第三話 魔法少女(引退)VS魔法少女(現役)
無事休み時間中に教室に戻る事ができた。
この時間軸の私は、今頃職員室で説教中だろう。
ふと教室を見渡す。
偶然転校生と目があった。
こちらから目をそらすのは癪なので、睨み返してみたところ、あっさりと目をそらされた。
ふふ……私の勝ちだ!
いや、何と戦ってるんだ私?
それにしても……
普通、転校生といえば、クラス中から質問攻めにあうのが定番だろうに、彼女の周りには一切誰もいない。
そりゃ転校初日から包帯グルグル巻きでくれば、誰もが不審がって近づかないだろう。
「よっしゃ~!セーフ!!」
ものすごい勢いで教室のドアが開く。
「おかえり美咲ちゃん。今日は何喋ってて呼び出されたの?」
帰還した美咲をクラスメイトのヨシミちゃんが出迎える。
何気に交友関係は広いんだよなアイツ。
「いやぁ裕美のやつがさ『わたしぃ最近欲求不満だから~小遣い稼ぎもかねてぇ素人もののAVでたいのぉ~』とかほざいてたせいで、とんだとばっちりくっちゃっただけなんだよアタシ」
「そ……そうなんだぁ~……ちなみに裕美さんがすぐ隣に立ってるのは気付いてる?」
ヨシミちゃんのその発言を合図に、私は美咲の肩に手を置く。
「オイオイ今のはひょっとして私のモノマネか?超似てたな。グーで殴っていいか?」
「おま……何でアタシより先に……魔法か?」
私だけに聞こえる程度の声で美咲はつぶやく。
「詳細は教えてやらんけど、まぁそんなとこだな」
美咲を肩をホールドしたまま自分達の席へと歩いていく。
「それとな、私は超優しいから、さっきのモノマネは今日『ドゥース』のチーズケーキおごりで許してやろう」
ちなみに『ドゥース』ってのは、私達のたまり場となっているケーキ屋である。
「まぁそんくらいなら一昨日バイト代入ったからいいけど……あんたも来る?転入祝いにおごってやるよ」
美咲は唐突に、転校生の幸に話をふる。
美咲はこう見えて意外と優しい、というかお節介なところがある。
あからさまに周りから避けられてるのを見て、可哀そうとでも思ったのだろう。
まさか自分が声かけられるなんて思ってもなかったのだろう。幸は驚いたように視線をこちらに向ける。
……ん?ってちょっと待て!?こいつ変身アイテム手に持って眺めてやがった。
「あれ?その玉って……」
美咲も気づいたのか、うっかりと声を出している。
「拾ったのよ。綺麗な石でしょ?」
まぁそう誤魔化すよな。
「何かアタシのよりでかく見えね?」
この馬鹿、自分の石までスカートのポケットから取り出そうとしてやがる。
「そりゃあ美咲、あんたの胸より小さいオッパイあったら一大事だろ?お前のよりでかく見えるのは当たり前だって。実際にでかいんだ。現実を直視しろ。な?」
すかさず私はフォローをいれる。
お互い魔法少女だって事は知らない方が幸せだっていうのに、美咲は私の胸ぐらをつかんでくる。
「胸の大きさの話じゃないから!」
こいつ若干涙目になってやがる……そんなに気にしてたのか。
「あ~悪かった。大丈夫!乳首のでかさなら美咲が勝ってるから安心しろ」
「嬉しくねぇし!ってか裕美にアタシの乳首見せた事ねぇし!!」
「大丈夫だって。私はオッパイのプロだぞ。服の上からだってちょっと触っただけで乳首のでかさくらい一発でわかるって」
「え……マジで?嘘だろ?嘘だ……よな?」
美咲はそのまま崩れ落ちる。
ってか嘘に決まってんだろ。何信じてんだコイツ。何だよオッパイのプロって?そのプロライセンスどこで取れんの?
まぁとにかく、これで変身アイテムについては誤魔化せ……てないなこりゃ。
美咲を見る幸の目が、親の仇を見るような目になってるし。
「美咲さん。話したい事があるの。次の休み時間ちょっと付き合ってもらえませんか?」
「ん?別にいいよ」
あぁ……もうお前等勝手にやってろ。
そして授業が終わり休み時間になった瞬間、本当に出ていく二人。
美咲は授業中に
「放課後一緒に出掛けるってだけなのに、返事をコッソリしたいなんて、あの子すごい恥ずかしがりやだよな?」
とかほざいてたんで、絶対話噛み合わずに面倒臭い事になるぞこれ……
一応魔法で盗聴だけはしといてみる事にする。
「それで?話って何?アタシ的には教室でもよかったんだけど」
さっそく美咲の能天気な声が聞こえてきた。
「アナタはそれでいいかもしれませんが、私はクラスの子達まで巻き込みたくはありませんから」
「え?別にいんじゃないの?ついて来たい子がいればどんどん巻き込んでいっても?」
「アナタには人の心が無いのですか!?」
「え?あ?いや……わかる、わかるよ!そうだよね、いきなり大勢の前じゃ恥ずかしいよね?」
「別に私は変身した姿を恥ずかしいなんて思った事はありません!」
「ええ~?ああ……うん、その包帯ファッション格好いいと思うよ。うん!」
「っく!馬鹿にして……これは他の人を巻き込みたくないから、警戒して誰も近づいて来ないように……いや!そんな事は別にどうでもいいです!」
「ううぅ……どう反応すりゃいいんだ……?」
「キューちゃんから聞いてます!魔王は元々は魔法少女だと。だから変身アイテムの石に反応してくるのは魔王だろうとふんで、わざと見せびらかしていました」
……案の定盛大に会話噛み合ってないな。
で、この感じは、石に反応した美咲を魔王だと勘違いしてるパターンのやつだな。
ってか、あの浮遊狐『キューちゃん』とか呼ばれてんの?
「あ、やっぱり幸ちゃんも魔法少女だったの?偶然だね~アタシも実はそうなんだよ」
「白々しい……美咲さん。私と勝負しましょう」
「何でそうなるんだよ!?」
「キューちゃんには『まだ早い』と言われてますが、目の前に敵がいるのに何もしないわけにはいきませんので!」
「ちょ、敵って……アタシ何もしてないじゃん……」
「問答無用です!私が勝ったら即この世界から出て行ってください!」
「ああ!もうわけわからん!じゃあアタシが勝ったら、裕美とアタシにケーキおごりな!」
あ、はじまっちゃった。
まぁいいか、私に害がなければ。
私はそっと盗聴魔法をやめた。
浮遊狐から軽くあの女の性格聞いてたけど、想像以上に面倒臭いかもなぁ……
そんな事を考えながらボーっとしていると、美咲が帰ってきた。
「おかえり~どっちが勝った?」
「何だよ、やっぱり幸ちゃんが魔法少女って知ってたな。あ、もちろん勝ったのはアタシだよ。ってか幸ちゃん思ったより強くなかったし」
美咲に勝てないって事は、浮遊狐の忠告を素直に聞いといた方がよかったな幸ちゃん。
と、いっても美咲も今は、たぶん私が倒した前魔王くらいなら倒せるくらいの強さにはなってる感じだから美咲の言う『強くなかった』基準はいまいちわからないけど……
「それはそうと、その幸ちゃんはどうした?殺っちゃった?」
「いやいや!裕美じゃないんだからそこまではしないって。とりあえず回復魔法かけて『熱中症です』って言って保健室置いてきた」
今4月末で、まだ肌寒い日が結構あるのに『熱中症』?今日最高気温20℃すらいってないのに『熱中症』?まぁ確率は0じゃないかもしれんが、もうちょっとマシな事いって捨ててこいよ。
結局、幸はすぐに戻ってきて授業に参加していたものの、教科書・ノート。黒板・教員、これ等に一切目をくれずに、ひたすら美咲に殺意の視線を送り続けていた。