第十六話 魔王軍就職説明会
私のファンクラブが設立された、そんな平和な日常。
そして、そんな平和は現状維持されない事をよくわかっている。
ヴィグルから緊急連絡が入った事をきっかけに、私はヴィグルを含め四天王招集を実施した。
「理由はわかったんですけど、何でそれを私の部屋でやるんですか?」
幸から抗議の声が上がる。
また私の部屋壊されたくないからだよ。
「裕美殿の命令には黙って従っていればよいだろう?立場をわきまえろ小娘」
「私は、アナタが私の部屋に入る事が嫌なんですよ。少しは空気読んでくれません?」
ポチと幸のいつものじゃれ合いが行われる。
「あ~何だ、とりあえずポチと幸が殴り合い始める前に、話し合いを始めるか。ヴィグル!」
話を進める事が難しくなる前に、先手を打ってヴィグルに話をふる。
「はい!では僭越ながら私が進行をさせて頂きます。本日15時から18時にかけて、魔族が7人ほど襲撃を受けました。うち4人は裕美様による蘇生魔法を必要とする状態でした」
そう、ヴィグルから連絡もらった時はさすがに驚いた。
ついでに言うと、4人連続で蘇生させるのはさすがに疲れた。
「一日……っていうか、えっと……3時間の間に7人とか、多すぎね?魔法少女だったらちゃんと一日1人のペース守れっての!もしくは、せめて2人」
何で時間計算する時ちょっと止まった!?美咲……お前本当に高校生なのか?ウチの高校どうやって受かった?裏口か?替え玉か?
「概ね美咲さんの言う通りですね。今回の魔法少女は少々暴れすぎております。しかも、戦闘の度に目に見えて実力が上がっているようです」
「そうそう!たしかに昨日やり合った時は、すげぇ強くなっててビックリしたよ!」
そう言って口をはさんだ美咲に対して、ポチと幸が凄まじい視線を向ける。
「やり合った!?……あの魔法少女と一対一で戦ったのか?どちらが勝ったのだ?」
「昨日!?……どこに?どこにいたんですか!?」
そりゃあ一昨日から必死にノゾミちゃん探してる二人からしたら気になるよな。
「ん?裕美が代わってくれなかったんだから、そりゃあ一人で戦ったよ。もちろん勝ったし!で、場所はウチ等の高校の正門ところだよ。さっちゃん飛んで帰っちゃったんで会わなかっただろうけど」
素直に答える美咲。
「あまりにしつこかったから、裕美がよく使う『魔力で内側から破壊する魔法』と『重力魔法』でボコボコにしてやったよ」
ポチと幸にとっては知っておきたい事ではあるが、聞きたくはなかった発言である。
「ばか~!美咲さんの馬鹿~~!!何でそういう厄介な魔法使っちゃうんですか!!」
「ええ~~!!?何で!?」
何も知らない美咲からしたらそう反応するよな。
それと幸。美咲が馬鹿な事にやっと気づいたか?まぁお前も大概だけどな。
「なるほど、あの魔法少女の攻撃手段が増えているという事か。より強大になるというならそれもまた面白い。しかし……状況を理解できていない魔王軍幹部というのも問題だな娘よ」
ポチは覚悟を決めて、それ用の対応を考えるようだったが、美咲への文句は忘れず入れていた。
「何なんだよさっきから!?勝てたんだからいいじゃんかよ!」
その言葉は負けた二人に刺さるな……
「まぁともかく、美咲さんの発言でもわかるように、このまま彼女を放置しておくと、魔王軍の被害が大きくなってしまいます。そこで、裕美様とも話したのですが、そろそろ裕美様に出撃してもらおうかと思っております」
まぁもうちょっと遊んでいたかったけど、これ以上、一日で使う蘇生魔法の回数を増やされたら、さすがの私も過労で倒れそうだ。
「待ってください!元々は初戦で私が完全に潰さなかったのが原因なんですから!私が責任もって倒しますから!だから裕美様が出るのはもう少し待ってください!!」
「いや、前回油断さえなければ我があの魔法少女を倒す事ができたのだ!それをむざむざ取り逃がしたりしたのは我のミスだ!裕美殿はどっしりと後ろで構えていてもらえれば、すぐにでも片付けてみせる!」
必死だな二人。
「幸。お前は、ただたんに私が出向いたら、ノゾミちゃんが生き地獄を味わう事になるから、そうなる前に……って考えてるだけだろ?」
「ポチ。ノゾミちゃんが『内部破壊魔法』を使えるようになった時点で、接近戦がメインのお前じゃ、片付けるのは不可能に近いぞ」
私の発言に二人は何も反応できずにいる。
「とは言っても、お前等の気持ちもわからんでもないから、一日待ってやる。一日たったら、私も今二人がやってる『ノゾミちゃんどっちが先に発見できるかゲーム』に参加させてもらう」
「十分だ!一日あれば、我があの少女を葬ってやろう!」
「いえ!私が倒してみせます!」
決意を新たにする二人。
「って言っても、私のサーチ魔法は世界全てを網羅できるし、変身用アイテムの微弱な魔力も察知できる。私が参加した時点で二人の負けは確定だって思っといてくれ」
二人は「望むところだ!」とハモって返事をする。
ほんと仲良いなこいつ等。
……さて、今後の方針が決定したところで……
「おい美咲!夏美ちゃんにちゃんと声かけたのか?」
四天王全員を招集したハズではあるものの、新たに四天王に任命しておいた夏美ちゃんの姿がこの場にはなかった。
「え?だって、なっちゃん四天王じゃないじゃん?」
何言ってんだコイツ?
「だから、随分と前に夏美ちゃんに「四天王に任命するからよろしく」って伝えとけって言ったよな?それすら忘れたか?」
「ん?だから、それを伝えたらガチ泣きで土下座されて『それだけは許してください……』って」
断られてんじゃねぇかよ!!
って事はアレか?
今のいままで、3人しかいないのにドヤ顔で「四天王!」とか言ってたの?
一日・二日程度じゃないよ。一か月以上だよ!?
「おまっ!それもっと早く言えよ!!」
「あははは!わりぃ!すっかり忘れてたわ」
ぜっってぇに「わりぃ」なんてこれっぽっちも思ってねけだろコイツ!
「って、どうすんだよソレ!『四天王』って言ってんだろ!?『四天王』!!3人しかいないけど『四天王』ですって、全然格好つかねぇじゃん!?」
「そんなに必要なら、潤沢な魔王軍の資金使って買収でもすればいんじゃね?」
金の力で四天王やってもらうって……なんかやだなぁ。
「私は別に出資してもよいと思いますよ。どうします?生涯年収くらいの額をちらつかせて、札束で頬殴ってみますか?」
「あ、ソレむしろアタシが体験したい!ヴィグルさん、今度それアタシにやって」
そして、そのまま本気で金奪っていく気だろ美咲……
「幸さん、片付け終わったよ~……あと、話し合い長くなるようだったら飲み物出そうか?緑茶とコーヒーと紅茶、どれがいいかな?」
夕飯の片づけをしていたサクラが部屋に入って来る。
同棲生活も随分板についているようで、もう勝手知ったる他人の我が家状態である。
「私は緑茶でいいですよ」
「では我はコーヒーをもらおうか。ブラックで頼むぞ娘」
「私もポチさんと同じでコーヒーを頂いてもよろしいですか?私は砂糖だけ付けてください」
「じゃあアタシは紅茶で。レモンとミルクもあったらちょうだい」
お前等……こういう時だけ息ぴったりだな。
「ってかちょっとは統一してやれよ、たちが悪いぞお前等……あ、私は今コーラが飲みたいから、そこの自販機で買ってきてくれ」
私は「釣銭はやるよ」と付け加えて500円玉を投げ渡す。
「いや!?裕美が一番たち悪いだろ!!」
「何でだよ!?ちゃんと駄賃付きで金渡してるだろ!お釣りもらえるってわかって超嬉しそうに買いに言ったじゃんかよ」
「いや、そういう悪びれる事なく人をパシるとこがだよ!」
喜んでるんだからいいと思うんだけどなぁ……
やっぱホームレス生活経験があると、はした金でもありがたがって動いてくれるからいいなぁ。
……ん?
ちょっと待てよ?コレつかえるんじゃね?
「ヴィグル……今手持ちいくらある?」
こっそりとヴィグルに耳打ちする。
「裕美様と行動を共にする時は、ある程度の無理難題に対処できるように、念のため現金を100万程持ち歩いております……使いますか?」
私が何をしたいのか察しているようだ。
さすがだなヴィグル……優秀だ。
「何でしたら、私が交渉いたしましょうか?使う金額はできる限り抑えられるようにいたしますよ」
「いや大丈夫だ。威厳を保つために私がやる。とりあえずその100万私によこせ」
ヴィグルとコソコソと打ち合わせをしていると、息を切らしてサクラが戻ってくる。
「はいコーラ!本当にお釣りもらっていいんでしょ?後で返せって言っても返さないわよ!」
どんだけガチなんだよコイツ……
「言わん言わん……それどころか、ほら。場合によってはコレもやってもいいぞ」
サクラの目線に入りやすい位置に札束を置く。
「なっ!?ドケチな裕美が何でそんな金を!!?それむしろアタシにくれよ!!」
別の方向から反応が返ってくる。
「お前はちょっと黙ってろ!私は今サクラと話してんだよ!!」
隣からしゃしゃり出てくる馬鹿を一喝して再度サクラと向き合う。
「何?そのお金で私に何をさせるつもりなの?殺人?誘拐?」
私を何だと思ってんだよ?ってかそんな行為サクラに金払ってまでやらせんでも、私含めて魔族全員無料でやれるっての。
「なぁに……わけは単純だよ。今魔王軍は戦闘能力に優れた有能な人材を一人急募中なんだよ」
「……この金が欲しければ魔王軍に入れ、って事?」
察しが良くて助かる。
「もちろんこの金はただの契約金だ。月々で給与は別にちゃんと出す。しかも今契約してもらえるんだったら四天王という幹部のポストも用意してやろう」
「給与……いったいいくらもらえるの?」
やっぱり食いついたな。
そりゃあそうだよな……仕事見つからずに、幸の部屋で永遠とニート生活してるのは精神的にきついもんなぁ?どんな職種だったとしても安定収入は喉から手が出るほど欲しいもんな。
「月収10万でどうだ?」
「「「「「「なっ!!!?」」」」」
私の一言で、私以外の全員が驚きの声を上げる。
「一か月に一回10万も貰えるって事なのね……わかったわ。背に腹は代えられない……その話受け……」
「ちょっと待ってください!!」
っち!金の価値がいまいちわかってない馬鹿をもう少しで騙せると思ったのに、幸の横やりが入ってしまった。
「裕美様。仕事として雇っているのに月10万の正社員って……しかも立場的には管理職にあたる役職与えておいて手取り10万って……」
「いや、手取りじゃなくて総支給額で……」
「もっと悪いですよ!どんだけブラックなんですか!?しかも仕事内容の説明も無しに契約結ばせようとか労働基準法なめてます?」
何だよぉ契約結んじまえばコッチのもんだったのに……
「裕美様……10万はさすがに私も引きましたよ。値切るにしても、もっと良識ある金額にしてください」
味方だと思っていたヴィグルのまさかの裏切り。
私そんなに悪いか?
「とりあえずここから先は私が引き継ぎます……サクラさん。とりあえず仕事内容は私の補助をしてもらいます。と言っても最初のうちは雑用になるかとも思いますが、その見習い期間中はとりあえずは基本給として20万出しましょう」
「なっ!!?二倍!?そんなにもらえるの?」
まぁ魔王軍の規模を会社で置き換えるなら、ちょっと少ないくらいかもしれんが……あ、これがヴィグルが言った『できるかぎり出費を抑えた交渉』か。
何か……普通だな。
「昇給は勤務期間ではなく能力で評価させていただきますので、優秀でしたらすぐにでも昇給しますのでがんばってください」
何だよこの会社説明会は?
さっきまでもっと深刻な話してなかったっけか?
「あ……あの……一生懸命がんばりますのでよろしくお願いします社長」
そう言ってヴィグルに頭を下げるサクラ。
おい!立場で言えば社長は私なんだけど!ヴィグルは精々人事総務部長くらいじゃね?
「あの~ヴィグルさん……アタシも四天王やってるんですけどぉ~……お給料は?」
黙れ美咲!どんだけハイエナしてぇんだよコイツ。
「美咲さんと幸さんはまだ学生ですし、実務をやっているわけではないですからね……まぁですが、せっかく四天王をやってくれているので、役職手当(仮)として月5万円くらい出しましょう」
「社長ぉ~~!」
ヴィグルに土下座する美咲。
結局、ヴィグルを『社長』呼びする流れは、ポチが、ヴィグルの補佐を既にこなしており、一年たってないのに月収35万ほどもらっている事が発覚するまで続いた。




