第十三話 賭け事は計画的に
「最後にやられたのがポチさんなので、私の勝ちという事でよろしいですよね?裕美様」
「いやいやいや。邪魔者が乱入した時点で賭けは無効だろ。ノーカンだよノーカン」
「裕美様ともあろうお方が何とも中途半端な結論を出しますね。ここはきちんと白黒つけるべきでしょう?であれば、最後まで立っていたポチさんが勝者でしょう。結果が全てです」
「結果だけ見ればそうかもな、だが賭けってのは結果よりも過程が大事なんだよ。過程において目に見えるイカサマ行為があれば、結果が全てなんて言葉に正当性はなくなるだろ」
「そうですね。ですが今回のものは、私や裕美様が故意に仕組んだ妨害ではなく、可能性としては0ではなかった乱入者が偶然現れたというだけです。結果に正当性はあります」
「いや、そもそも誰が勝つかって賭け内容だったわけだから、今回の賭けの結果はノゾミちゃんの勝ちだったわけだから、二人ともハズレだろ?」
「それは違いますよ裕美様。私は『幸・サクラ組とポチ、どちらに賭けますか?』といった提示しかしていません。勝ち負けではないのですよ。そもそもノゾミさんは賭けの対象から除外されているので、関係がないです」
「それは屁理屈だろヴィグル!聞き方によってどうとでも取れる賭け内容だったのなら、それはそもそも賭けとして成立しないだろ」
「しかし、私のその言動に何のためらいも無く同意してしまったのは裕美様ですよ。本来なら成立しない賭けを成立させてしまった時点で裕美様の落ち度であり、私の勝ちを正当化させているのですよ」
「だったら、私は『幸・サクラ組が先に倒れる方』に賭けてたってのが成り立つぞ!」
「それこそ屁理屈ですよ裕美様。勝つと思われる方に賭けるのが一般的であり、戦っている最中に裕美様が言っていた発言は全て、幸・サクラ組が勝つ事を信じた発言でしたよ。結果としてポチさんより先にお二人がダウンした。それが事実です」
「だけど……くっ……」
そこで私は言葉に詰まる。
これ以上は何を言っても、ヴィグルの有利は覆せなさそうだった。
「あの……そろそろ私も喋っていいですか?」
私とヴィグルの無駄に白熱したやりとりをずっと隣で聞いていた幸が、タイミングを見計らって話しかけてくる。
「あの魔法少女って、前に私がボコボコにした魔法少女ですよね?」
「そうだな、幸が最後に『もう少し強くなってから出直して来いよ』ってドヤ顔で発言した時の魔法少女だ」
「……あの……それは忘れてもらえるとありがたいんですけど……」
幸は赤面して小さい声で呟く。
そりゃあそうだよな、ドヤ顔で『出直してこいや』って言ってたのに、出直してこられた結果、魔力の矢で腕を貫かれて、一発で腕使い物にならなくされて戦闘不能にされてたんじゃあ恥ずかしくて声も小声になるよな。
「まぁともかく、あの浮遊狐が『性格より実力を重視した』ってだけあって、思ってたよりヤバそうな魔法少女だったわ」
「そうですよ!サクラさんがやられたのは、私があの魔法少女に使った魔法でしたし、私に飛んできたのは美咲さんがよく使う魔法でしたし、ポチに至っては自分でよく使ってる魔法でやられるという、マヌケな事してたじゃないですか!」
「そうだな……弾くか避けるかすればよい魔法を受けた事で戦闘不能になるという、状況判断すらまともにできない小娘くらいには屈辱的な負け方をしてしまったようだ」
幸から数分遅れで、コチラに歩いてきたポチが横から口をはさむ。
「そうですね、私は一度アノ魔法少女を裕美様の命令でボコボコにした事ありますけど、初戦闘で逆にボコボコにされてる方は、もう少し裕美様の役に立てるように努力するべきですね」
互いに胸ぐらつかんでにらみ合いをしだす。
こいつ等本当に仲悪ぃな……
「まぁともかくアレだ、最新魔法少女のノゾミちゃんは、どうやら一度くらった魔法を即解析して、まったく同じ威力で使う事ができるって才能があるみたいだな」
戦闘中にヴィグルが解説していた事を、さも自分が考えたかのように説明する。
「ついでに、天然物の耐久力が備わっているみたいで、攻守共に優れた魔法少女になりつつあるっぽいな」
「たしかにそのようだな。我が純粋な殴り合いで競り負けたのは初めてだ」
接近戦が得意なポチに、接近戦で競り勝てるのが、ノゾミちゃんの現在の強さを物語っている。
「『初めて』とか言って見栄はってますけど、既に裕美様にボロ負けした経験があるじゃないですか?」
「裕美殿には……いや、何でもない……」
恐らく、私とは競り合いにすらなる前にやられた、というような事を言おうとして、墓穴を掘る事に気付いて途中で口ごもるポチ。
っていうか、こいつ等、お互いに何かしら発言したら挑発しなきゃならないような規則でも作ってんのか?
「ともかく、朗報といたしましては、裕美様が使用するバカげた魔法はまだ盗られていない、という事ですね。おそらく本日使用した魔法が、今現在使える威力の高い攻撃魔法全てだと思われます」
ヴィグルが補足説明する。
「それを聞けただけでも十分だ。今回は不意を突かれたが、どのような魔法を使ってくるかがわかっていれば、幾らでも対処のしようがある。次は負けん」
「また挑戦するつもりですか?また不様を晒すよりも大人しくしていた方がいいんじゃないですか?私は今一勝一敗の状態なので、私があの子とケリをつけます」
だから、何でこいつ等こんなにケンカすんの大好きなんだよ……
いや、これってある意味仲良いんじゃね?
「随分と分不相応な発言をするな。小娘は引っ込んでろと言いたいところではあるが、我も一度は負けた身……ここは、先にあの魔法少女とやらを見つけた方が挑戦権を得る、というのでよいか?」
「面白いですね。受けてたちましょう。サーチ魔法を使えないのに、よく言えましたね」
幸……サーチ魔法使えても、ノゾミちゃんが変身してないと、魔力持ってないからサーチ魔法に引っかからないぞ。
あと、お前のサーチ魔法の範囲ってそんなに広かったっけ?
「裕美殿、その様な感じでよろしいか?」
いきなりコッチに話が飛んでくる。
「先に見つけた方に挑戦権をもらえるって事でいいですか裕美様?」
息ぴったりだなお前等……やっぱ本当は仲良いだろ?
「まぁいいんじゃねぇの?倒せんだったら。お互いノゾミちゃんの顔も声も名前もわかってるだろうし、サクラみたいに、そこまで闇雲に探し回るはめにはならないだろうし……」
そこでふと気が付く。
「……ってかサクラどこにいる?」
辺りをきょろきょろと見渡す。
「ああ、我を追って来た少女だったら、ほら……そこで先程から頭を地面に突っ込んだまま動かずにいるであろう?」
「さ……サクラさん!?大丈夫ですか!!ごめんなさい!スッカリ忘れてました!!」
幸が急いでサクラのもとに駆けて行き、回復魔法をかける。
「身体……が痺れて動け……なくなって、このま……ま放置されたらどう……しようかと思って……」
幸によって救出されたサクラは、鼻血をたらしながら、半ベソをかいていた。




