さん!左腕出すッス!」


 状況を勢いで誤魔化すために、父さんに腕を出すように催促する。


 混乱しながらも、父さんは私の方に、切断された左腕を差し出す。

 私はすぐに、魔王がやったのと同じ動作で魔法を発動させる。


「な……!?腕が……元に!?」


 二人とも驚きの声を出す。

 驚きの表情の中に、嬉しさの感情が混ざっているのがよくわかった。

 それを見て私も嬉しくなって、ちょっと誇らしくなって、少し涙が出た。


「……希美?」


 あれ?体に……力が入らない……?


「希美!?どうしたの?体が…………」


 父さんと母さんが心配そうな表情を向けてくる。

 何で?せっかく父さんの腕が戻ったんスから、もっと嬉しそうな顔をしてほしいッス……

 って……あれ?母さんの声が途中から聞こえなくなったッス……


 ……おかしいな…………何も見えなく…なって…………

 私……どうなって……?

 体……何も……感じ……な…………



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