第六話 最新版魔法少女
朝起きて、夜に寝る。
何も変わる事のない、いつも通りの生活。
そんな当たり前に毎日続く日常が崩れる時というのは、いつでも突然やってくるものである。
そして崩れた日常がいつまでも続いていれば、それは新しい形の日常となる。
結局のところ、何が起こったとしても、当たり前の日常というものは、その字のごとく常に続く毎日の生活となり、崩れたとは錯覚であり、少し変化しているというだけで無くなる事は決してないのだ。
仮に人類が滅んだとしても、それは人類が滅んだ世界として、それが当たり前の世界の日常となる。
それは今の私にも同じ事が言えるだろう。
新しい魔法少女が現れれば、浮遊狐のウザさに耐えるのが日常となり、撃退した後では、魔王としての正体がバレないかどうかドキドキしながら学校に通うのが日常となる。
サクラの一件以来、特に何もないまま数日が過ぎ、サクラに渡した金がどれだけ残っているのか不安になる以外は特に何もない日常が続いていた。
そして、そんな日常が少し変化する出来事というのは、やはり何の前触れもなく突然やってくる……
「やっと見つけたッスよ!覚悟しろ魔族!」
それはケーキ屋ドゥースで、美咲・幸のいつもの面子で夕食前のティータイムをしていた時にいきなり来た。
ショートヘアの色素の薄目な髪をした、何か運動部にでも所属してそうな活発そうな少女が、幸を指差し不穏な発言をしてきたのだ。
この制服は隣町の学校の生徒か?この学校はたしかリボンの色で学年わかる仕組みだったな。……この色は一個下の学年かな?
「誰?さっちゃんの知り合い?」
「……いえ、たぶん初対面だと思いますけど」
この馬鹿二人は……
ただすっとぼけてるだけなのか?
こんな感じでくるパターンっていったら何となく予想できるだろ?
幸か不幸か、テラス席には私達以外は誰も座っていなく、人通りもほとんどなかった。
……いや、そのタイミングを狙ってたのか?
「あの?私に何か用ですか?あと私は魔族ではなくて名誉……」
幸が口を開いたその時、その少女は私達の目の前でいきなり変身した。
「おい!?馬鹿かお前!!?」
私が抗議の声を上げたと同時だった。
その魔法少女は広範囲に雷撃魔法を放つ。
咄嗟に防壁をはる幸。
私は何もしなくても、勝手に発動する自動防壁が防いでくれる。
「ぎゃあああぁぁぁ!!!」
防御手段を持たない、変身していない生身の美咲が叫び声を上げて椅子から転がり落ちてそのまま気絶する。
「魔族と一緒にいるんで、見た目でわからないだけで皆魔族かと思ったんスけど、一人はちゃんと人間だったんスね」
そんな理由で無差別攻撃したのかよ!?コイツ頭おかしいだろ?まずはサーチ魔法で魔力の有無を確認してから行動しろよ。
「心配しなくても威力は抑えてあるんで、気絶してるだけッスから安心して……」
「幸……やれ!」
少女のセリフの途中ではあったものの、問答無用で幸に命令する。
次の瞬間、幸は弾丸のようなスピードで飛び出し、少女の頭を掴むとそのまま地面に叩きつける。
さらにそのまま、さっきのお返しとばかりに雷撃魔法を直接たたきこむ。
「~~~~~~~っっ!!?」
声にならない叫び声をあげる魔法少女。
地面に横たわる魔法少女を放置して、幸は戻ってくると、美咲に回復魔法をかける。
「い……ってぇッスね。てか痺れてうまく動けねッス」
ワンテンポ遅れて、魔法少女が起き上がる。
「裕美様……私、多少は手加減しましたけど、一撃で戦闘不能にするつもりでやりましたよ」
マジか?って事は浮遊狐、今回の魔法少女けっこう当たり引いたのか?
でも、そんなに魔力高い感じはしねぇんだけどな?
「今度はこっちからいくッスよ!」
そう言って、その場から動く事なく、いくつもの炎弾を幸に投げつけてくる。
しかし、その攻撃は幸の防壁に弾かれ、全てあっさりと消える。
「っく!この猛攻に耐えるとは……けっこうやるッスね!」
猛攻?そんな激しかったか?
「裕美様……私、美咲さんの回復をメインでやってるので、防壁にはほとんど力入れてません……」
マジか!?って事は……
今回の奴って耐久力だけ特化してる感じなのか?
「はれ?あたし……なにが……あれ?」
そうこうしているウチに、回復魔法をかけられていた美咲が目を覚ます。
「よし。幸!あの魔法少女を殺しても構わねぇから戦闘不能にしとけ」
幸に一言命令をし、私はすぐ脇に置いてある自動販売機まで歩いていき、落ちているお金を拾うかのように下に手を入れる。
「今回は随分おかしな奴見つけてきたなぁ?初っ端で私を狙うとか度胸あんな?」
自動販売機の下から取り出した物体に話しかける。
「毎回毎回、サーチ魔法にはかからないように細工しているハズなのに、キミはどうやって僕の居場所を把握してるんだい?」
いつものごとくやってきていた浮遊狐が返答する。
「キミみたいな事にならないよう、今まで性格に難がありそうな子は避けてたんだけどね。もうそんなわがままも言ってられなくなったんで、今回は性格より実力を取らせてもらったんだよ」
いや、美咲とか幸とかも、ある意味十分性格に難があるだろ。
「それとキミを狙ったのは偶然だよ。サチを魔物と勘違いして狙ったところにキミが一緒にいた、というだけの話だよ」
って事は今回も魔王の正体が私だってことは黙ってる感じかな?
「だったらもう帰ってくれよ。ザコを相手してるほど暇じゃねぇし……この場で潰して構わないならともかく、そうじゃねぇならいきなりウチの四天王に手を出すのは止めてもらえねぇか?」
「四天王!?キミはサチが逆らえないのをいいことに、魔族としてサチをこき使っているのかい!?」
あ、これまた面倒臭いやつだ。
「かわいそうなサチ……いずれキミの手からサチを解放してみせるからね」
とりあえず鬱陶しいので、話は聞かずに、魔法少女の方へ浮遊狐をぶん投げる。
その魔法少女も、短時間で幸にボコボコにされたようで、仰向けになって倒れており、肩で息をしているようだった。
「クソっ……何でッスか!?何で勝てな……もがっ!?」
ぼやく元気はあるようだが、身体の方は満身創痍で動かす事ができないようであった。
そんな魔法少女の顔に、私がぶん投げた浮遊狐がぶつかる。
「き……狐さん?どうしたんスか?何でこんなところに?」
「今の状況はキミにとって不利すぎる!一旦引くんだノゾミ!」
へぇ~……今回の魔法少女の名前はノゾミちゃんってのか?
まぁ知ったところで、何か変わるわけじゃないだろうけど。
「それはわかるんスけど……ちょっとマズイッス。やられすぎて身体が上手く動かないんスよ」
「回復魔法なら僕も少しなら使えるから手伝うよ。このままここにいたら殺されてしまう!」
必死になる浮遊狐とノゾミちゃん。
いやぁ……お互いの温度差がすげぇな……
別に倒れて動けないスキなんてつかなくても、常に有利なんだから、動けるようになるまで待つし、もちろん、何がなんでもここで殺そうなんて思ってないから……
これアレか?
強敵と戦ってる感を出して自分に酔ってる感じか?
「別に焦る必要はないですよ……戦闘不能にするまでが私の仕事ですから、わざわざ追撃したりしませんから、ゆっくり回復でもなんでもしてください」
私が言いたかった事を幸が代弁する。
「馬鹿にしてるんスか?このまま私を逃がしたら、またアンタを狙ってやって来るッスよ」
「別に構いませんよ。アナタ程度の実力なら蚊ほども脅威を感じませんから」
面白いくらいに相手を煽ってるな幸。
「また私に挑みたいのでしたら、もう少し実力をつけてからきてください……お嬢さん」
幸はそう言うと、ノゾミの見えない角度で、ものすごい満足そうな表情になっていた。
……幸、もしかしてそのセリフ言いたかったのか?




