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魔王少女  作者: mizuyuri
第二部
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第七話 ホームレス少女は帰りたい

 おそらく……いや、絶対に私は今現在世界で一番権力を持っているだろう。

 ただその権力を行使していないだけである。


 それを考えれば、私に代わって権力を行使しているヴィグルが一番権力を有していると言ってもいいかもしれない。


 まぁそれはともかく……

 本来ならば魔王である私に、全ての人類がひれ伏したとしても、それは当然の事である。

 ただ、私が現状それを望んでいないのだ。


 だからこそ、今私に好き好んで頭を下げるのは眷属である幸くらいなものである。


 なのに……

 何だこの状況は?


「お願い!!もう一度だけ!!もう一度だけでいいから私に御慈悲を!!」


 幸に『すぐに私のアパートに来てください』とメールをもらい、休日の午前中、本来なら家でボケ~っとしている時間ではあったが、何事かと思い急いで幸の住んでいるアパートに駆け込んですぐの出来事だった。


 異世界から来たというサクラちゃんに、有無を言わさず問答無用で土下座されたのである。


「何だよコレ?何がどうなってんだよ幸?」


 とりあえず私を呼び出した張本人に問いかける。


「えっと……どうやら先々週くらいに裕美様にもらったお金を使い果たしたらしく……」

「働けニート!!」


 幸の返答を聞いて、咄嗟に即答した。


「じゃあ働ける場所を紹介してよ!」


 サクラは土下座の体勢を崩すことなく、顔だけを上げて叫ぶ。


「私、戸籍ってのが無くて、住民票ってのも無いし国民健康保険ってのにも入ってないし……身分を証明する物が何もなくて働けないのよ!それどころか、出入国在留管理庁ってとこに連れていかれそうになって大変だったんだから!」


 異世界から勝手に来た場合って不法入国者扱いになるのかな?


「一回、履歴書ってのを書いて持っていったんだけど、経歴ってとこに何も書けなかったから、私の世界での経歴書いたら精神科医紹介されたりで……私はどうすればいいのよ!!」


「もうそれ異世界帰れよ!!」


 むしろ何で、そんな苦労してまでこの世界にいようとするんだよ?

 ポチ倒したいってのは理由のひとつなんだろうけど、一旦出直してくればいいんじゃねぇの?


「……帰れないのよ」


 サクラはボソっとつぶやく。


「帰りたくても帰れないのよ!魔王がこの世界来た装置を作動させてこっち来たのはいいんだけど、異世界に移動するのは人だけで、装置はむこうの世界に残っちゃったのよ」


 何だよその欠陥品は?


「その装置ってのはどんな馬鹿が作ったんだよ?って事は、その魔王ってのも帰りたくても帰れなくなってんのか?」


 だとしたらポチ間抜けすぎるだろ。


「装置を作ったのは魔王よ。魔王はあの世界に退屈していたみたいだから、ハナッから帰る気がなかったんだと思う……それを考慮せずにウッカリ使っちゃったのは私のミスよ」


 そういやポチと戦った時に『あっちの世界で戦う相手がいなくなってつまらない』みたいな事言ってたかもな。


「それじゃあ……残る手段はホームレスだな」


 現実は非情である事をサクラにやんわりと伝える。


「いやあぁぁぁ!!せめて人間らしい生活を送らせて!」


 無理だろ?見た目が魔族寄りだったら何とかなったかもしれないけど、どっから見ても人間寄りで戸籍も永住権も持ってないとなれば、それしかないだろ。


「お願いします!せめて寝る場所だけでもお貸しください!もう毎晩のように公園や橋の下で強姦被害に遭う恐怖心に打ち勝ちながら寝るのは嫌なのよ!」


 衣・食よりも住を大事にすんのか。

 どんだけ怯えて暮らしてたんだよコイツ?


「安心しろ。サクラの世界がどうだったかはわからんが、日本はそこそこ治安がいいから、美咲や幸以外の人が毎晩立て続けにレイプされるような事件は起きないから」


「あの……裕美様、私と美咲さんを何だと思ってるんですか?」


 ん?私のおもちゃだと思ってるけど何か?


「まぁそれはともかくあきらめろ。寝床くらいなら提供してやりたいところなんだが、ウチは既にでっかいペットを一匹飼ってるんで無理なんだ」


「裕美様……ペットってもしかしてヴィグルさんの事言ってます?」


 似たようなもんだろ?


 ん?ヴィグル?

 ……ちょっと待てよ?

 ヴィグルはどうやってこの世界に来た?


「裕美様。サクラさん困ってるんですから、イジメるのはその辺にして助けてあげましょうよ」


「えっと……名前、幸さんでいいんだよね?ありがとう幸さん。お願い……私を助けて……」


 幸が助け舟を出し、サクラは土下座の向きを幸の方向に変えて、涙目で訴えている。


「仕事はバイトでも何でも、諦めずに探せばいつかは見つかるハズですから、それまでの間、私と一緒にこのアパートに住みましょう。幸いこのアパートは2DKなんで、荷物を入れるとちょっと狭いですけど部屋は空いてますから」


「幸さん……幸さん……本当に?本当にいいの?」


「ええ、ですからサクラさんも、がんばって仕事探してくださいね」


「うん……うん!私がんばる!!」


 何か私を差し置いて、どんどん話が進んでいくなぁ……

 まるで私が、サクラをイジメてただけのヒドイ奴みたいじゃん?


 サクラが元いた世界に帰れる可能性をせっかく思いついたってのに。


「とりあえず、今後の方針は決まりましたね……それでは、そろそろお昼になるのでご飯にしますか?」


「ごはん!?最近は夜にだけ一日一食しか食べてなかったから……昼にも食べられるなんて……」


 何か感極まって泣き出してるし……

 コイツ魔王を倒しに来たってのに、別のところでソレ以上に過酷な日々を送ってきてた感じだなぁ……


 ってか仮にポチを倒したとして、その後どうするつもり……というか、どうやって生活していくつもりなんだコイツ?


「ではサクラさん。せっかくなんで、サクラさんが食べたい物を作りますよ。何が食べたいですか?」


 なぬ?幸のやつパッとリクエストした物なんでも作れる系の女だったのか?

 私の嫁に欲しいな……


「えっと……それじゃあジャオンネリウが食べたいな」


 ……何だよソレ?

 あ、さすがの幸も固まってる。


「あの……えっと……異世界の食べ物はちょっとわからないんで、こちらの世界の食べ物を適当に作っちゃってもいいですか?」


「あ!そっか。ごめん、うん幸さんが作る物だったらなんでもいいよ」


 もうアレだな……

 サクラ完全に幸のヒモだな。


「そんなに品数はできませんけど裕美様も食べていきます?」

「いく!」


 もうアレだ……

 幸、嫁に来てくれ!


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