第十五話 魔王様ファンクラブ発足
「魔王様のファンクラブって無いの?」
ねぇよ。何言ってんだコイツ?脳みそのかわりにカニみそでも入ってんじゃねぇのか?
昨日美咲が、バイト遅刻した挙句、金髪にした時ですら怒られたのに、変身解かずに白髪のままバイト入ったせいでめちゃくちゃ怒られたってな話で盛り上がっている昼休み中に、いきなりクラスメイトのミキちゃんに話しかけられる。
「いきなりどうしたミキちゃん。性病の影響がついにオツムに回ったか?だからあれほど不特定多数の棒咥えまくるのはやめとけって言ったのに」
「言われてないし!?病気でもないし!処女だし!!」
いらん情報まで暴露しだしたなミキちゃん。
「何で魔王様ファンクラブの有無を聞いただけで、セクハラされなきゃいけないのよ!?」
セクハラよりもむしろモラハラじゃね?
いや、今はそんな事はどうでもいいか。
「いやいや、何の脈絡もなくいきなりだったからさぁ……んで?何だって?」
「だからファンクラブ!!魔王様の名誉魔族なら知ってるでしょ?」
それどこの世界基準だよ?
上司のファンクラブの有無を部下が把握してるのは当たり前理論は何なんだ?
「有りますよ。ちなみにファンクラブの会長は私です」
嘘ついて話をややこしくするなよ隣の席の馬鹿。
「いや、ねぇだろ!!有るなんて聞いたことねぇぞ私は!」
このまま話を続けると面倒臭い事になりそうだったので、幸の発言にツッコミを入れて、それでおしまい!という空気を出す。
「無いなら作ればいいんじゃね?」
余計な発言をして話を面倒臭くする前の席の馬鹿。
もうヤダこの席。
「作ってどうすんだよ?年会費とか取るのか?そもそも入会して得る特典は何かあるのか?何もねぇだろ?」
「えっと……年一回『魔王様と行く慰安旅行~ディナーショーもあるよ~』とかどうでしょうか?」
誰が企画を考えろって言ったよ。そもそも行きたがる奴いねぇだろソレ?
「あの……年会費これで足りるかな?」
握りしめた万札を私のスカートに無理矢理ねじ込みつつ迫ってくるミキちゃん。
行きたがってるやつ目の前にいたよ……
「冗談はさておき、ファンクラブくらい作ってもいいんじゃないですか?公式になるかどうかは魔王様の一存で決まりますけど、一考してもらうくらい罰はあたりませんよ」
う……そう言われると、この場で断りづらい。
「そうだそうだ~!魔王様に話通してくれたなら、裕美さんを会員ナンバー1番にしてあげるからさぁ」
超いらねぇぇ!!
何が悲しくて、自分のファンクラブ入会しなくちゃならないんだよ。しかも会員ナンバー1番って、どんだけ可哀想な奴だよ私!?
「大丈夫だってミッキー。裕美の奴こう見えて、結構人の頼みは断れないから」
断りたい……
「それじゃあ裕美さん。魔王様に伝えておいてね。お願いねぇ~」
そう言い放って、自分の席に戻っていくミキちゃん。
大丈夫だよミキちゃん。魔王には既に伝わってるから……
「……で?どうすんだ裕美?」
「まぁ公式にするかどうかは置いといて、ファンクラブの設立ぐらいは許してやらないとミキちゃんが可哀想だろ」
会員が集まるかどうかは別だが。
「でも裕美様。公式にして本当に年会費とか取れれば、魔王軍の運営資金とかにできるんじゃないですか?組織のトップなんですから、その辺も考えて答えを出してくださいね」
コイツ……
公式ファンクラブ入会する気満々で、もっともらしい利益を提示してきやがった。
必死だな幸。そんなにファンクラブ作りたいか?
だけどな……
「残念だが幸。魔王軍の資金は潤沢なんで、そんなはした金拾わなくても十分なんだ」
「え!?」
どうやって資金調達しているのかわからず疑惑の表情をする幸。
「そうだなぁ……日本円で言うと年間で防衛費の5%の額が魔王軍の資金になってるんだよ」
その辺もヴィグルの交渉によるものではあるんだけどな。
本気になった魔族の戦力ってのは全世界に知れ渡っているのを利用して、魔族2名を有事に際し常駐させる事で、それだけの金額をいただいている。
もちろん日本だけじゃなくて、世界各国希望さえすれば、軍事費の5%を支払う事を条件に一律魔族2名を派遣している。
まぁ各国、抑止力としての戦力を保持しているってな感じだろうか?
魔王軍がこの世界に来た時、合衆国軍相手に生身で戦って、制空権おさえられているのに死傷者0人で蹂躙した挙句、私が核兵器防いで見せたのが印象としてでかかったらしい。
……ここだけの話、実際は核兵器防いだように見せただけなんだけどな。
まぁともかく、その辺を差っ引いても、魔族一人の戦力ってのが馬鹿にならないってのは各国理解しているのだ。
実際に、幹部でもない魔族でも、防壁はれば120mm砲弾くらっても、痛いレベルで済む程度には強いし、何より機動力がある。大量の人員・装備・設備の維持費を考えると、ちょっとボッてる気がするけど、その辺は一応無条件降伏を受け入れた敗戦国って事で納得してもらっている。
とりあえず、ちょっと話が脱線したような気もするけど、ともかく魔王軍の資金は外貨準備金含めて潤っているのだ。
社会保障とかも、住んでる国のシステムに準じてる……というか基本寄生してるわけで、今のところ金の使い道なんて、派遣されてる魔族数百人とヴィグルの給与にまわってるだけだしな。
あ、寄生してるって言っても、ちゃんとその国の税制には従って納税はしてるよ。
まぁ魔王軍は会社とかそういうわけじゃないから、どんなに収入があっても法人税とかは収めてないけどね。
「え?いや……ちょっと待ってください?えっと……裕美様?日本の防衛費っていくらでしたっけ?」
「今年は6兆円弱だったかな?」
途端に美咲が電卓を叩き出す。
それくらい暗算しろよ高校生……
「ついでに言うと、このシステムを利用してる国はだいたい150ヶ国くらいだったかな?」
再び電卓を叩く美咲。
「あ、美咲。通貨はその国での通貨を払ってもらってるから日本円じゃなぇぞ。あと通貨価値が暴落しそうな国はドル払いさせてるから、それで計算してみろ。まずは各国の軍事費がいくらか調べるところからだな」
美咲の手が止まる。
「うがぁぁぁ!!頭混乱してきたぁ!とにかくすげぇ額だってのはわかったよ」
魔王軍総資産の計算するのをあきらめる美咲。
まぁそうなると思ってたよ。馬鹿だし。
「まぁちょっと話が脱線したが、幸!ファンクラブでの収入なんて増えたところで別に何も変わらないのさ!」
これでファンクラブを公式化する理由は潰したぞ。次はどう出る幸?
「…………」
幸は無言のまま自分の席を立つと、ゆっくりと私の方へと向きを変えそのまま……
「お願いします!!もう収入がどうこうなんて絶対に言いません!何でもしますから、何とかファンクラブの設立を認めてください!!」
土下座しやがった!!?
いや、ファンクラブ程度で必死になりすぎだろ!?
何が幸をそこまで駆り立てるんだよ!?
「あ~!!もう私が何言っても引く気がないのはわかったよ!認めてやるからもう頭上げろ!悪目立ちしすぎてる」
もう色々と面倒臭かったので、幸の要求を認める。
幸は、無言のまま立ち上がるとそのままミキちゃんの席へとダッシュする。
数分後二人の奇声が教室に響き渡った。
そして……
今度は前の席の馬鹿が、先程の幸と全く同じ動作をしだす。
「お願いします!!アタシ魔王軍の四天王として頑張りますから!魔王軍の資産から給与をください!年間1000万くらいでいいんで!!」
……
「いっぺん死ね!!」
あ……美咲いっぺん死んでたわ。




