第二十四話 魔王様の新魔法作成講座
「魔族にとって人間をどうこうする事なんて何でもない事なんスよ。父さんにあんな事しておいて、数日後には普通に食事しに来やがるし、この前なんて『オヤジさん片手で調理するのすげぇな』とか皮肉言いに来やがったんスよ!?馬鹿にするのも大概にしてほしいッス!」
堰を切ったように、魔族に対する愚痴が止まらないノゾミちゃん。
でもさぁ……
普通に食事しに来るのはいいんじゃね?
たぶん食いに来てるの犯人とは別のヤツだろうし。
あと『片手で料理すげぇ』は皮肉でも何でもなく、純粋に褒めてるだけなんじゃね?
そもそも、それ言われたの最近だろ?親父さん腕なくしたの3年前だろ?普通に考えて3年越しに皮肉言わねぇだろ?実際にやってたらどんだけの暇人だっての?
坊主憎けりゃ袈裟まで憎い状態になってるだろノゾミちゃん。
魔族が絡んだだけで、どんな行動でも憎く感じるって、もうソレ一種の病気じゃね?
「ノゾミちゃん、とりあえず落ち着けって。魔族を恨んでる理由はよくわかった」
まだ何か言いたそうな表情ではあるが、私の発言を聞いて恨み節が止まる。
「それで?どうすれば、その怒りを鎮める事ができる?」
「そんなの魔族全員がこの世から消えてくれればいいだけッスよ」
根が深いな……
「もうちょっと穏便に事を進めたいんだけどなぁ……例えば、3年前に親父さんの腕を切ったヤツとその上長の心からの謝罪とか?魔法で親父さんの腕を元に戻す事を条件に、色々と今までの事を水に流すとか?」
とりあえずパッと思いつく事を言ってみる。
「元に……戻せるんスか?魔法で?」
ん?ちょっとなびいてきてるか?
「保証はできないけどな。少なくとも既存の魔法じゃ無理だな」
回復魔法だと、切断された腕の傷口同士を合わせて使わないとつっくかない。
つまるところ、3年前に無くなった、切断された腕がなければ元には戻らない。
もちろんノゾミちゃん程度の回復魔法じゃ、切断された腕があっても無理だろう。最低でも「回復魔法が得意」とか言ってる美咲並みじゃないと話にならない。
蘇生魔法だと、当人が死んだわけじゃないから効果はないだろうし、そもそも『死ぬ前の体の万全状態』で復活させるのが蘇生魔法だから、腕の傷口が完全にふさがって、それが通常の状態になってる現状だと、一度殺して復活させても、腕が再生するとは限らないだろう。
ってかそんな方法は、たぶんノゾミちゃんが許してくれないだろうしな。
「やっぱ無理なんじゃねぇッスか……父さんの腕が治らないか、寝てる間にコッソリ変身して回復魔法をかけてみて失敗した経験があるんで、まぁそうなんじゃないかとは思ってはいたッスけど……」
もう既に試してたんかいっ!?
まぁそれはともかく……
「話は最後まで聞けって。無理なのはあくまでも既存の魔法ってだけで、無ければ新しく魔法編み出せばいいだけろ?幸いにも、魔法の実験体になる被検者はいるわけだしな」
私はノゾミちゃんの右腕を指差しながら説明する。
「新しい……?そんな簡単に魔法なんて作れるんスか?」
まぁ普通はそう思うよな。
「私を誰だと思ってんだ?本気になった魔王様舐めんなヨ」
超ドヤ顔で答えてみる。
いや……だからってそんな期待に満ちた表情で見ないでくれよ、失敗した時が怖ぇから。
「まぁとりあえず実験だな。ちょっと右腕の傷口見せてみな」
若干警戒しつつも、ノゾミちゃんは包帯を外し、私の方へと二の腕から先のない右腕を見せてくる。
私はそこに回復魔法を念入りに使用する。
「な……!?何のつもりッスか!?私を治してどうするんスか?」
「うっせ~な、実験だって言ったろ。……どうだ、これで完全に傷口ふさがって、腕が無い以外は、痛みもなくて万全な状態だろ?
「そ……そッスね……」
戸惑いながらも返事をするノゾミちゃん。
「んじゃあ、ちょっと我慢しろよ。痛みを感じないように即死させるようにはしてやるからな」
「……は?」
返事を待たずに、私は右手を魔力で強化し、さらに魔法でスピードをブーストさせたうえで、腕を振りぬいてノゾミちゃんの顔面を殴る。
視認する事すら不可能な、音速を軽く超えた私のコブシが当たった瞬間にノゾミちゃんの顔は爆ぜる。
たぶん死んだよな?
ってか顔面無くて生きてたら人間名乗らないでほしい感じだとは思うけどな。
「さて、これでどうなるか……」
私は即、蘇生魔法を使用する。
あと、ついでにノゾミちゃんの血痕や四散した肉片とかも魔法で浄化して片付けておく。
破壊された顔は、何事もなく再生されたものの、傷口がまったくない右腕はそのまま、二の腕から先は何もない状態だった。
「やっぱ蘇生魔法じゃダメか……」
まぁわかってはいたけど、もしかしたワンチャンいけるかとも思ったんだけどなぁ。
「……ん?あれ?私……気を失って……」
すぐに目を覚ますノゾミちゃん。
さすがは耐久力お化けのノゾミちゃん。復活も早ぇな。
「ちなみにノゾミちゃん。さっき私がやったみたいにして魔法使ってみてくんね?」
ちょっと気になったのでお願いしてみる。
「さっき?回復魔法使うんスか?すげぇ魔力消費デカそうッスけど……どっかケガしてるんスか?」
「……いや、やっぱ何でもないわ」
なるほど……やっぱ、実際に受けた魔法でも認識できないと使えないのね。
って事は蘇生魔法は、使われた認識なんてできないだろうから、絶対に使えないわけか……まぁ仮に使えても、一発でノゾミちゃんの全魔力消費しそうだけどな。
「さて、とりあえず蘇生魔法がダメって事は再認識できたんで、新魔法考えるとして、どういう術式組めばいいかな?」
「何か難しそうな感じッスね?その蘇生魔法と回復魔法を合わせたような感じじゃダメなんスか?」
「まぁベースになるのはそれでいいかもな……あとはどう術式に変更を加えるかだな……過去の身体情報を呼び出す?……いや、年数固定にすると応用がきかなくなるな……変動で肉体記憶依存の術式?ダメだな、それじゃあ魔力消費量が割りに合わない……」
ブツブツと呟きながら色々と考えを巡らせる。
ノゾミちゃんは完全に、どうしていいかわからずにソワソワしはじめている。
自分の部屋なんだから少し落ち着いてろよ……
「ノゾミちゃん、ちょい近く来て」
「……何スか?」
言う事を聞いて恐る恐る近づいて来る。
立ち上がらずにひざを使って……
何かコレはコレで何かムカつくな……まぁいいか。
「脳の記憶情報を利用して、切断箇所の情報補填させれば、予想よりも自前での魔力消費量を押さえられるかもな……」
左手をノゾミちゃんの頭に乗せて、右手の人差し指で腕の切断面をそっと触れる。
「まずは脳に切断面の情報を送って……脳が記憶してる本来の形状を呼び出させる……っと、そんでそれに合わせて細胞を活性化させる術式を加えて再生を促しつつ、急な肉体変化での痛みを無くすために微量な回復魔法も同時使用して……」
思いついてみた方法の手順を確認するように、ブツブツと声に出して実践してみる。
「ん?脳を介さなくても、切断面自体が本来の形状を記憶してるのか?途中で切断された神経が本来あるべき姿を求めてる感じか?じゃあ、この切断面から記憶している形状を呼び出すだけで、細胞活性化魔法と回復魔法の計三つの術式を同時展開すれば……」
「あ……えっと……私にもわかるように説明しながらやってくれてるのかわかんねぇッスけど、言ってる事チンプンカンプンなんで、むしろ黙ってやってくれてた方があいがたいんスけど……」
私の優しさを踏みにじりやがって……
まぁともかく、考え付いた魔法をそのまま魔力を込めて使用してみる。
「あ……ああ……」
ノゾミちゃんから歓喜の声が漏れる。
思った通り新魔法は無事発動して、ゆっくりだがノゾミちゃんの右腕を再生しはじめる。
「これ……これで……父さんの腕も……」
堪え切れずに涙を流しながらノゾミちゃんがつぶやく。
「この魔法で、父さんの腕を再生させる事ができるんスね……さっそく私、父さんのとこ行ってくるッス!」
ってお前が再生させに行くんかい!!?
何を手柄横取りしようとしてんだよ!?
いや、まぁそれは別にいいんだけど……せめて私にお礼くらい言ってくれてもいいんじゃないかな?
って言っても、親父さんの腕切ったの魔族だし、ノゾミちゃんの腕切ったのも私とポチだしで、責任はコッチにあるのか?
あれ?私がやった事って、もしかしてただのマッチポンプ?




