第十一話 三つ巴
夜というのは、全てを静寂の闇が包み込む事で、昼とは違う一面を浮き彫りにする。
まったく同じ場所であっても、昼と夜では受ける印象がガラリと変わる。
その最もたるものが学校なのではないかと思っている。
昼の、人があふれかえり騒がしい空間が、夜には誰もいないおどろおどろしい雰囲気を放つ。
そんな場所に私は、幸とサクラを連れてやってきた。
「学校……ですか?たしかに夜なら誰もいないですね」
時刻はすでに23時過ぎ。
残っている教職員もいなければ、守衛を置くようなムダ金を捻出する学校でもない。
何の躊躇もなく閉まっている門を飛び越えてグラウンドに向かう。
そこには既に二つの人影があった。
二つの人影も私達に気付きコチラにゆっくりと歩いて来る。
「アナタが魔王だったのね。一度会っているのに気づかなかったなんてね……」
まず口を開いたのはサクラだった。
「アナタを倒すためだけに私の人生は国に捧げられた……ただ人より魔力が強かったってだけで……アナタさえいなければ、私はもっと普通の生活を送る事ができたはずなのに……」
ポチは何も言わずにただ黙って話しを聞いている。
私とヴィグルはその間に戦列から逃げるように脇の方へと移動する。
「アナタさえ倒せれば普通の生活が手に入る……その一心でいざアナタの居城に向かってみれば既にもぬけの殻、国に戻ってみたら第二の魔王になる事を恐れられて軟禁されて、自由になれないならとアナタを追って異世界まできてみたら帰れなくなるしホームレスみたいな生活がまっているしで……」
悲惨な人生だなぁ……
何か憑いてるんじゃね?後でお祓いした方がいいだろ?
今までの恨み言をポチにぶつけている。
全部言い終わったのを確認すると、ポチはやっと口を開く。
「それはすまない事をしたな」
予想外にも、ポチの口から出た言葉は謝罪の言葉だった。
「もう少し早く我の居城に来てくれたなら、その哀れな人生に終止符を打ってあげられたのだがな」
いや……違うなコレ。
ただ煽ってるだけだな。
「放っておけば異世界で裕美殿に挑んで、勝手に朽ちただけの我を、わざわざ追ってくるなど、無駄な行動をさせてすまなかったな。いや……存外無駄な事が好きなのか?貴様の人生と同じで?」
いやぁ~煽る煽る。
「魔王ぉぉ~~~!!!」
案の定ブチキレるサクラ。
問答無用で、右手を横一線に動かし真空波をポチに放つ。
「馬鹿な小娘だ。やはりこの程度だったか」
ポチはボソッとつぶやくと、軽く真空波をかわすと、凄まじい踏み込みで一足でサクラの前まで飛び込むと、魔力を込めたコブシを振り上げる。
「冷静さを欠いては勝てる戦いも勝てなくなる事を覚えておくといい……涅槃でな!」
私の部屋での一撃より重いコブシ。
キレて冷静さを失った頭では、反撃まで予想できていなかったようで、防壁魔法を張ることすらできずにいたサクラは、ただ棒立ちのまま攻撃を受ける以外の選択肢は無かった……一人だったなら。
「何のマネだ小娘……」
サクラの前には、サクラをかばうような形で、雷撃魔法を混ぜ込んだ防壁でポチのコブシを弾いた幸が立っていた。
「何のマネ?裕美様の家でアナタ言ってましたよね?『大切な友人を傷つけるなんていい度胸だ』って、私もそれと同じ理由ですよ」
そういう展開は好きだから別に構わないんだけど……幸、サクラまだ傷ついてないぞ。
せめてポチがやったみたいに、一発くらったら出てこいよ。
ポチは幸も敵とみなして、一旦距離をあけると、魔力を飛ばして幸を攻撃する。
幸の雷撃魔法を混ぜた防壁がよっぽど苦手なんだなポチ……
「くっ……遠距離攻撃なのに、接近してのコブシとあまり変わらない衝撃がきますね。本当に鬱陶しいですねアナタ!」
幸も幸で、ポチの遠距離攻撃嫌がってるな。
意外とこの二人相性いいんじゃね?
「やはり幸さんも加わりましたね。これはポチさんも随分苦戦するんじゃないですか?」
「『苦戦』?いやいや、さすがのポチでも実力近い二人相手に一人じゃ負けるんじゃないか?」
「裕美様は、幸・サクラ組ですか……私はポチさん。賭けますか?」
「乗った!1000円な!」
必死な戦いを繰り広げる三人を横目に、それを賭けにしてのんびり見学している私達二人。
こんなみみっちい金額の賭けやってるけど、これでも年収1000万超えの二人です。
ポチは二人を分断させるように立ち回り、サクラをコブシで直接攻撃しつつ、近づこうとする幸には魔力を飛ばして攻撃する。
サクラはポチからの攻撃を防壁で防ぎ、ときには避けて、たまに風を使った魔法で攻撃するが、ポチには基本かわされ、当たったとしても擦り傷程度のダメージしか通らず、すぐに回復されてしまう。
幸は飛んで来る魔力の塊を防ぎつつ近づこうとするものの、なかなか近づけず、遠距離から雷撃や炎の玉を飛ばしたりはするが、ポチの防御を破れずにいた。
「意外と接戦だな……サクラは近距離戦が苦手で幸は遠距離攻撃が苦手なのか」
「やはりポチさんの方が戦い慣れてますからね。二人ともポチさんに上手く誘導されて得意な射程範囲に入れずにいますね」
コンビニで調達しておいたお菓子を二人で食べつつ、適当な分析と解説をする私達。
場の空気を読まずになごんでますが、これでもその気になれば世界滅ぼせる二人です。
「サクラさんからの攻撃も、当たったらマズそうな攻撃だけピンポイントでかわすようにして、無駄な動きを減らしてるようですし、あの連携まったくとれていない二人ではポチさんには勝てないでしょうね。経験値の差は大きいですよ」
「いやいや、確かに連携はとれてないけど、二人で戦う方の有利さは変わらんよ。魔力の消費スピードはポチの方が明らかに早いからな。このままの状態で長期戦になれば先に崩れるのはポチの方が先だろ」
命がけの闘いをする三人を賭け対象にして、無駄に盛り上がる私とヴィグル。
すごい脇役ポジションやってるけど、これでも世界の権力者ランキングがあるなら一位と二位です。
「ストォーーップっす!」
突然、場の均衡を乱す声が響く。
一瞬動きの止まった三人の隙を突くように、空から一つの人影が降りてくる。
「誰ですかアレ?もしかしてアノ少女が前に裕美様が言っていた新しい魔法少女ですか?」
「正解……ってか何しに来たんだアイツ?レベルの差を考えると、あの三人の間に入ったら死ぬぞ」
突然訳の分からに状況になり固まる三人。
場は完全に水を差されている。
「夜のパトロールをしてたら、とんでもない魔力の衝突を感知したんで飛んできてみたんスけど何やらスゴイ状況ッスね」
まったく空気を読まずに喋りだす最新型魔法少女のノゾミちゃん。
「見た感じの状況は、名誉魔族二人と魔族一人の三つ巴……じゃないッスね。私の予想だと、このおじさん名誉魔族が魔王軍を裏切ろうとして、それを粛正しようとする魔族と名誉魔族のタッグ……って感じッスね」
全然違うよノゾミちゃん。いいから引っ込んでてくれないかな?
「そして、ソレを魔王に状況報告するためにそこで見学している下っ端魔族とその名誉魔族って感じッスね!」
コチラを指差してドヤ顔で自分の妄想を語りだす。
もう黙れお前……
「面白い子ですね。私達下っ端らしいですよ、裕美様」
適当に流すような口調で、笑いながらつぶやくヴィグル。
「それにしても、いったい何をするつもりなんでしょうね?」
「知らん!私に聞くな。アイツは毎回とんちんかんな行動取るからまったくわからん!」
小声で喋りつつ、とりあえずはノゾミちゃんの話に耳を傾ける。
「魔王軍を抜けるというなら僥倖ッスよ!おじさん、私が力を貸すッス。一緒に魔族をやっつけるッスよ!!」
ダメだコイツ。
自分の予想が100%正解だと思ってやがる。
「裕美様。ポチさんが本当にアノ魔法少女と共闘するか、それともキレるか……賭けますか?」
「ヴィグルはどっちに賭けるつもりなんだよ?」
少し考えるような素振りをするヴィグル。
「ポチさんがキレる方ですね」
賭けになんねぇよ!!




