第十七話 激昂のポチ
すっかり忘れていた……
幸は『これしか方法が無い』と思ったら、なりふりなど構わずに迷わず実行するって事を。
朝から嫌な予感はあった。
幸が学校を休んだのだ。
嫌な予感が確信に変わったのは、昼前にスマホで見たニュースサイトに載っていた『再度起こった名誉魔族の暴走』の見出し記事。
内容は、隣町の高校に突然現れて器物破損を行っていた名誉魔族を、後から来た名誉魔族が退治した、といった事が書かれていた。
そりゃあそうだよな。
放課後になったら、どこうろついてるかもわからないうえに、変身してないと魔力感知にも引っかからないヤツを無理に探さなくても、必ずそこにいるだろう時間と場所に乗り込んでいけば絶対に会えるのだから……
つまるところ幸は、今日中にケリを付けなければならないノゾミちゃんに、授業中に学校まで会いに行ったのだ。
ポチでも同じ事をしそうな気がするが、幸いにもポチは、幸と違ってノゾミちゃんの制服姿を見てないので学校を特定できなかったのだろう。
まぁポチが制服姿を見ていても、それがどこにある学校の制服なのかまで知識として持ってなさそうだけど……
まぁそれはともかくとして……
とどめは、ヴィグルからの『蘇生魔法要求』の連絡がきた昼休み。
私は学校を早退し、ヴィグルから指定されていた場所である、幸のアパートへと急いだ。
幸の部屋の玄関前には、目を赤く腫らして膝を抱えて座っているサクラがいた。
「何やってんだ?ヴィグルにでも追い出されたか?」
私が到着した事に気付いてなかったのか、驚いたような表情で私の顔を見上げる。
「部屋の中にはいたくないのよ……あんな状態の幸さんを見たくもないし、幸さんも見られたくないと思う……」
Tシャツの袖で目元をぬぐいながら喋る。
コイツまで今にも死にそうな声だ。
「そうか、理由はわかったからソコどけ。部屋に入るのに邪魔だ」
「あ……ご、ごめん」
サクラは座ったまま横にズレて、扉の前から離れる。
クソっ!何を私はイラついてるんだ!?
殺された部下に蘇生魔法を使うなんて、毎度の事じゃんかよ?
やられたのが幸だからか?
いやいや……蘇生魔法かければ何も問題なく、今まで通りの生活できるだろ?
サクラに当たり散らして、どうしたいんだ私?
「お待ちしていました裕美様。幸さんの御遺体は今ベットに寝かせております。裕美様の蘇生魔法なら脳に障害が残るような事はないでしょうが、できるだけ早く蘇生させてあげてください」
部屋の中い入ると、すぐにヴィグルが声をかけてくる。
普段は何とも思わないのだが、ヴィグルの事務的な口調も、何故だか今は少しイラっとした。
「幸を回収したのは誰がやったんだ?警察介入させて現場検証やら何やらやってたら、こんな早くにここには来れないだろ?」
ベットに向かって歩きながら話す。
「我が警察に回収される前に行った。迷惑だったか?」
「いや、いい判断だ」
ベットの脇で待機していたポチがヴィグルに代わり返答をする。
なるほど優秀だ、ヴィグルが給料上げるわけだな。
「に、してもだ……これは胸糞悪くなる状態だな」
幸の両手・両足の骨はボロボロになっており、肌が見えている部分はいくつもの矢傷のような痕があり、口からは血が垂れた痕、そして目は半開きで瞳孔が開いており涙を流した痕がついていた。
そうだよな、コイツ何だかんだで泣き虫だしな。
こんだけ痛めつけられれば涙くらい流すよな。
私は幸の目をつぶらせるように、目元に手を置き蘇生魔法をかける。
すぐに、幸の体は血色がよくなり、呼吸音が聞こえてきた。
「こんな気分になったのは初めての経験かもしれん……少し不快だな」
ポチが独り言のようにつぶやく。
「両手両足が使い物にならなくなった時点で、勝負は決している。あとはスムーズにとどめを刺すのが、相手にとって礼儀だと我は思っている」
裕美殿が我にしたように、という一文を小声で付け加えていたが、その部分は聞かなかったようにした。
「だというのに、一発で絶命させる行為を行っていない。首を切り落とすわけでもなし、心臓や脳などを潰すような事もない。つまりあの魔法少女の子供は、この小娘が絶命するまで、拷問まがいの方法でいたぶっていたのだろう」
説明しながらもポチは、段々腹が立ってきたのか、握っているコブシが震え、自らの爪で手のひらを傷つけ血が滴る。
「正直この小娘は好きではないが、この様な惨い死に方をするような業などはない……」
そこで少し言葉をつまらせる。
「裕美殿……恥をしのんで頼みたい……」
ポチが何を言いたいのかは予想できたが、私はポチのセリフを最後まで聞く。
「あの魔法少女が今どこにいるのかをサーチしてもらいたい」
だと思った。
でも、幸と実力差がほとんどないポチが出て行ったところで結果は幸の二の舞になるだけだろう。
「ゲームのルールは、ノゾミちゃんを見つけたやつに挑戦権利があるんだろ?つまりは私がサーチ魔法使った時点で、私が権利を得るだけだぞ……」
「後生だ裕美殿!我にサチの敵討ちをさせてほしい!」
私の発言を食い気味にくる。
私が何を言うかある程度予想していたのだろう……
にしても『サチの』ね……
ポチもだいぶ必死だな。
いや、ポチも私と同じで結構イラついているんだろうな……
「しゃあない……特別に許可してやる。その代わり条件が一つある。お前は絶対に死ぬなよ。蘇生魔法使うのが面倒臭い」
ポチは軽く微笑む。
「……承知した」




