第二十話 魔法少女の適性
毎度の事ながら嫌な予感ってのはよく当たる。
これと同じくらい良い予感も当たってくれれば、人生もっと幸せに過ごせると思う。
しかしそう上手くはいかないのが人生であって、今まさに面倒臭い事になりつつある。
「この学校にいる事はわかってるんスよ!!いい加減出てくるッスよ魔王!!」
校庭で大声を上げているノゾミちゃん。
時刻は午前10時前。
私達がいるこの教室だけじゃなく、校内全体がザワついているのがわかる。
「いつまで隠れてるつもりッスか?出てこないなら、アンタの部下がやってたみたいに、出てくるまで一つずつ設備破壊していくッスよ!!」
色々と迷惑なやつだな……というか……
「幸……お前昨日これと同じ事やってきたのかよ?」
「えっと……あの……自分ではもっと穏便にやってたと思ってたんですけど……客観的に見たら私ってこんなだったんですね……」
一日遅れで、恥ずかしさで赤面する幸。
やり返されなければ、気付くことなく過ごせたのに、不憫なヤツだ。
「ねぇねぇ裕美さん、今井さん。あの子何なの?本当に魔王様この学校に来てるの?」
ミキちゃんが事の真相を聞きにやってくる。
本来ならまだ授業中なのだが、周りが騒ぎすぎているせいで、完全に休み時間状態になっている。
教師も最初は注意してはいたものの、魔族絡み……しかも魔王絡みの案件とわかってからは、どう対処すべきか判断できない状態になっていた。
「あの子は現在魔王軍にケンカ売ってきてる極悪人で、コイツを魔王だと思いこんでる可哀想な子でもあるんだよ」
前の席を蹴りながら、ミキちゃんの質問に答える。
「美咲を!?どう勘違いしたらそうなるの?魔王様がこんな頭悪いわけないじゃない」
美咲の頭をバンバン叩くミキちゃん。
「ミッキー……実はアタシの事嫌いだろ?」
いじける美咲。
いじけてる暇があるなら、指名入ってるんだから、とっととノゾミちゃんの相手してこいよ。
「ってかまだアイツ、アタシを魔王だと思ってんの?責任もってどうにかしろよ裕美」
何で私が美咲のために責任なんてとらなきゃならないんだよ。
でもまぁ、魔王としてノゾミちゃんに用事があるわけだから、出向く手間が省けたって考えればいいか……問題はこんなパンピーが大勢いる場で、また魔王として出て行かなくちゃならない事だな。
「しゃあない……ひとっ走り転移魔法使って、私が魔王呼んでくるから、その間は幸と美咲で足止めしとけ」
「まぁ、それくらいだったらいいけど……できるだけ早くしてくれよ」
「……昨日の今日で、ちょっとばつが悪いですけど了解しました」
私の指示に従う二人。
美咲はその場で変身する。
もう人前で変身する事に何の抵抗もなくなってるだろコイツ。
「ねぇ、美咲って名誉魔族なの?何で裕美さんや今井さんと違って変身するの?」
いまだに美咲の頭をバンバン叩き続けてるミキちゃんが疑問を投げかける。
まぁ魔法少女とか眷属とか魔法とか、その辺まったく知らないなら当然の疑問だわな。
「あ~と……えっと……これはねぇ……何というか異世界の狐……」
「美咲は、魔王軍が開発したマジックアイテム使ってるからだ!」
考え無しの馬鹿が余計な事喋る前に、適当な嘘を言っておく。
「これがあれば、一時的に名誉魔族と同等の強さになるんだよ。幸を見ればわかるだろうけど、名誉魔族って見た目変化するだろ?普通はこうなったら元の姿には戻れないんだけど、このアイテムでの変化は一時的な能力付与だから、元に戻れるんだよ。すげぇだろ」
馬鹿二人に余計な発言させないように、一気に説明する。
「え!?じゃあソレ使えば私も変身できるの?魔王様の役に立てたりする?」
どんだけ魔王に献身的なんだよミキちゃん……
「まぁ適性があれば変身はできるとは思うけど……幸!お前のやつ今は使わないだろ?ちょい貸せ」
私の命令に逆らえない幸は、嫌そうな顔をしつつも石を手渡してくる。
そりゃあ肌身離さず持ってた大事なモンだろうからしょうがないだろうけど……使わない方が強いんだからマジでいらなくね?
「というか裕美様。こんな事してていいんですか?ノゾミさんが既に色々壊しながら『魔王~!』って叫んでますけど?」
「ほっとけほっとけ。ああいう輩は相手にすると調子にのるから少し放置しとけ。もう少ししたら相手してやるんだし……死人が出なきゃ問題ないだろ」
最悪、死人が出ても蘇生魔法で何とかなるし。
「ほれミキちゃん。試してみな?石を握って、心の中で『変身したい!』って願ってみな」
ミキちゃんは、私から石を受け取ると、言われた通り石を握りしめ目を固くつぶる。
しかし数秒待っても何の反応もない。
「残念。ミキちゃんに適性はなかったみたいだな」
「そんなぁ~……美咲みたいに変身して魔王様の役に立ってあわよくば魔王様と親しくなれるかと思ったのにぃ~」
欲望丸出しだなオイ!
献身的だと思っちゃった私の気持ちは何だったんだよ。
「いや、待って!このアイテム実は壊れてるんじゃないの?美咲が使ってるヤツ使えばもしかしたらっ!」
「ほれっ幸。ちょっと使ってみろ」
ミキちゃんから石を受け取り、幸へと投げ渡す。
幸は受け取ると、久々に魔法少女の姿へと変身してみせる。
「な?適性あるとこうなるんだよ」
「何で私には才能がな……ん?アレ?もしかして前に名誉魔族のオジサンが来た時最初に戦って負けてた子?今井さんだったの?」
あ、うっかりしてたわ。
そういや変身後の幸の姿は皆見てるんだった。
「お願いです……あの時の事は私の黒歴史なんです……忘れてください」
変身を解きながらうな垂れる幸。
「ねぇ、ソレ適性があれば誰でも変身できるの?私も試してみていい?」
「あ!ズルい!私も私も!」
「あ、それじゃあ次は私もやらせて」
話を聞いていた連中が押し寄せてくる。
お前等どんだけ変身願望あるんだよ!?
「あ~わかったわかった。とりあえず試したいヤツは全員並べ!」
そんなこんなで結局クラス全員調べるハメになった……
いやぁ……にしても予想外だった。
ヨシミちゃんが、髪の色が黒から茶色に変わるという、一般人に毛が生えた程度の魔力を発揮できただけで、ほぼ全滅だった。
浮遊狐が、新しい魔法少女見つけてくるまでに結構時間かかるのもうなずけるわコレ……
「ねぇねぇ、裕美ちゃんもやってよ」
馬鹿かコイツ!?私がやったら魔王だってバレんだろが!!
「悪いなレイナ。私は変身ヒロインに憧れる時期はもう終わってるんだ」
ごめんなさい嘘です。そういうアニメとかめっちゃ好きです。むしろこじらせてるからこその現状です。
「っていうかさ、大間さんも名誉魔族なんでしょ?何で今井さんみたいに姿変わってないの?」
うっ……カナちゃん意外と痛いとこついてくるな。
「見せてないだけで変わってるんだよ。実は小さいシッポが生えてるんだよ……恥ずかしく見せられないけど!」
まぁ嘘なんだけど。
「……前に?」
「後ろだよ!!お前今何を想像した?」
「えっと……ナニを……」
ダメだコイツ……意外と私以上に下ネタ好きだったよ。
「あの……裕美様。盛り上がってるところ申し訳ないんですけど……」
突然幸が恐る恐る声をかけてくる。
「どした?」
「えっと……ノゾミさんが半泣きになってるんですけど……」
すっかり忘れてた!
私は急いで、窓から外を見てみる。
「何で出てきてくれねぇんスか……グスッ……お願いッス……出てきてくださいッス……」
もう壊せる物が無くなってしまい、グラウンドを爆破魔法でドンドンやりながら叫んでいる。
ってか最初に比べて、声に覇気が全然なくなってるな。
「私も一歩間違えたらああなってた、って考えるといたたまれなくて……お願いですから、そろそろ相手してあげてください」
幸は目をウルウルさせて軽くもらい泣きしている。
自分に照らし合わせて感情移入でもしてんのか?
仮にも自分を殺した相手だぞ?何一緒になって悲しい気分になってるんだよ!?
つうかノゾミちゃんは、魔王が出てきてくれなくて泣くくらいの覚悟だったら来んなよ!!
絶対考え無しの勢いだけで来ただろ?あだ名『美咲』にするぞ!
いや、実際はややこしくなるから呼ばないけど……




