第五話 異世界から来た少女
「え?あの子が探してる魔王ってポチの事だったの?」
幸が有り合わせで作った手料理を夢中で食べている少女をよそに、隣の部屋でヒソヒソ話をする私達。
「いや、普通気付くだろ?あの格好ってポチが着てた服に似てるし、サーチ魔法使えないところもポチと一緒だし、魔力の残滓をたどって学校に行きついたって事はポチが辿ったルートだろ?」
「服は変身後の衣装と見分けつかねぇし、ポチがサーチ魔法使えないなんて今知ったし、学校通ってるのはむしろ裕美じゃん。『魔力辿って来た』って言って、学校来たんなら裕美追ってるだけなんじゃねぇの?」
美咲のくせに、生意気に反論してきやがった。
「まぁ、あの子が探している人物が裕美様でもポチでもかまいませんが、どうするんです?裕美様の口ぶりからするとポチの居場所を教えたりはしないようでしたが」
美咲に付き合っていたら、あのガキが飯食べ終わるまでに、どうするか方針決まらないと思ったのか、幸が話を進める。
ナイスアシストだ幸。さすがは私の眷属。
「何ていうか……実はポチが普段どこで生活してるのか私も知らなかったりするんだよね……アハハ」
ポチが何してるかはヴィグルが把握してるっぽいので、用事がある時はヴィグルを通せばどうにかなる感じだったので、ポチの居場所なんて全然気にしてなかったのが本音だ。
「ちょっと待てって!知らないのにさっきドヤ顔してたのかよ!?」
「今更『知らない』って言っても、魔王をかばって口をつぐんでるだけって思われるだけじゃないですか?」
まぁ……その通りだろうな。
「もういっそ、裕美が『私が魔王だ!』って自白すればいいんじゃねぇの?」
「やだよ。絶対面倒臭い事になるだろうし」
「裕美様のせいで、現状すでに面倒臭い事になってるんじゃないですか?」
結論がでないまま、時間だけが無駄にすぎていく。
「っていうか、あの子本当に魔法少女じゃなくて、異世界から来たの?」
美咲のやつまだ疑ってたのかよ。
「昨日ヴィグルが言ってた、新しい魔法少女ってのが、あのガキだったら辻褄が合うだろ?普通に考えて、初戦で四天王倒すなんてありえないんだから、ポチ倒すために異世界で訓練してこっちの世界来たって考えるのが一番納得いく仮定だろ」
まぁ初戦で四天王どころか、魔王瞬殺した私が言うのもなんだけど。
「でもそれでしたら、ポチを倒せる実力をつけたからやって来た事になりますよね?そうなると、すでに彼女を何とかできるのは裕美様くらいしかいないんじゃないですか?」
たしかにその可能性はあるかもしれないな……
「まぁ私が言ったのはあくまでも仮定の話だし、もしかしたら、ポチを倒せる『かもしれない』レベルでやってきてる可能性はあるだろ?それなら、ポチはもちろん美咲や幸でもギリ倒せるくらいかもしれないだろ?」
「何でそこまで頑なにアタシ等を使おうとすんだよ……裕美が戦うって選択肢はないのかよ」
だって面倒臭いし。それに……
「ここに来る前に、一撃であのガキやったの見てなかったのか?私はすでに戦ったんだから次はお前等の番だろ」
「戦ったというか、一方的にぶん殴っただけのようにも見えましたけど……」
幸がボソッと的確なツッコミを入れてくる。
「まぁアレだ!何はともあれ、さっきからあのガキの固有名詞がわからずにややこしい感じになってるから、まずは名前を聞いてみようじゃないか」
適当に話題をそらしてみる。
「それには賛成です。本名をちゃんと名乗るかどうかは疑問ですが、名前を聞けば異世界人かどうか判明するかもしれませんしね」
「よっしゃ!じゃあ裕美、賭けようぜ。あの子が魔法少女か異世界人か?」
いい度胸だ!
「面白れぇ……だったら負けた方が、あのガキと戦うってのでどうだ?」
「ちょっ!?何でそんな危険な賭け内容になってるんですか?もっとこう……ジュース奢るとかそんな程度にしておきましょうよ」
小学生の賭け事ごっこかよ。
「危険って事もないだろ?魔法少女にしろ異世界人にしろ、魔王に敵対してる時点で、いずれは戦う相手なわけだから、誰があのガキ潰すかを決めるのも大切だろ?」
「う……たしかにそうなんですけど……」
私の反論に幸は口ごもる。
「裕美様が普通に戦うって事は、さっきみたいに不意をついて一発ぶん殴るだけじゃなくて、ポチと戦った時みたいに、相手をじわじわといたぶる戦い方をするって事ですよね?」
「まぁ……たぶんそうだな」
下手したら、ポチの時よりもひどい事になる可能性もあるな。
その時の私の気分次第だな。
「……わかりました。じゃあ裕美様が賭けで負けた時は、裕美様の代わりに私が戦います」
優しいこったな。
でもわかってんのかな?
あのガキの心を折るような勝ち方しないと、何度でも挑んでくるんだぞ?
しかも負ければ、後に控えてるのは私なんだから結局は同じ結果になるわけで……
いや、そうとも限らないか。
あのガキが異世界人なら、標的になってるのはポチだろうから、ポチに勝てたら満足して帰る可能性もあるのかもな。
もしくは、ポチが既に私の軍門に下ってるって知って、私に挑んでくるか……
まぁその辺は、その時になってみないとわからんな。
「幸がそうしたいならそれでいいぞ。まぁそっちの方が私は楽できるからいいけどな」
私がそう返答すると、幸は『何でこんな事になっちゃったんだ……』という表情を浮かべながらため息をつく。
……だったら、こんなガキにトラウマができる事を無視してほっとけばいいじゃん。
まぁそれができないから面倒臭い事に首を突っ込むハメになったんだろうけどな。
「話はついた?アタシとしては、ちゃんと賭けの代償を払ってくれるならどっちでもいいんだけどな」
コイツ何賭けに勝った気になってんだ?
「うし!じゃあさっそく名前聞きに行くか!」
部屋の隅から立ち上がり、隣の部屋へと怒鳴り込みに行く。
「オラぁ!そこの飯食ってるガキ!お前名前なんてんだ?」
「げがふッ!!?ゲホ!ゲホッ!?」
ちょうど味噌汁を啜ったタイミングで声をかけてしまったらしく、驚いてむせるガキ。
落ち着いてコチラを振り向いたガキは、涙を浮かべながら、鼻から味噌汁を垂らしていた。
「……サクラ・ヒイラギよ」
ボソッとつぶやき、再び味噌汁をすすりだす。
っていうか、まさかの和名!?
その展開は予想してなかったわ……結局どっちなんだ?
「ほらみろ。その名前はやっぱ異世界人じゃないだろ?賭けはアタシの勝ちだな」
小声で美咲がつぶやく。
「いや!まだそうと決まったわけじゃないだろ。いいか、よく見てろよ」
私はそう言って、ポケットから一万円札を取り出し、ガキ……改めサクラに近づく。
「ほれ、これ貸してやるよ」
お金をサクラに向かって差し出す。
「……この紙は何?」
その発言を聞いた瞬間、美咲の方を向き『どうだ!』という表情を浮かべる。
美咲は視線をそらしながら小さく舌打ちをしていた。
「金だよ。知らないのか?腹減ってぶっ倒れるって事は、金持ってねぇんだろ?とりあえずこれだけあれば数日は食いつなげるから大事に使えよ……もしかして使い方わからんか?教えてやろうか?」
「バ……馬鹿にするな!私の世界にだって金銭をやりとりするシステムくらいあったわよ!……でもお金はありがたく使わせてもらうわ。ありがとう」
よし!完璧な発言いただきました!
「ん?って事はお前、異世界から来たのか?」
「『お前』じゃない!サクラだってさっき名乗ったでしょ。ともかく、異世界から来たってのは気付いてなかったの?てっきりわかってるものかと……」
よっしゃ!わかってたけど、賭けは完璧に私の勝ちだな。
「どうだ美咲!やっぱコイツはポチを追って来た異世界人だろ!」
美咲にむかって勝ち誇る。
美咲は耳をふさいで、聞こえないふりをしている。
「…………ポチ?」
サクラが怪訝そうな顔をする。
「ん?お前ポチを追って来たんだろ?」
「え?誰かのペット?私が追ってるのは魔王で……」
「いや、だからその異世界から来た魔王の名前」
それ以外に言いようがないだろ?だって本名教えてもらってないし。
「えっと……とりあえず、食事とお金はありがとう。本当に助かったわ。でも、そのポチってのはたぶん別口の魔王だと思うんで、私はまた情報収集に戻るわ。違ってたけど情報提供感謝するわ。また些細な情報でもいいからわかったら教えてね」
そう言い残して『もうここにいるだけ時間の無駄』といった感じで、そそくさと玄関から外へ出ていく。
「あ~……これってアタシはとりあえずは戦わなくてもよくなった感じなのか?」
「そうだな……あのサクラってガキが自力でポチまでたどり着くまでは保留でいいんじゃねぇの?」
「町で偶然すれ違う、ぐらいの奇跡が起きないとサクラさんポチにたどり着けないんじゃないですか?ポチと接点があるの私達だけなんですから……」
……食費一万円で足りるかな?
ポチの本名をガチで知らない事が、まさか戦い回避につながるとは夢にも思わなかったわ……




